特集・コラム

映画のとびら

2020年1月17日

ラストレター|映画のとびら #043

#043
ラストレター
2020年1月17日公開


(C)2020「ラストレター」製作委員会
ラストレター レビュー
文字に宿る魂を信じる人のための物語

 長編映画デビュー作『Love Letter』(1995)から四半世紀。岩井俊二が再び「手紙」をめぐる物語をつむいだ。新たな舞台として選んだのは、自身の故郷、宮城県仙台市である。

 姉・未咲を亡くしたばかりの裕里(松たか子)は、未咲の娘・鮎美(広瀬すず)から未咲宛てに同窓会の案内が届いていることを知る。姉の死を知らせるために会への出席を決めた裕里だったが、会場では未咲と勘違いされ、さらに学生時代の初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と遭遇してしまう。鏡史郎は学生時代、未咲に思いを寄せていた人。その彼から現住所を手渡された裕里は思い切って、鏡史郎に手紙をしたためることにする。やがて始まった文通は、ふたりに特別な時間をもたらしていくのだった。

 手紙の交錯から思わぬ事態が登場人物を待ち受けるという形は『Love Letter』に近い。冬景色の小樽が主な舞台となった処女作に対し、こちらは夏の仙台に終始する物語だが、大切なひとの死を契機に、手紙という手段が選ばれるというあたりも同じ道を歩んでいる。

 「岩井監督のベスト盤的な作品にしようとした」と語るのは企画・プロデュースを担った川村元気だが、タイトルの近似も、その意味では狙いの定まった仕掛けであろう。同じ川村の企画・プロデュース作品『君の名は。』(2016)も、思えば新海誠監督の初期作品を総ざらえ、ないしは換骨奪胎したかのような仕上がりだった。岩井作品の魅力を詰め込もうとしたとき、『Love Letter』の作品構造が土台になることは、岩井作品に憧れすら抱く川村世代においては、もはや自然のなりゆきだったのかもしれない。

 いずれにしても、登場人物が手紙をしたためる動機、行動は、どこか強引であるからこそ、やがて強い思いを同時に運んでくる原動力にもなっている。思いを込めた文字がいかに相手の心を動かすか。その文字が人の手を介して手渡される行為がどれほど重いのか。岩井俊二という作家はきっとそれを今も頑なに信じている。いや、こんな「今」だからこそ、あえて信じたいと考え、川村の訴求にも乗ったのではないか。いわば、これは手紙をめぐる寓話。文字を大切にする人、文字に宿る魂を信じる人のための物語。アナログではあっても、決してアナクロではない。ちなみに、福山雅治演じる鏡史郎の職業も小説家だったりする。

 岩井作品初参加の広瀬すずは、未咲の少女時代と娘の二役。同じく初参加の森七菜は、これまた裕里の少女時代と裕里の娘役の二役。二役ということでは、『Love Letter』における中山美穂も二役だった。当代きっての若手美女や少女で映像の隅々を満たし、存分に観客の目を潤すあたり、これも見事に岩井流。「いいとこどり」の仕掛けは、あざといほどに目にも物語にも鮮やかだ。

 つまるところ、手紙をめぐる心の往来は、観客の胸にかつてのほろ苦い恋をよみがえらせ、切なくも優しい時間をもたらすラブストーリーとなった。恋愛好き、恋愛に憧れる向きが溜飲を下げる作品であり、ある種の特別な空間、時間が成立していることは間違いない。包み込まれるような柔らかな肌触り、視覚的にもおとぎ話のような温もりが漂っており、「照れ」さえも肯定される心地よさが確かにここにはある。

 1月17日(金)全国東宝系ロードショー
原題:ラストレター / 製作年:2019年 / 製作国:日本 / 上映時間:131分 / 配給:東宝 / 監督・脚本・編集:岩井俊二 / 出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)1995 FUJI TELEVISION NETWORK, INC. ALL RIGHTS RESERVERD.
ROMANCE
タイトル Love Letter
製作年 1995年
製作国 日本
上映時間 117分
監督・脚本・編集 岩井俊二
出演 中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、范文雀、中村久美、柏原崇、加賀まりこ

岩井俊二作品で個性を放った俳優たち

 映画『Love Letter』を形作るふたりの男女、中山美穂と豊川悦司のふたりも『ラストレター』に顔を出している。豊川は未咲の死の原因となる男、中山はその男と同居する女という設定。処女作と新作をつなぐ架け橋として、その登場はファンサービスを超え、なかなかに味わい深い。

 『ラストレター』で裕里を演じる松たか子も『四月物語』(1998)で岩井作品にはおなじみの人。姉のボーイフレンドであり、自身の初恋の人に姉名義で手紙を出すという行動に出る役どころも、彼女だからこそ成せた人物像ではないか。その裕里の夫役で登場するのは『シン・ゴジラ』(2016)や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2007-2020)シリーズの監督で知られる庵野秀明。岩井俊二は庵野の実写映画『式日 SHIKI-JITSU』(2000)に主演俳優として招かれており、今回はその「返礼」ともいうべきキャスティングといえる。漫画家という設定も庵野自身の個性を見込んでのものだろう。

 『Love Letter』に続く出演ということでは、ミュージシャンの鈴木慶一もそのひとり。今回は裕里の父親役。音楽畑からは小室等、水越けいこも加わっている。それぞれ素の気分がにじみ出ていて楽しい。

 岩井俊二の出世作となった作品ということでは、『Love Letter』の2年前に発表されているテレビ用短編『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1993)も押さえておきたいところ。ヒロイン役・奥菜恵に心をときめかせたのは劇中の少年たちばかりではない。こちらの作品は2017年に長編アニメーション化が果たされているが、その企画・プロデュースも川村元気である。

 岩井俊二は美少女をとらえるのもうまい。『花とアリス』(2004)は鈴木杏、蒼井優のかけがえのない一瞬をとらえた秀作。『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)では黒木華が輝いている。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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