特集・コラム

映画のとびら

2020年8月21日

青くて痛くて脆い|映画のとびら #071

#071
青くて痛くて脆い
2020年8月28日公開


(C)2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
『青くて痛くて脆い』レビュー
自分のことしか考えない人たちへ

 小説デビュー作『君の膵臓をたべたい』(2015年刊行)で知られる人気作家・住野よるの長編第5作を実写映画化。それまで小中校生を描いてきた作者が、初めて大学生を中心に置き、とあるサークル活動をめぐる彼らの心の葛藤を新鮮なアングルで編んでいく物語。主人公の男子大学生・田端楓(たばたかえで)に『キングダム』(2019)、『一度死んでみた』(2020)の吉沢亮、ヒロインの秋好寿乃(あきよしひさの)に『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)、『楽園』(2019)の杉咲花。監督には、これがデビュー作『映画 妖怪人間ベム』(2012)に続く2本目の劇映画作品となる狩山俊輔が当たった。

 「人に近づきすぎないこと。人の意見を否定しないこと。そうすれば自分は傷つかない」――。そうやって外界から自分を守って生きてきた大学1年生・田端楓(吉沢亮)の前に現れたひとりの女の子。彼女、秋好寿乃(杉咲花)は、講義中に「みんなが望めば戦争は終わる!」などと、きれいごとのような理想論をぶち上げたかと思えば、楓の生き方を「チョー優しいじゃん!」と肯定もする風変わりな人間。何かと彼につきまとっては「世界を今より良くしたい!」「なりたい自分になる!」「世界を変える!」などと真っ直ぐすぎる夢を叫ぶ彼女にウンザリしつつも、「じゃあ、自分で作ってみたら?」と提案して生まれたのが自主サークル「モアイ」だった。養護施設で人形劇を演じるなど、サークルでの熱心な活動を通して秋好に楓も徐々に心を開いていくが、いつの間にか、サークルは企業とのコネづくりが中心の就活サークルへと変貌。そんなサークルの変化とともに、秋好も楓の世界から消えていったのだった。

 心の友と自身の居場所を失った男子学生、彼のサークル奪還をめぐる一種の復讐劇の立ち位置で映画は進む。なぜ理想主義サークルが俗物的なそれへと変貌したのか、なぜ共に夢をはぐくんでいた友は消えてしまったのか。謎解きのミステリー風味を醸す一方、主人公の「真実」が観客の動揺、混乱をいい塩梅で引き起こすことは間違いなく、「青春サスペンス」という宣伝コピーもうなずけるところか。ただし、結果として浮かび上がるのはイマドキの青春群像であり、悩める大学生のデリケートな葛藤劇。それがミステリー色、サスペンス色を帯びるのは、ひとえに凝った語り口による。それこそがこの作品最大の特徴であり、前半部における主人公の視点、言葉、行動がすべてトリックになっているといっていい。

 主演の吉沢は「今まで演じたことのない闇の抱え方、屈折の仕方をした役で、観た人から嫌われそうな役」と、楓を評しているが、事実、楓という主人公は内向きの劣等感にまみれた人物だろう。それこそドラえもんに泣き言を連ねる際の野比のび太どころではなく、まったく自分のことしか考えていない。そんな男がどう自分と世間に「おとしまえ」をつけるのか。物語の後半部は主人公のあがきを正視する人間ドラマへと前進し、美しくゆがんでいく。

 自分のことばかり、という点では、主人公以外の登場人物もおしなべてそういう気分があり、その意味では現代の若者像を普遍的に活写した作品ともいえる。恐らく「セカイ系」時代の若い世代に向けて作られ、その世代が正面から受け止めるべき作品なのだろう。けれど、ほかの世代にとっても自身を映す鏡になっている可能性は少なくない。いつの時代も、青春は青くて痛くて脆(もろ)いのだ。

 8月28日(金)全国東宝系にてロードショー
原題::青くて痛くて脆い / 製作年:2020年 / 製作国:日本 / 上映時間:119分 / 配給:東宝 / 監督:狩山俊輔 / 出演:吉沢亮、杉咲花、岡山天音、松本穂香、清水尋也、森七菜、茅島みずき、光石研、柄本佑
公式サイトはこちら

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(C)2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会


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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)2017「君の膵臓をたべたい」製作委員会
(C)住野よる/双葉社
青春ROMANCE
タイトル 君の膵臓をたべたい
製作年 2017年
製作国 日本
上映時間 115分
監督 月川翔
出演 浜辺美波、北村匠海、大友花恋、矢本悠馬、桜田通、森下大地、上地雄輔、北川景子、小栗旬

住野よるの世界を味わう

 住野よるといえば、やはりデビュー作『君の膵臓をたべたい』(2016年刊行)の存在が大きい。累計発行部数は300万部を数えており、本屋大賞で第2位。2018年には同題名で実写映画化がなされており、こちらは35億円を超える興行収入を弾き出す大ヒット。その年の5位に位置する興行成績となった。

 小説同様、高校生の「僕」の視点で物語は語られていく。病院でたまたま「共病文庫」と題された闘病日誌を拾った「僕」(北村匠海)が、その持ち主にして膵臓を病んでいるクラスメートの桜良(浜辺美波)と交流を重ね、余命いくばくもない彼女との時間を過ごしていく物語。基本的なストーリーは変わらないが、映画版には12年後の「僕」(小栗旬)と桜良の親友(北川景子)が登場する仕掛けがオリジナルでとられ、学生時代の在りし日を惜しむ感情をさらに後押しする格好になった。

 作品の大ヒットで住野よるの知名度は全国区となり、出演者では東宝シンデレラ出身の浜辺美波が一躍、人気女優の仲間入りを果たしている。

 同じ東宝製作の映画『青くて痛くて脆い』(2020)は、いわゆる2匹目の住野ドジョウをねらった形であるが、青春像を等身大でとらえようとする姿勢は『君の膵臓をたべたい』と変わらず、原作ファンにとっても誠実に受け止められる仕上がりになっているのではないだろうか。

 ちなみに、小説『君の膵臓をたべたい』は2019年にアニメーション化もされている。完成こそ実写版の後塵を拝したが、実は小説の出版前から企画が動き出していたとのこと。脚本会議に住野自身が参加しており、ファンにはやはり支持が厚い作品。「僕」の声を『映画 賭ケグルイ』(2019)、『前田建設ファンタジー営業部』(2020)の高杉真宙が担当している。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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