特集・コラム

映画のとびら

2019年10月4日

ジョーカー|新作映画情報「映画のとびら」#029

#029
ジョーカー
2019年10月4日公開


(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
ジョーカー レビュー
コミック枠という「化粧」を生かした異色のシリアス・ドラマ

 DCコミックから生み出された人気悪役の誕生秘話をオリジナルの着想で描く人間ドラマ。主に『ハングオーバー!』シリーズ(2009-2013)などの喜劇畑で活躍するトッド・フィリップスがスコット・シルヴァーとともに脚本を編み、監督も務めた。バットマンの仇敵として知られるタイトルロールに扮するのはホアキン・フェニックス。フィリップスの要望により、体重を24kg落として撮影に臨んだという。あくまでジョーカーという人間の成立が主題であり、バットマンとの対決などが描かれるわけではない。

 後のジョーカーことアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)が自らピエロの化粧を施し、ゴッサム・シティの路上で楽器店の客引きをしているところから物語は始まる。ピエロの派遣会社で働いているという設定。仕事中は悪ガキどもにからかわれ、足蹴にされる主人公は、7種類の薬を飲みながら、不況に耐える日々。父親はすでになく、仕事仲間からもからかわれてばかり。共に暮らす母親(フランセス・コンロイ)と人気テレビ司会者マレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)の番組を見ては、芸人になる夢を募らせ、一時の幸福を味わうのみだった。やがて、自治体の財政引き締めから薬は処方されなくなり、仕事先からも解雇を言い渡されたアーサーは徐々に行き場を失っていく。

 ゴッサム・シティという架空の都市を舞台にしている部分は原作どおり。ただし、時代設定は1981年。何かにつけ不用意に笑いだす主人公は、実は脳に損傷があるためという理由まで具体的につく。無鉄砲に暴れるだけの酔狂な快楽破壊者ではない。そんな社会の弱者が周囲から疎外され、胸がつぶれるような自身の出自、過去を知るに及び、いよいよ精神的に追いつめられていく、という展開。強いて類似キャラクターを探すなら、暗黒的背景において『バットマン・リターンズ』(1992)のペンギンあたりが近いか。

 主人公が常軌を逸した行動に躍り出るまでの過程に、ほぼ救いはない。最初から最後まで真っ暗。母がつけたニックネームが「ハッピー」というのも痛々しい。笑うに笑えない過酷な状況が続く中、笑っているのは主人公だけだ。一種の難病もの、社会問題映画と、これをとらえてもおかしくはない。コミック原作の世界観、キャラクターという「化粧」を使って、現実感を帯びた社会派ドラマをにじませる趣向。そのあたりに、この映画の新味は大きくあった。アーサーはある瞬間に叫ぶ。「僕の人生は喜劇だ!」と。

 大都会の孤独という共通項から、アーサーを『タクシードライバー』(1976)の主人公トラヴィスと重ねる観客もあるだろう。主人公の精神的恐慌と権力からの圧迫に『カッコーの巣の上で』(1975)を連想する向きもあるかもしれない。ロバート・デ・ニーロの役柄に『キング・オブ・コメディ』(1983)へのオマージュを嗅ぎ取る映画ファンも大勢いるだろう。ただし、アーサーの背後にベトナム戦争はなく、物語も主人公が精神病院に閉じ込められるお話ではない。無論、人気コメディアンを誘拐してテレビ出演をかなえようとする喜劇でもない。恐らく1970~80年代にかけての映画群に、この物語を編んだ人間の記憶や思い入れが多分にあり、それがにじみ出た結果ではないか、との推察が可能となるのみである。

 そもそも1981年という時代設定も理由が定かではない。むしろ、主人公をめぐる環境、運命は、非常に現代的な題材に映る。ただ、劇中では『ミッドナイトクロス』(1981)が映画館で上映されていたりする。どうやら、この『ジョーカー』の世界にはブライアン・デ・パルマ監督もジョン・トラヴォルタも存在しているようだが、避けようのない悲劇が待ち受けているという一点において同サスペンスの引用はとりあえず象徴的であろう。単なる年代特定の素材に終わっていない。

 役者中心に映画を見る向きには、ガリガリの体でアーサーを演じたホアキン・フェニックスはきっと衝撃的。主人公の母親がバットマンの父親トーマス・ウェイン(ブレット・カレン)のもとで働いていたという設定、およびバットマン誕生の有名な事件にもふれるという配慮などは、コウモリ男作品ファンにはうれしいところだろうか。第76回ヴェネチア映画祭ではグランプリに相当する金獅子賞を獲得している。

原題:Joker / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:122分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督:トッド・フィリップス / 出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ (R15+)
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and (C) DC Comics. (C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
ACTIONSUSPENSE
タイトル ダークナイト
(原題:The Dark Knight)
製作年 2008年
製作国 アメリカ
上映時間 152分
監督 クリストファー・ノーラン
出演 クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ヒース・レジャー、ゲーリー・オールドマン、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール、モーガン・フリーマン

長い歳月の中で人間的解釈が掘り下げられた名物怪人

 ジョーカーというキャラクターは1940年、漫画版『バットマン』の一挿話に初めて登場した。コウモリ男物語きっての悪役として、その後も登場し続け、さまざまな誕生物語が描かれている。1966年に発表された劇場版、およびテレビシリーズではシーザー・ロメロが演じているが、大きくその存在が際立ったのはティム・バートン監督作品『バットマン』(1989)からだろう。その滑稽かつクレイジーなたたずまいはジャック・ニコルソンの怪演も相まって、一躍ポップ・カルチャー的人気を博した。

 怪人的酔狂から人間的狂気へと発展的解釈が加えられたのは、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(2008)において。演じるヒース・レジャーの急死という衝撃も後押しとなり、無軌道なテロリスト然としていながら、同時に不思議な悲愴的魅力を放つことになった。

 コミック・キャラクターを人間的解釈で見つめ直すという仕掛けは21世紀映画界のトレンドのひとつであるが、ひとつの悪役が数十年かけてこれほど掘り下げられたというのも面白い。コミック原作枠でシリアスな物語展開を徹底的に行ったという点で『ジョーカー』はアイコン化する可能性があり、とりわけダークな気分が傾向として強いDCコミックからは今後も一風変わった誕生秘話製作が続くかもしれない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。
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