特集・コラム

映画のとびら

2020年2月21日

野性の呼び声|映画のとびら #048

#048
野性の呼び声
2020年2月28日公開


©2020 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
野性の呼び声 レビュー
いつの時代も胸を打つ、そり犬の成長物語

 アメリカの作家ジャック・ロンドンが1903年に発表した同名古典小説を実写映画化した動物ドラマ。犬ぞりの元先導犬が孤独な初老の白人男性との交流を経て、野性への目覚めを徐々に感じていくという物語。初老の白人男性をハリソン・フォードが演じる。監督は『リロ&スティッチ』(2002)、『ヒックとドラゴン』(2010)など、アニメーション畑で才能を発揮してきたクリス・サンダース。サンダースにとって、これが初の実写映画演出作品となった。

 19世紀末。カリフォルニア州に居を構えるミラー判事(ブラッドリー・ウィットフォード)の飼い犬バック(セント・バーナードとスコットランド牧羊犬の雑種)は、やんちゃを主人に注意され、夜、屋外に追い出されることに。その隙を突いて、悪い犬販売業者によって誘い出されてしまうと、あれよあれよと船に乗せられ、カナダのユーコン準州まで送られてしまう。同地で売り飛ばされてしまったバックは、黒人郵便配達業者、傲慢な三人組と主人を変えてそり犬業務に就くが、過労がたたって瀕死の状態に。その窮地を救ったのが、息子を失ったショックからドーソン・シティまで流れてきたジョン・ソーントン(ハリソン・フォード)だった。ソーントンと信頼関係を結んだバックは、ソーントンの息子が夢を刻んだ地図をたよりに、狼や熊などの野生の動物が闊歩する奥地へと旅立っていく。

 これまで何度も映像化されてきたロンドンの原作だが、犬目線で最後まで描いた作品はおそらくほとんどない。たとえば、過去にケン・アナキン監督、チャールトン・ヘストン主演で映画化された『野性の叫び』(1972)の気分で見ようとすると、ちょっと戸惑う可能性がある。裏返せば、それだけ「動物映画」として原作に忠実な部分があるともいえ、同時にハリソン・フォード演じるソーントンの過去も彫り込まれるなど、人間ドラマを期待する観客としてもいい塩梅で楽しめる作品になっているかもしれない。

 動物映画となれば、犬の演技に目がいくわけだが、基本的に主演犬のバックをはじめ、動物類はほとんどCGI処理となっている。撮影現場でCG犬を演じていたのはシルク・ド・ソレイユのパフォーマーにして動物振付師のテリー・ノータリーで、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001-2003)、『キング・コング』(2005)でゴラムやコングを演じたアンディ・サーキスの役割と同じであろう。ハリソン・フォードは人間を相手にソーントンの芝居を続けていたわけである。結果、犬の動きは無駄なく明快となり、バックが物語の節々で感じる本能=野性の呼び声についても狼の黒影で象徴的に見せるなど、作劇的にかなりわかりやすい仕上がりとなった。

 原作にあるような悲劇的表現もかなり抑えられ、カテゴリーとしては家族向け映画の範疇にも入るだろう。もっとも、犬の演技は擬人化までデフォルメされておらず、台詞を話したりもしない。ハリソン・フォードによる状況説明のモノローグ/ナレーションはあっても、動物表現を幼児向けにしすぎない。そこは同じディズニー配給作品の実写版『ライオン・キング』(2019)などとは色合いを異にしているが、大元をたどれば、そもそもこの作品はディズニー製作作品ではなかった。正確には、クリス・サンダースが20世紀フォックス、及び20世紀フォックス・アニメーション社で進めてきた企画であり、2019年3月にディズニーが20世紀フォックス社を買収した結果、配給元が変更されたという次第。映画冒頭部の会社ロゴに注目しても面白いだろう。「20th Century Fox」が「20th Century Studios」に名称変更されている。この北方の物語においては、犬は登場しても、キツネは出てこないのだ。

 バックを可愛がる郵便配達人を『最強のふたり』(2011)のオマール・シーが明るくさわやかに演じているあたりも原作とはまた違った味わいのひとつ。原作同様、ゴールドラッシュ時代の自然環境や人間社会の厳しさを目にしたい向きには少々「砂糖」の多い作品かもしれないが、バックとソーントンの友情劇には微笑ましくも胸を打つ瞬間が折々にあり、少なくとも犬好きの観客にはたまらない情緒に満ちていることは確か。心根の優しいカリフォルニア生まれの犬が、数々の苦難を経てどのように大人の犬として成長していったのか。そのりりしくも誠実なドラマには、いつの時代も心が洗われる。

 2月28日(金)全国ロードショー
原題:The Call Of The Wild / 製作年:2020年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:99分 / 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン / 監督:クリス・サンダース / 出演:ハリソン・フォード、ダン・スティーヴンス、カレン・ギラン、オマール・シー
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C) Buena Vista Pictures Distribution, Inc. All Rights Reserved.
DRAMAADVENTURE
タイトル ホワイトファング
(原題:White Fang)
製作年 1991年
製作国 アメリカ
上映時間 109分
監督 ランダル・クレイザー
出演 イーサン・ホーク、クラウス・マリア・ブランダウアー、シーモア・カッセル

ディズニーが魅せる、もうひとつのジャック・ロンドン世界

 ジャック・ロンドンの文筆家としての出世作となった『野性の呼び声』は、無声映画時代から積極的に映像化が果たされており、テレビ映画、アニメーション作品などを含めると、十数本もの製作履歴が出てくる。これほどの人気の動物映画ながら、これまでディズニーが映画化を試みなかったというのも興味深い。もっとも、同じジャック・ロンドンが1906年に発表したもうひとつの代表作『白い牙(白牙)』については1991年に実写映画化がなされている。

 その邦題『ホワイトファング/白い牙』(1991/ビデオ題『ホワイトファング』)は、ランダル・クライザーの監督、イーサン・ホークの主演作品。同じくゴールドラッシュ期のアラスカを舞台にしており、父の遺志を継いで砂金の獲得を目指す少年が、大自然の狼と犬の混血種の狼犬と心を通わせていく物語。「白牙」と呼ばれ、闘犬として苦難の日々を送った後、温厚な判事に拾われ、心の安堵を得ていくという原作の内容からは大きく改変されているが、人間と犬の友情劇の感動は、ある意味『野性の呼び声』以上。ベイジル・ポールドゥリスの音楽に乗せて、ラストシーンでさわやかな涙に暮れる観客は多いはず。

 ディズニーは犬ぞりを題材にした映画も別途、製作している。その『白銀に燃えて』(1993/ビデオ題『アイアン・ウィル/白銀に燃えて』)は、亡き父が遺したそり犬たちとともに1万ドルの賞金がかかった長距離犬ぞりレースに挑むという物語。主演がショーン・アスティンの弟のマッケンジー・アスティン。主人公を見つめる新聞記者にケヴィン・スペイシー。レースの迫力もさることながら、本物のエスキモー犬が見せるそり犬たちの姿が感動的。オリジナル脚本による長編映画だが、どこかジャック・ロンドン的世界観を感じられるのもうれしいところ。ジョエル・マクニーリーの音楽も素晴らしい。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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