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映画のとびら

2021年1月8日

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち|映画のとびら #096

#096
スタントウーマン
  ハリウッドの知られざるヒーローたち
2021年1月8日公開

 

© STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC 2020
『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』レビュー
アクション場面よりも過酷な戦いが彼女たちにはある

 文字通り、ハリウッド映画界でスタント業に身を投じている(投じてきた)女性映画人にスポットを当てたドキュメンタリー。『ワイルド・スピード』シリーズ(2001-2020)や『アバター』(2009)などで知られるアクション派女優ミシェル・ロドリゲスが製作総指揮と劇中の案内役を務め、過去に全米のドライブインシアターに関する記録映画『Going Attractions: The Definitive Story of the Movie Palace』(2013)を撮り上げている女性監督エイプリル・ライトがメガホンをとった。

 基本、「証言集」ともいうべきインタビュー映像が中心の構成。それらは、ほぼミシェル・ロドリゲスのナレーションで進行する。彼女は言う。「女優の陰にスタントウーマンあり。スタントをやるにはすごい努力や才能が必要。だから、彼女たちを尊敬する」。そのロドリゲスが時にインタビュアーとなり、現職のスタントウーマンが登場するほか、若手のスタントウーマンが引退したスタントウーマンに過去の経験を聞く映像などが挿入され、その歴史と現実が浮き彫りにされていく。

 ロドリゲスとともに早々に画面に登場する映画史家のベン・マンキーウィッツによれば、1910年代のハリウッドではスタントウーマンが数多く働いていたという。ある作品では主演女優がけがで降板を余儀なくされ、彼女のスタントをやっていた女性が主役を引き継いだ。女性や移民が働き手として重宝されていた時代であり、女性監督や映画会社を経営する女性も数多くいたとのこと。長らく男性社会という印象が強い映画界において、とりわけ草創期にそんな光景が普通に存在していたことをどれだけの現代人が知っていただろう。この一点だけにおいても、蒙(もう)を啓(ひら)かれる観客も多いのではないだろうか。

 映画の現場から女性が追いやられるようになったのは、映画が大金を稼ぎ出す仕事だと気づいた男たちが大挙として西海岸に押し寄せたからだという。男性が主役の映画が増えるだけでなく、男性が女優のスタントまでこなすようになった。結果、スタントウーマンを志す人間にとって「できない」は禁句になっていく。だから、スタントウーマンたちは危険なアクションに備えるため、日々、鍛錬を欠かさない。映画の至るところで挿入されるトレーニングに時間を費やす女性たちの姿は感心する以前に切実だ。

 スタントウーマンの先達として紹介されるのが、ガル・ガドット主演のリメイク版も製作されているテレビドラマ『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』(1976-1979)で活躍したジニー・エッパーである。主演女優リンダ・カーターのスタントダブルを4年も務めた彼女は、1941年生まれ。父親も兄弟もスタントマンという「スタント一家」の血筋で、ドラマでは窓を突き破って家屋に侵入したり、後ろ向きにビルから飛び降りたりと、激しい場面を演じた。映画『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)ではキャスリーン・ターナーの代わりに60mを超える山肌滑降も経験したと語る。

 ジニー・エッパーと同様に、1939年生まれのジェイディー・アン・ジョンソンも多くの仲間から尊敬を集める先達。ドリス・デイのダブルや、クリント・イーストウッドの初監督作品『恐怖のメロディ』(1971)で山荘から落ちるスタントをこなしたほか、テレビドラマ『史上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』(1976-1977)では28話分のスタントコーディネーター(アクション監督)を務めた。テレビの世界で同職を女性が担ったのは、これが最初だったという。

 スタントウーマンたちから語られる経験談にあわせて数々の話題作の映像が登場するのも目に楽しいところ。既述の作品のほか、『ジェット・ローラー・コースター』(1977)、『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)、『トゥルーライズ』(1994)、『マトリックス』(1999)といった作品で紹介されるスタントの工夫の数々には、あらためて映画への興味を募らせる観客もいるのではないだろうか。『ゴーストバスターズ』(2016)のポールフェイグや『ロボコップ』(1987)、『トータル・リコール』(1990)のオランダ人監督ポール・ヴァーホーヴェンらスタントウーマンの尽力を称賛する映画監督の証言も楽しい。もっとも、スタントウーマンたちが真に苦労を訴えるのはスクリーンの外で起きている問題だ。

