特集・コラム

映画のとびら

2019年10月25日

閉鎖病棟―それぞれの朝―|映画のとびら #032

#032
閉鎖病棟―それぞれの朝―
2019年11月1日公開


©2019「閉鎖病棟」製作委員会
閉鎖病棟―それぞれの朝― レビュー
弱者の夜と朝を見つめる生真面目で優しい心

 人気作家にして現役の精神科医でもある帚木蓬生が1995年に発表し、第8回山本周五郎賞を獲得した同名小説の映画化。原作に惚れ込んだ平山秀幸監督が自ら脚本を仕上げ、小説とは視点を変えて元死刑囚を基点とした疑似家族の感動作としてこれをまとめた。

 長野県のとある精神科病院で、車椅子生活を送る初老の男。彼、梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)は、妻と母の殺害で絞首刑を執行されるも、生き延びてしまったという過去を持っている。普段は陶芸をして穏やかに過ごしていた彼を、患者の塚本中弥(チュウさん/綾野剛)や女子高生の島崎由紀(小松菜奈)は慕ってやまない。チュウさんは幻聴に悩まされて自主入院をしており、由紀は父親からDVを繰り返されたことで心を病む人間だった。そんなある日、ヤクザの患者・重宗(渋川清彦)により由紀が深く傷ついてしまう事件が勃発。チュウさんから事態の真相を聞いた秀丸は、強い決心を胸に重宗に近づいていく。

 カメラの動き、画角、モンタージュなど、映像面の演出はいずれも手堅く、どこかせわしいイマドキの作品からはほど遠い。語り口がまた王道であり、各場面に即したナレーション/モノローグの挿入はもちろん、主要人物3人の背景についても回想形式でじっくり、念入りに説明する。丁寧を超えて生真面目というほどのその手際には『愛を乞うひと』(1998)や『必死剣 鳥刺し』(2010)などの平山監督作品に感銘を受けている観客に恐らく受け入れられやすく、弱者をめぐる物語への優しい配慮となって輝いた。

 7kgほどの減量を試みて撮影に臨んだという笑福亭鶴瓶は、生一本の人物として秀丸を好演。チュウさん役の綾野剛は一見、健常者、しかし衝動的に発作を起こす青年を、由紀役の小松菜奈は本当の家族よりも院内の仲間に「家族」を見いだそうとする少女を、それぞれ平山演出に無理なく演じる。

 脇の出演陣もいい。精神科病院の看護師長を小林聡美、チュウさんを慕うカメラ小僧を坂東龍汰、医師役に高橋和也、外泊の多い患者・サナエ役に木野花、感情の起伏が激しい患者・キモ姉役に平岩紙、由紀の母親・佳代役に片岡礼子、チュウさんの母親・富子役に根岸季衣、秀丸の弁護士・酒井役にベンガルなど。

 平たく言えば、家族との断絶を余儀なくされ。人間不信にまみれた人間たちが新たな信頼の感情を回復するまでの物語。明快極まりない視点と構成で語られるドラマは、不安と哀切の風をたなびかせながら、確かな手応えのクライマックスを経て、ささやかな希望をつなぐエピローグへと流れ込んでいく。仮に平山演出になじめなかったとしても、山場の裁判所で由紀が秀丸にかける魂の声には、きっともらい泣きを誘われるだろう。明けない夜はない。それぞれにどんな朝が訪れるのか、確かめる価値はある。

 11月1日(金)全国ロードショー
原題:閉鎖病棟―それぞれの朝― / 製作年:2019年 / 製作国:日本 / 上映時間:117分 / 配給:東映 / 監督・脚本:平山秀幸 / 出演:笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈、坂東龍汰、平岩紙、綾田俊樹、森下能幸、水澤紳吾、駒木根隆介、大窪人衛、北村早樹子、大方斐紗子、村木仁、片岡礼子、山中崇、根岸季衣、ベンガル、高橋和也、木野花、渋川清彦、小林聡美 (PG12)
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

©2019「楽園」製作委員会
DRAMASUSPENCE
 10月18日(金)全国ロードショー
タイトル 楽園
製作年 2019年
製作国 日本
上映時間 129分
配給 KADOKAWA
監督・脚本 瀬々敬久
出演 綾野剛、杉咲花、村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすか、石橋静河、根岸季衣、柄本明、佐藤浩市
公式サイト https://rakuen-movie.jp/

絶望の先に「楽園」は見いだせるのか

 綾野剛が心の弱い人間を的確に演じるということでは、こちらの作品もあわせて観ておきたいところ。

 吉田修一がそれぞれ2015年、2016年に発表した短編『青田Y字路』『万屋善次郎』(短編集『犯罪小説集』所収)をもとに、映画独自の登場人物を絡めて編まれた人間ドラマ。『アントキノイノチ』(2011)、『64-ロクヨン- 前編/後編』(2016)の瀬々敬久が監督と脚本を務めている。

 綾野は、少女誘拐事件の疑いをかけられる外国出身の青年・中村豪士(たけし)役。うまく感情表現ができない彼は町民から追いつめられ、やがて行き場を失っていく。この顛末を見届けるのが、映画のもうひとりの主人公・田中善次郎(佐藤浩市)。町のためによかれと思った養蜂による村おこし事業が曲解され、村八分の憂き目に遭う彼もまた、豪士同様、自分の居場所を失っていく。そのふたりに、失踪した少女の友人女性・湯川紡(つむぎ/杉咲花)が絡み、作品のもうひとつの視点が加わるという構成。

 とある地方都市を舞台に、ふたりの男性が出口なしの窮地に追い込まれる人間ドラマ。犯人捜しをめぐるサスペンス/ミステリー的な側面はあるものの、その絶望的な状況描写は徹底しており、最終的に豪士、善次郎が迎える事態など、最近の話題作『ジョーカー』(2019)の負のスパイラルが生やさしく思えるほど。

 題名の『楽園』に希望を感じるのか、それともアンチテーゼとしてこれを受け取るのか。はたまた、現代社会に一片の救いを見るのか、失望を感じるだけなのか。観客に委ねられた判断は、物語以上に重い。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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