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映画のとびら

2020年12月4日

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!|映画のとびら #091

#091
ビルとテッドの時空旅行
  音楽で世界を救え!
2020年12月18日公開

 

© 2020 Bill & Ted FTM, LLC. All rights reserved.
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』レビュー
これがキアヌ・リーヴスの原点だ、デュード!

 世界中でカルト人気を誇る冒険コメディー『ビルとテッド』シリーズ、その最新作にして三部作の完結編が29年ぶりに登場。未来で「世界をひとつにする英雄」(になる予定)のロックバンド〈ワイルド・スタリオンズ〉のお気楽コンビ、ビルとテッドの新たな冒険が痛快に描かれる。ビル役の盟友アレックス・ウィンターともにテッドを演じるのはキアヌ・リーヴス。前2作同様、今回も「エクセレント(サイコー)!」「パーティー・オン(楽しくいこうぜ)!」「デュード(よう/相棒)!」などのノリノリスラングを連発させて絶好調。監督は、カルトSF喜劇『ギャラクシー・クエスト』のディーン・パリソット。

 ビル(アレックス・ウィンター)とテッド(キアヌ・リーヴス)のロックバンド「ワイルド・スタリオンズ」は「世界を救う究極の名曲」を完成させるため、今日も今日とて創作活動にはげんでいた。しかし、高校でのバンド結成から30年。すっかりオジサンになった彼らは、迷走と凋落(ちょうらく)の一途をたどる一方。テッドの弟の結婚式では電子楽器テレミンを交える珍妙な楽曲で会場を静まりかえらせて、もはや目も当てられない。ガレージでのさえない音楽活動を優しく応援してくれるのは、今や愛する妻たちとふたりの娘たちだけだった。そんな先行き怪しい彼らのもとに、30年ぶりに未来からの使者が到来。案の定、このままだと歴史は乱れ、世界は崩壊してしまうとのこと。しかも、残された時間はわずか77分25秒。追いつめられたふたりは「未来の自分たちから曲をもらえば大丈夫!」というエクセレントな解決策を考案。再び電話ボックス型のタイムマシンに乗り込んで、未来の自分たちのもとへと<時空>を駆けめぐっていく。一方、父親たちのピンチを知った娘たち(ブリジット・ランディ=ペイン、サマラ・ウィーヴィング)は、別のタイムマシンに乗ってモーツァルト、ジミ・ヘンドリックス、ルイ・アームストロングといった歴史上のビッグ・ミュージシャンたちに協力を依頼することにする。果たして、ビルとテッドは「名曲」を手に入れることができるのか? 世界を音楽で救うことができるのだろうか!?

 歴史の単位を落とさないためにタイムマシンで過去の偉人たちを集めようとした第1作『ビルとテッドの大冒険』(1989)、未来の敵対勢力によって命を落とすも、間抜けなゲーム対決で死神を負かして現世にはい上がってくる第2作『ビルとテッドの地獄旅行』(1991)と、いいかげんな思いつき行動で向かうところ敵なしのスカしたロック・バカたちの物語は、今回もそのトーンを全く崩していない。作曲が間に合わない? だったら、もうできているはずの未来でもらってくればいいという思考など、例によって素晴らしく軽薄で、確か前作ではラストで息子が生まれたはずなのに、ここではなぜか娘たちにすり替わっているのもご愛敬。恐らくまた何かの拍子で歴史が変わったということにしているのだろう。エクセレント! おマヌケ&おバカ・パワー炸裂で、またまた頭を空っぽにして楽しめること請け合いだ!

 物語の構造的特徴としては、ふたつのタイムトラベルが並行して進むというあたりが新味。父親たちのズルイ作戦に対して、純粋に彼らを音楽面からバックアップしたいと考える娘たちの行動はこの映画の清涼剤といってもいい。やがて地獄にまで転がり込み、第2作の死神(ウィリアム・サドラー)までもが登場する展開は、シリーズのファンの要望に応えたという格好か? 一方、ビルとテッドが訪ねる彼ら自身の未来像は、ドサ回りのバンドマン、音楽で成功した(と見せかける)大金持ち、筋肉隆々の囚人などと、さまざま。ここまで来るともはやコスプレ。もちろん、演じるのはすべて彼ら自身。よーく見ないと気づかない場面もあり、「ビルとテッドを探せ!」という遊び心まで映像の端々にひそんでいることを記しておきたい。

 さても、テッドを演じるキアヌ・リーヴスといえば『スピード』(1995)の大ヒットに始まり、『マトリックス』(1999)、『ジョン・ウィック』(2014)といったアクション映画で人気を高めてきた人。しかし、20代のキャリア初期にはのんきなコメディーへの出演も少なくなく、いくつかのささやかな青春映画とともに『ミッドナイトをぶっとばせ!』(1988)、『バックマン家の人々』(1989)、『ラジオタウンで恋をして』(1990)、『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』(1990)などの良作喜劇を思い浮かべるファンも多いはず。つまり、笑いこそ、彼の出発点。そして、最初に大ヒットした主演喜劇が『ビルとテッドの大冒険』だった。この頃の無邪気なキアヌを知っている人には、むしろアクション・スターへと変貌する後の出世が信じられなかったのではないか。彼の愛すべき原点回帰がこの最新作にはある。