 先述のとおり、男性重視となった映画界では差別行為も表面化し、たとえば『コフィー』(1973)、『フォクシー・ブラウン』(1974)などで黒人女優パム・グリアのアクションダブル(アクション場面の代役)をこなしたベテランのジェイディー・デヴィッドなどは、かつて「マンじゃない(女性だ)から」という理由だけで「スタントマン協会」に入会を拒絶された過去を語る。「スタントウーマン協会」が設立されたのは1967年のことで、それもジェイディー・アン・ジョンソンらの努力によるものだ。

 「男はここを男の職場だと決めつけて、女を見下す」「男は服の下にパッドをつけられるけど、女は肌を露出させてつけることができないこともある」「男は力任せ、女には繊細さが必要」など、現職のスタントウーマンたちから寄せられる言葉は想像以上に重い。一方で、「(アクションのスタントを事前に)イメージできないときはそのスタントに何か欠陥がある証拠」「怖がることは大事」「俳優になりきる工夫が必要」「(女優との体型の差が出ないように)常に(体をしぼって)やせていないとダメ」などという声には、この仕事にかける彼女たちの真摯な姿勢が浮かぶ。

 映画の中では派手。しかし、その裏で隠れた努力を重ねている彼女たちは、一般的にはほとんど無名の存在。「勇気と夢と緊張のあとに来るのは拍手の嵐。現場スタッフからの拍手は私たちへの最大の賛辞」とも語るスタントウーマンたちの「知られざる英雄であること」への誇りは痛いほどにまぶしい。

 2021年1月8日(金)全国公開
原題:Stuntwomen The Untold Hollywood Story / 製作年:2020年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:84分 / 配給:イオンエンターテイメント 配給協⼒:REGENTS / 監督:エイプリル・ライト
公式サイトはこちら
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(C)2007 The Weinstein Company,LLC. All rights reserved.
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タイトル デス・プルーフ in グラインドハウス
(原題:Death Proof)
製作年 2007年
製作国 アメリカ
上映時間 113分
監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
出演 カート・ラッセル、ゾーイ・ベル、ロザリオ・ドーソン、トレイシー・トムズ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド

スタントマン/スタントウーマンをめぐる映画たち

 スタントを題材にした劇場用映画は、これまでいくつか作られている。

 今回の映画でスタントウーマンのひとりが言及している『グレートスタントマン』(1978)は中でも有名な一本。バート・レイノルズ演じるベテランのスタントマンが人気若手スタントマン(ジャン=マイケル・ヴィンセント)と張り合うという内容のコミカルなアクション。ハル・ニーダムの演出も快調で、スタントの裏舞台を楽しむにはうってつけの作品だろう。

 そのハル・ニーダムはスタントマン出身というユニークなキャリアを持つ映画監督。バート・レイノルズとは意気投合し、ほかにも『トランザム7000』(1977)、『キャノンボール』(1981)、『ストローカーエース』(1981)といったカーアクションがさえる佳作を発表し続けた。この中では『キャノンボール』が日本で大当たりをとっており、1981年暮れ、同時期に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)を打ち負かしたほど。セスナ機からバイクで飛び降りるというアクションの宣伝映像がとりわけ効果的で、まさにスタントで興行力を得たというもの。

 ほかにも、文字通り『スタントマン』という邦題を持った外国映画が2本制作されており、ひとつは1968年にイタリアで製作されたマルチェロ・バルディ監督作品。もうひとつが1980年に発表されたリチャード・ラッシュ監督作品。後者はベトナム帰還兵(スティーヴ・レイルズバック)にスタントマンをやらせる映画監督(ピーター・オトゥール)を描くという特異な物語で、これまた映画の舞台裏が楽しめる一本。第53回アカデミー賞では主演男優賞、監督賞、脚色賞の候補に挙がっている。

 最近ではクエンティン・タランティーノによる『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)を思い出す向きもあるかもしれない。カート・ラッセル演じる元スタントマンが次々に殺人を重ねるという奇天烈アクション。その元スタントマンに対抗するスタントウーマンを演じるのが現職のスタントウーマンでもあるゾーイ・ベルというのも、タランティーノらしい采配だろう。ゾーイ・ベルは同じタランティーノ作品『キル・ビル』(2003)でユマ・サーマンのアクションダブルを務めた女性である。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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