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映画のとびら

2019年8月30日

ラスト・ムービースター|新作映画情報「映画のとびら」#024

#024
ラスト・ムービースター
2019年9月6日公開


(C)2018 DOG YEARS PRODUCTIONS, LLC
レビュー
バート・レイノルズの笑顔に心を打たれる

 昨年9月6日に世を去った名優バート・レイノルズが最後に主演した長編映画。往年のハリウッド・スターが田舎の手作り映画祭に参加したことで巻き起こる騒動を笑いと温もりの中に描く。老スターをレイノルズが演じ、アダム・リフキンがオリジナルで脚本を書き下ろし、自ら演出に当たった。

 かつてハリウッドで人気を博したアクション・スター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)も、今や老境に差し掛かり、わびしいひとり暮らし。そんな彼のもとに、ある日「国際ナッシュビル映画祭」から招待状が届く。ヴィックに生涯功労賞の授与をという同映画祭は、過去の受賞者としてロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、クリント・イーストウッドらの名前まで持ちだしてきた。「恐れずに行け」と友人の元俳優ソニー(チェヴィー・チェイス)に背中を押されたヴィックが旅客機に乗ると、用意された席はエコノミー、ナッシュビル空港の送迎に現れたのは面倒くさそうな態度丸出しのチャラ娘(アリエル・ウィンター)。映画祭の会場に至っては、安酒場の一角に赤カーペットを敷いただけ。「これは負け犬の映画鑑賞会」だと憤慨し、ロサンゼルスへ戻ることにしたヴィックだったが、空港への道すがら、同じテネシー州には最初の妻との思い出の地でもある故郷ノックスビルがあったことを思い出すのだった。

 映画は、バート・レイノルズが過去に出演したテレビ番組の映像から始まる。無論、そこで紹介される名前は物語上、ヴィック・エドワーズにすり替えられているのだが、タイトル直後には無造作なほど不機嫌なレイノルズのアップが登場。劇中では、レイノルズの主演映画である『脱出』(1972)や『トランザム7000』(1977)の映像を使い、レイノルズとヴィックを合成共演させるという妄想場面まで用意される。つまり、名前こそ別名、物語も架空であるが、この作品ではバート・レイノルズという俳優の肖像と重ねることが愚直なほど醍醐味のひとつになっており、レイノルズの人気絶頂期を同時代で体験した映画ファンなどはもはや心穏やかではいられない。それは人気俳優の黄昏を嘆く悲哀などではなく、単純に主人公の背負ってきた人生の重みに素直に共感できるという一点における高揚感である。たった2シーンとはいえ、すっかり頭が白くなった喜劇俳優チェヴィー・チェイス(『ファール・プレイ』『サボテン・ブラザーズ』)がヴィックの友人役で登場し、レイノルズと与太話を繰り返すだけでも感涙ものといっていい。

 バート・レイノルズは1970~80年代において、クリント・イーストウッドとドル箱スターの地位を争うほどの人気スターだった。アクション・スターとしての彼の活躍も振り返れば遠い過去。映画の序盤、ヴィックが帰宅した際、運転席から降りず、マジックハンドで郵便受けから封書を取り出す場面など、笑っていいのやら泣いていいのやら、妙に戸惑うというのも寂しい現実だが、ではそんなレイノルズの栄光を知らない若い観客に鑑賞不能な作品かといえば、全くそうではなく、ひとりの老俳優のポートレートとしてもこの作品はユーモラスで味わい深い一編となっている。アテンド役のチャラ娘との衝突と和解、思い出の地を訪ね歩く主人公と最初の妻の再会、悔恨と自戒の中で悟りにも似た心の平安を取り戻していく終盤。いずれも優しい笑いと情感にあふれており、人情喜劇としてほどよい仕上がりだ。

 監督のアダム・リフキンは、これまた知る人ぞ知る喜劇の名手。KISSの高校生ファンを描くカルト喜劇『デトロイト・ロック・シティ』(1999)や定点観測喜劇『LOOK』(2007)でなじみの映画ファンもいるだろうが、個人的には背中から手が生える怪作『ワンダーアーム・ストーリー』(1991)、チャーリー・シーンが車で逃げまくる快作『ザ・チェイス』(1994)の人である。今年53歳。ここへ来て、このような心温まる人情劇を撮るとは思いもしなかったが、例によって語り口は巧妙、喜劇センスに衰えはない。映画のラスト、バート・レイノルズがカメラ目線で浮かべる表情に、すべてのゴールがある。

 2019年9月6日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
原題:The Last Movie Star / 製作年:2017年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:104分 / 配給:ブロードウェイ / 監督・脚本:アダム・リフキン / 出演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター、クラーク・デューク、エラー・コルトレーン、ニッキー・ブロンスキー、チェヴィー・チェイス
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Copyright (C) 1974 Long Road Productions. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2004 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ACTIONSPORTSCOMEDY
タイトル ロンゲスト・ヤード
(原題:The Longest Yard)
製作年 1974年
製作国 アメリカ
上映時間 121分
監督 ロバート・アルドリッチ
出演 バート・レイノルズ、エディ・アルバート、エド・ローター、マイケル・コンラッド

バート・レイノルズ作品を見よう

 代表作といっても枚挙にいとまがないバート・レイノルズだが、とりあえずジョン・ブアマン監督の『脱出』(1972)とロバート・アルドリッチ監督の『ロンゲスト・ヤード』(1974)はまず押さえておきたいところか。いずれも、レイノルズの男性的な魅力が炸裂した傑作。

 盟友ハル・ニーダム監督との『トランザム7000』(1977)、『グレートスタントマン』(1978)、『ストローカーエース』(1983)はアクション・スターとしての軽快な彼が楽しめる。そのニーダムとは『キャノンボール』(1980)というオールスター公道レース映画もある。出演者にジャッキー・チェン、ファラ・フォーセット、ロジャー・ムーアという名前を並べた同作品は、日本では1981年暮れに公開され、同時期にあのスティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)を超える大ヒットを記録したのだから驚きだ。

 人気スターとして共に時代を代表したクリント・イーストウッドとはリチャード・ベンジャミン監督のアクション喜劇『シティヒート』(1984)で共演している。イーストウッドが無骨な刑事役、レイノルズが少々軽薄な探偵という役どころ。また、レイノルズには監督作品もあり、その『ゲイター』(1976)、『ジ・エンド』(1978)、『シャーキーズ・マシーン』(1982)、『スティック』(1985)などは、いずれも彼のこだわりを知るには一興の作品群だろう。

 個人的には、ジェリー・ゴールドスミスの音楽が冴える西部劇『100挺のライフル』(1968)、私立探偵もの『シェイマス』(1972)、元刑事もの『レンタ・コップ』(1987)の3作品が悪くなく、喜劇ということではビル・フォーサイス監督のセンスがあまりにも素晴らしい金庫破り映画『ブレイキング・イン』(1989)が見逃せないところ。

 映画賞にはあまり縁のない人だったが、晩年にポルノ映画の監督役で出演した『ブギーナイツ』(1997)では米英アカデミー賞の助演男優賞候補をはじめ、数々のスポットライトを浴びている。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


【小田急沿線での上映予定】

あつぎのえいがかんkiki(2019/9/7~9/20)

*『ラスト・ムービースター』は、TOHOシネマズ海老名、イオンシネマ、ユナイテッド・シネマでの上映はございません。(2019年8月30日現在)