 実年齢とほぼ等身大というキャラクター設定もさすがといったところ。今年56歳。美男スターも、アラカンの寄る年波には勝てない。おでこの面積が際立つ長髪ルックに、劣化を感じないといったらウソだろう。そんなマイナス要素を、キアヌは「これが今のテッドだ」と言わんばかりに前向きな笑いへと昇華させる。その堂々たる姿勢。オヤジになっても、初心忘るべからず。かつてドッグスターなる実在のバンドで、ベースをひっさげて日本公演を果たした男でもある。音楽もまた彼の原点なのだ。大好きなキャラクターとロック精神を全身でわがものとする心優しきスターには、笑いの前に涙が出るほどだ。

 高尚なメッセージなんてない。徹頭徹尾、おバカづくし。でも、もし音楽で世界の危機が救うことができるのなら、そんな素晴らしいことはない。歴史を超えて人の絆が強く結ばれるのならうれしい。そんな真摯な願いもこっそり映画のどこかにひそんでいるかも。どうかな? さあね。デュード!

 12月18日(金)全国公開
原題:Bill & Ted Face The Music / 製作年:2020年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:91分 / 配給:ファントム・フィルム / 監督:ディーン・パリソット / 出演:キアヌ・リーブス、アレックス・ウィンター、サマラ・ウィービング、ブリジット・ランディ=ペイン、ウィリアム・サドラー
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C) 1987 STUDIOCANAL
COMEDYADVENTUREFANTASYSF
タイトル ビルとテッドの大冒険
(原題:Bill & Ted’s Excellent Adventure)
製作年 1989年
製作国 アメリカ
上映時間 90分
監督 スティーヴン・へレク
出演 キアヌ・リーヴス、アレックス・ウィンター、ジョージ・カーリン

奇抜なコメディー連発の脚本コンビに注目!

 史上最強の脱力系コンビを生み出したのは、クリス・マシスンとエド・ソロモンという脚本コンビ。両者がシリーズ第1作『ビルとテッドの大冒険』(1989)の脚本を書き上げたのは1987年のこと。「ロックが世界を制する」という大前提のもと、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)よろしく未来のため時間を奔走する物語は、シリーズ当初からティーンを中心に人気爆発。歴史の試験に合格するための時間旅行もさることながら、なんといっても頭の軽いバカ・コンビのキャラクターがウケた。その「おバカ」こそ、一連のマシスン&ソロモン作品のキーワードだとしていい。

 事実、彼らが過去にかかわった映画作品を振り返るなら、ボブ・ホスキンス主演の『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(1993)、ウィル・スミス×トミー・リー・ジョーンズの『メン・イン・ブラック』(1997)、ギャリー・シャンドリングとアネット・ベニング主演の『2999年異性への旅』(2000)、マイケル・ダグラス『セイブ・ザ・ワールド』(2003)、そして『エディ・マーフィの劇的1週間』(2009)などと、大なり小なり、登場人物か、もしくは設定が大バカ。そう、おバカなキャラクターや状況を描かせたら、この脚本コンビ(もしくはエド・ソロモン)の右に出る者はいない。

 最大の傑作はテリー・ガーとジェフリー・ジョーンズが夫婦を演じた『スペース・エイド』(1992/原題訳「パパとママ、世界を救う」)だろう。バカばっかりが住んでいるスペンゴ星へ誘拐されたカリフォルニアの倦怠期夫婦が、数々の危機を乗り越えて、地球を救い、夫婦仲を回復させるという必笑アクション。ジェリー・ゴールドスミスのあまりに素晴らしい音楽にのせて、おバカを描くとはこういうことという最高のショーケースとなっている。やはり笑いのハードルが高かったのか、日本ではわずか1週間のみの劇場公開に終わり、今もってDVDが発売されていないという悲劇の一本であった。

 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』(2020)は、それ単体でも楽しめるだろうが、できれば事前に『ビルとテッドの大冒険』(1989)と『ビルとテッドの地獄旅行』(1991)は見ておきたいところ。29年ごしのシリーズ復活は、キアヌ・リーヴスのテッド役への愛着に加え、ビル役アレックス・ウィンターとの友情に負うところが大きい。実のところ、映画のプロデューサーも兼ねているウィンターこそ、第2作から今日までシリーズの復活のために奔走してきたひとり。折々に、脚本コンビやリーヴスと相談の場を設け、製作体制を整えてきたという。作品の味わいも彼の資質による部分があり、ウィンターの監督作品『ミュータント・フリークス』(1993)などを見れば、思わずほくそ笑むファンもいるのでは? 盟友キアヌもノンクレジットで顔を出しているぞ! パーティー・オン、デュード!

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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