特集・コラム

映画のとびら

2021年1月29日

花束みたいな恋をした|映画のとびら #099

#099
花束みたいな恋をした
2021年1月29日公開


©️2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
『花束みたいな恋をした』レビュー
ほろ苦くもかけがえのない青春の日々

 『東京ラブストーリー』(1991)、『Mother』(2010)、『カルテット』(2017)などのテレビドラマで知られる脚本化・坂元裕二が映画用に書き下ろしたラブストーリー。とある20代カップルの5年間の愛の歩みを追う物語。主人公の男女を演じるのは、菅田将暉と有村架純。それぞれ坂元の脚本によるテレビドラマ『問題のあるレストラン』(2015)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016)にかかわっており、坂本は彼らを念頭に置いて脚本を仕上げたとのこと。監督には、坂本と『猟奇的な彼女』(2008)、『カルテット』(2017)で組み、有村と『映画 ビリギャル』(2015)、菅田と『麒麟の翼 ~劇場版・新参者~』(2011)で顔を合わせている土井裕泰が当たった。

 2015年、冬。明大前駅で終電を逃した大学生の男女がいた。ひとりは山音麦(やまねむぎ/菅田将暉)、もうひとりは八谷絹(はちやきぬ/有村架純)。偶然、出会ったふたりは、同じく終電を逃した社会人の男女とともにカフェで時間をつぶすことにする。話してみると、何かと共通点が多いことに気づいた彼らは、その後、何度か会っているうちに意気投合。麦から告白することで、恋人関係に発展し、さらに新しく借りた多摩川沿いのマンションで同棲を開始する。猫を家族の一員に加えるなど、卒業後も楽しいフリーター生活を送っていたふたりに変化が訪れたのは、イラストレーター志望で生きていた麦の中で、ある日、このままではやっていけないとの思いが芽生えたからだった。やがて、ネット物流の営業職に就職を決めた麦は「僕の人生の目標は絹ちゃんとの現状維持」と宣言。張り切って「社会」に飛び込んでいったのだが、多忙な毎日を送るうちに、徐々に絹と気持ちがすれ違っていく。

 映画は、2020年、主人公のふたりがとあるカフェで鉢合わせする場面から始まる。気まずそうで、でも互いを認め合っているかのような目線を送る彼らの空気感が、その後の展開への伏線となっていく。このシーンを時間軸の「現在」とするなら、作品は回想形式の構造をとっているとしていい。以後、この男女に何が起きたのか、どんな関係性があったのかが、つぶさに示されていく。

 「一般的なラブストーリーは、なんらかのカセや障害を作ることで面白くしようとする」「特別なことが起きなくても、恋愛それ自体が面白い」との坂本の発言に正しく、基本的に恋人関係にある男女の日常描写が積み重ねられる展開。カップルのどちらかが重い病に倒れることもなく、浮気のような裏切りもない。世界が転覆するような事件や極限状況も描写されない。気の合った男女が共に過ごす時間を持つだけ。好きな漫画や小説、音楽のことを話し、時間を合わせて家まで一緒に帰る。そんな連続。でも、ちょっとしたことでひずみができて、なんでもないことが重なって思わぬ事態に発展する。恋愛は計算で始まらないし、その関係が必ずしも永遠に続くこともない。このお話、形だけでくくれば「悲恋」といえる。ただし、ほろ苦くはあっても、後味は悪くない。むしろ、温もりを持って迫ってくる。そんな味わい。

 監督の土井裕泰などは「等身大のリアルなラブストーリー」と、この作品を評する。確かに、設定や生活風景は一般庶民と恐らく大差がなく、アニメーション/映画監督の押井守を崇拝する主人公カップルの好みはちょっと特殊かもしれないが、そんな固有名詞を差し替えれば会話の内容も共感度はきっと大きい。その意味では身近な物語ではあるが、それでも台詞などには「オシャレ」がにじむ瞬間が多々あり、十分に人気俳優共演作品ならではの気分や醍醐味をたたえている。そのあたり、坂元裕二が送り出してきた数々のテレビドラマになじんでいる観客にはちょうどいい肌感、湯加減になっているかもしれない。

 人によっては、バーブラ・ストライサンド、ロバート・レッドフォード共演の『追憶』(1973)などを想起する向きもあるだろうか。同シドニー・ポラック監督作品は1937年からおよそ20年にわたる大学同級生の恋模様を描いており、男女のすれ違いをエポックにしている点で似ている。ただし、日常性の強さではこの坂元裕二脚本作品に重きがあり、戦争も政治運動も皆無に近い現代平和日本においても、よりイマドキの物語として、麦と絹の物語は多くの支持を集めると思われる。50歳以上が見れば一種の郷愁が、30~40代にはデジャヴにも似た実感が、そして10代の観客には将来のドキドキに映るだろうか。

 『何者』(2015)以来となった菅田将暉と有村架純の同学年俳優の共演には、無理のないカップル感が醸し出され、その一挙手一投足にかけがえのない青春の日々がにじんだ。脇を眺めるなら、絹の上司役でオダギリ ジョー、絹の両親役で戸田恵子と岩松了、麦の父親役で小林薫がそれぞれ好演。カフェの場面では、押井守もチラリと登場する。さらに、麦と絹がかつての自分たちを重ねる若いカップル役として『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)、『望み』(2020)の清原果耶と、『町田くんの世界』(2019)、『十二単衣を着た悪魔』(2020)の細田佳央太も登場。好印象を残して、作品に花を添えている。

 1月29日(金)全国ロードショー
原題::花束みたいな恋をした / 製作年:2021年 / 製作国:日本 / 上映時間:124分 / 配給:東京テアトル、リトルモア / 監督:土井裕泰 / 出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、Awesome City Club、PORIN、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
公式サイトはこちら
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坂元裕二とその映画、その尺

 坂元裕二の映画用企画は『花束みたいな恋をした』(2021)以外にもあり、脚本協力のクレジットで参加している金子修介監督、織田裕二主演作『就職戦線異状なし』(1991)をはじめ、坂元自身が監督も兼ねた『ユーリ』(1996)、行定勲、伊藤ちひろとの共同脚本作『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)、江口洋介、安藤政信、宮﨑あおい共演の『ギミー・ヘブン』(2004)、香取慎吾が孫悟空を演じた『西遊記』(2007)などがある。

 基本的に、坂元はテレビドラマという長い時間をかけて物語を編んでいく媒体で才気を放つタイプとしてよく、一部の「トレンディドラマ」を除けば、登場人物とともに問題意識を抱え、日常をたゆたうことで独特の味わいをその作品群に醸し出してきた。『花束みたいな恋をした』は、これまで必ずしも積極的ではなかった2時間という映画尺に久々に挑んだ作品。それなりに経験を重ねたためか、妙なぎこちなさが消え、先述の映画群とは異なる仕上がりを見せている。ある種の作家的熟成とすべきだろうか。いい塩梅で語り口がこなれている。映画という枠組みで格闘したゆえにかなえられた美徳ともいえるだろうか。

 同じく2時間という尺でいけば、最近では阿部サダヲと松たか子が共演した『スイッチ』(2020)なるドラマスペシャルがあり、さらに尺が短いところではNHKが放送した『リモートドラマ Living』(2020)もあった。後者に関しては十数分という短篇枠の中で、血縁関係にある俳優陣による一種のファンタジー的世界観を編み出しており、歴々の坂元裕二映像作品の中でも新しい感触を見せている。

 ちなみに、現・坂元裕二夫人は『ユーリ』の出演者のひとり、森口瑤子だったりする。映画から坂元にもたらされたものは決して小さくない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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