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映画のとびら

2020年12月25日

新感染半島 ファイナル・ステージ|映画のとびら #095

#095
新感染半島
  ファイナル・ステージ
2021年1月1日公開

 

©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
『新感染半島 ファイナル・ステージ』レビュー
「ゾンビ映画」に感動するということ

 「韓国産ゾンビ映画」の佳作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)の後日談となるサバイバル・アクション。謎のウィルスによって韓国が「消滅」して4年。「半島」(韓国のこと)に残された大金をめぐり、新たな生き残りをかけた戦いが描かれる。主人公を演じるカン・ドンウォンをはじめ、キャスト陣は一新されたが、前作に続き、監督はヨン・サンホ。第73回カンヌ国際映画祭では〈オフィシャル・セレクション2020〉に選出されている。

 人間を凶暴化させる謎のウィルスが韓国の国家機能を奪うのに、たった一日しか必要としなかった。なんとか難を逃れ、日本行きの客船に乗り込んだ大尉のジョンソク(カン・ドンウォン)だったが、船内で突如「感染者」が出現。共に逃げてきた姉とその息子を失ってしまう。4年後。日本にたどり着けず、香港へと流れ着いていたジョンソクは、姉の夫チョルミン(キム・ドユン)共々、生きる張りを失い、死人同然の日々を送っていた。そんなふたりへ裏社会の人間から持ち込まれたのが、2,000万ドルの大金を積んだ輸送トラックを「半島」の中から探し当て、持ち帰るという計画だった。ジョンソクは反対したが、難民同然の暮らしからの脱却をねらう義兄を守るべく、同行することにする。期限は3日。仁川から夜の市街へ侵入したジョンソクらは目的のトラックを発見するが、そこはやはり感染者の群れの中。突然、何者かによって照明弾が空に放たれると、感染者たちは彼ら「人間」を発見し、山のように襲いかかってくるのだった。

 恐怖映画色が強かった前作に対し、今回はどこか戦闘アクションを優先している気分がある。世界観の発展のさせ方としては『エイリアン』(1979)と『エイリアン2』(1986)の流れを思う向きもあるだろうか。ただ、地続きの設定下でのサバイバルながら、登場人物も目的も全く異なるということでは『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)と『ポセイドン・アドベンチャー2』(1979)の関係図を連想する方が正しい。実際、『ポセイドン・アドベンチャー2』同様、「お宝」をめぐる冒険劇という側面も小さくなく、感染者以外にも厄介な敵が登場するという二重の障壁を備えた構成。『マッドマックス』シリーズでいえば、『マッドマックス/サンダードーム』(1985)のような対組織的な気分があるだろう。続編であると同時に姉妹編、もしくはスピンオフ的な位置にある作品といえる。

 感染者に関する設定はほとんど変わらない。噛まれたらすぐに発病し、近くにいる人間に襲いかかる。嗅覚が鈍いのか、闇の中ではろくに人間の識別がつかない点も前作譲り。一方で、音と光にやたら敏感で、それが耳や目に入ると、ところ構わず猛ダッシュでまっしぐら。ただ、そういった特徴を見据えた「対策」は前作以上。いたずらに似たような「ゾンビ映画」を繰り返すのではなく、同じ設定を生かしながら、別種の作風、醍醐味を追求しようとした姿勢は素晴らしい。

 アクションに限定するなら、主人公が軍隊出身ということから、銃火器の扱いに慣れており、同時に新たな敵にもそれ相応の能力が備わっているという設定がまたうまい。とりわけ、カーアクション表現がスリリング。あまりにキレがいいため、それが途絶える場面がもどかしく感じるほどだ。

 前作でも「家族」「親子」をめぐる絆や自己犠牲による「感情の揺さぶり」が巧妙だったが、その点も抜かりがない。いっぱい死ぬ。ほとんどが死ぬ。しかし、窮地からのサバイバル劇を縦軸に、肉親を失った負い目を背負う主人公が思わぬ場所で新たな「家族」を獲得していくという人間ドラマが堅実にめぐらされており、結果として訪れる安堵のラストで感動にふるえる観客も多いのではないか。

 俳優陣がまたいい顔をしている。激情を内に秘めるカン・ドンウォンを筆頭に、気骨のシングルマザー(イ・ジョンヒョン)とその娘たち(イ・レとイ・イェオン)、彼らを見守る初老の元士官(クオン・ヘヒョ)、そして新たな敵を演じる631部隊軍曹役のキム・ミンジェ、大尉役のク・ギョファン、義兄役のキム・ドユン……。いずれも極限状況をわかっている。感染者の恐怖以上に、彼らの表情から届く情感が胸に迫った。その意味では、この映画はゾンビ映画でありながらゾンビ映画ではない。

 前作を知っていれば、設定的な面で状況が飲み込みやすいだろう。ただし、前作の登場人物は皆無であり、状況を説明する導入部も完備されるゆえ、前知識などなくとも全く問題なく見られる。もしや、前作を知らない方が新鮮に楽しめる部分が大きいのではないか。後日談でありながら、それほどに一個の独立した作品になっている。ヨン・サンホがまたやった。

 2021年1月1日(金)全国ロードショー
原題:Peninsula / 製作年:2020年 / 製作国:韓国 / 上映時間:116分 / 配給:ギャガ / 監督:ヨン・サンホ / 出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドゥユン、イ・レ、イ・イェオン
公式サイトはこちら
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©2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All Rights Reserved.
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タイトル 新感染 ファイナル・エクスプレス
(原題:Train To Busan)
製作年 2016年
製作国 韓国
上映時間 118分
監督 ヨン・サンホ
出演 コン・ユ、キム・スアン、チョン・ユミ、マ・ドンソク、チェ・ウシク、アン・ソヒ、キム・ウィソン、チョン・ソギョン、チャン・ソクファン、チェ・グィファ、シム・ウンギョン

高速列車を舞台にした前作

 ヨン・サンホによる前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)は「韓国産ゾンビ映画」の最初の興行的成功例だった。密室と化した高速列車を舞台に、感染の恐怖と混乱を描いた物語は、韓国はおろか、世界中で注目を集め、内容的にもアメリカの人気作家スティーヴン・キングから激賞の声を頂戴する結果を得ている。原題は「釜山行き」という簡素なもの。日本では特急列車にあやかってダジャレのような邦題がつけられたが、それもものともしないサバイバル・ドラマの佳作であった。

 物語としては「導入編」ともいうべき内容で、別居中の妻に娘を会わせるためファンドマネージャーの男が車内で「感染」の恐怖に遭遇。わずかに残った人間たちと決死の生き残りをはかるというもの。ふらふらと感染者が発車前に紛れ込む描写や、その直後のホームでの惨劇をさらりと流しつつ、車内でのパンデミックをスピーディーに展開させる演出は秀逸で、感染も早ければ列車も速い。パニックによる人格の豹変も早いと来た。ドラマ的にも肉親の情愛だけでなく、主人公が「感染」の礎を知らぬ間に築いてしまったのではないかという負い目を刻むなど緊密かつ丁寧で、最終的な自己犠牲の瞬間まで飽きさせない。

 前作を受け継ぐ形で、やはりダジャレのような邦題を冠している続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)の原題は「半島(Peninsula)」。素っ気ない題名に、逆に作り手のただならぬ野心を感じたとしても、それは決して不思議なことではない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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