特集・コラム

映画のとびら

2019年6月28日

ホットギミック ガールミーツボーイ|新作映画情報「映画のとびら」#015

#015
ホットギミック
ガールミーツボーイ
2019年6月28日公開


(C)相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会
レビュー
刺激的な映像演出にドキドキが止まらない

 気鋭の映画作家・山戸結希の監督、乃木坂46の堀未央奈の主演で描く恋愛物語。『Betsucomi』(小学館)で2000~2005年に連載された相原実貴のコミックが原作。

 主人公は、東京都内の集合マンションに住む女子高生・初(はつみ/堀未央奈)。ちょっと引っ込み思案な彼女をめぐって、3人の男性がアプローチをかけてくる。ひとりは初の弱みを握って彼女を奴隷扱いする同じマンションの同級生・亮輝(りょうき/清水尋也)、ひとりはモデルとして芸能活動を続ける幼なじみの梓(あずさ/板垣瑞生)、そしてもうひとりは初の3歳上の兄・凌(しのぐ/間宮祥太朗)。それぞれへの思いの中で、彼女がどういった答えにたどり着くのか。その揺れる心の顛末が描かれていく。

 少女コミック原作らしい設定と展開。マンションという舞台ではあるが、一種の「ひとつ屋根の下の物語」と見ていい。恋のさや当てという物語の骨子も大きな新味はない。やはり目を引くのは、山戸結希という作家性の強い演出家から放たれる映像センスだろう。多面的に表情をカメラでとらえながら、凝ったモンタージュでそれらの素材を編み直す。そして、そんな刺激的な映像に洪水のような台詞やモノローグを重ねる。すでに同作家の個性を知る熱心な映画ファンには、おなじみの手法、仕掛けだが、交差路を立体的な人物紹介に昇華させた導入部、マンションの特殊な構造を生かしたドローン映像など、趣向と工夫を凝らした現場努力が随所ににじんで飽きさせない。これが最初の山戸結希体験となる観客には、恐らくどの場面のどのカットも目に楽しく、収まることのないドキドキの中で2時間を過ごせるのではないか。

 初を演じる堀未央奈は、これが映画初出演にして初主演。普段の華やかなアイドル活動とは一転、地味でフツーの女子高生を魅力的にこなしている。男子を演じる3人の男優陣も、それぞれの個性を真摯に見切ったキャスティング。通向けともいえるかもしれない。映像の技だけに溺れぬ気骨が映えてすがすがしい。

 客層としては、十代の女性、若いカップルを狙った作品。主人公の目線、心情がドンピシャにハマる観客も多いだろう。それ以上に、昨今、巷にあふれる少女コミック映画化作品の中ではズバ抜けて異形の仕上がりであり、ある意味、どんな年齢層にも訴えかける感性の美がここにはある。山戸結希の今後を占う作品として、あるいは山戸結希という作家に追いつく好機として、ぜひとも試しておきたい一本だ。

原題:ホットギミック ガールミーツボーイ / 製作年:2019年 / 製作国:日本 / 上映時間:120分 / 配給:東映 / 監督・脚本:山戸結希 / 出演:堀未央奈、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗、桜田ひより、上村海成、吉川愛、志磨遼平、黒沢あすか、高橋和也、反町隆史、吉岡里帆
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(C)ジョージ朝倉/講談社 (C)2016「溺れるナイフ」製作委員会
青春ROMANCE
タイトル 溺れるナイフ
製作年 2016年
製作国 日本
上映時間 111分
監督 山戸結希
出演 小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅、上白石萌音、志磨遼平、斉藤洋一郎、市川実和子、嶺豪一、堀内正美、ミッキー・カーチス

山戸結希作品を観よう

 上智大学在学時代から才気を炸裂させた山戸結希(1989年、愛知県生まれ)は、まず大学3年のときに作った『あの娘が海辺で踊ってる』(2012)で第24回東京学生映画祭の審査員特別賞を受賞。《MOOSIC LAB》シリーズの一本として製作された短編映画『おとぎ話みたい』(2013)はテアトル新宿のレイトショーで動員記録を更新し、続く『5つ数えれば君の夢』(2014)で初の長編商業映画を完成させた。

 広く注目を集めたのは、ジョージ朝倉原作の実写映像化作品『溺れるナイフ』(2016)だろう。小松菜奈、菅田将暉を主人公カップルに配した同作品は60万人以上の観客動員を果たすヒットを記録。業界内外から、いよいよ熱視線を浴びる映像作家になった。

 基本的に「女の子」を主人公にした思春期、青春期の物語を現在までに撮り続けている。劇中で刻まれる少女の葛藤に同世代の観客は共感し、とりわけ『溺れるナイフ』にはクチコミでどんどん観客が劇場に押しかけた。渋谷の映画館で同作品を鑑賞した筆者も、映画館に友人と連れ合って「話題の確認」に訪れた多数の女子高生を目撃している。彼女たちの「確認」が「共感」と「感動」に変わっていく様は確かに鮮やかだった。山戸結希は現在、確かに同時代の女の子たちの代弁者になっている。

 ちなみに、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019)の公開にあわせて、日本映画専門チャンネルでは山戸結希作品特集の傍ら、彼女の脚本・監督、堀未央奈の主演による限定特典映像『映画の女の子、の依拠する三角関係に差し当たって』も放映する。堀は白子、三子、黒子の三役を自らこなし、4幕で構成された映像の中で「映画をめぐる自問自答」を瑞々しく披露。映画を気に入った人、山戸結希作品の世界観に惚れ込んでいる向きには、ちょっと目にしておきたい、もうひとつの「最新作」である。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。