特集・コラム

映画のとびら

2021年2月12日

あの頃。|映画のとびら #101

#101
あの頃。
2021年2月19日公開


©2020『あの頃。』製作委員会
『あの頃。』レビュー
輝ける青春のモタモタとグズグズ

 『孤狼の血』(2017)、『新聞記者』(2019)、『蜜蜂と遠雷』(2019)の松坂桃李が「ハロー!プロジェクト」の熱狂的ファンを演じるコメディー。漫画家にして「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシストである劔樹人が自身の経験を反映させたコミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(2014年刊)を原作に、『パビリオン山椒魚』(2006)、『パンドラの匣』(2009)、『南瓜とマヨネーズ』(2017)などで知られる個性派監督・冨永昌敬が脚本にまとめ、『愛がなんだ』(2019)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019)、『his』(2020)の売れっ子・今泉力哉が監督を担った。

 2004年2月、大坂。バイトで食いつなぎながら、さえないバンド活動を続けていた劔(松坂桃李)は、楽しいことが何も見つからず、意気消沈の日々。心配した友人の佐伯(木口健太)が元気づけようと彼に渡したのが松浦亜弥のDVD。何気なく見始めた劔は、《♡桃色片想い♡》を歌う松浦のパフォーマンスに大感動。一気に彼女のファンになり、CDショップでアルバムを物色しているところを店長のナカウチ(芹澤興人)から地下イベント「ハロプロあべの支部トークライブ」に誘われると、これにもすぐに参加。終演後、ナカウチに誘われて打ち上げについて行き、そのままイベント・メンバーの一員になった。メンバーは、プライドが高くて口の悪いコズミン(仲野太賀)、石川梨華推しのリーダー格・ロビ(山中崇)、ヲタグッズを自前で制作する西野(若葉竜也)、そしてハロプロ全般を推すイトウ(コカドケンタロウ)などと変わり者ばかり。でも、そんな空間に居心地のよさを感じた劔は、彼らと「ハロプロ啓蒙活動」を共にするだけでなく、日常生活でも家族同然の付き合いを重ねていく。やがてメンバーがそれぞれ異なる人生を歩み始めた2008年、劔はまたナカウチに誘われて今度は東京へ。ライブハウスで働きながら、自身の音楽活動を再開したのだが、ある日、コズミンから想像もしない「つぶやき」が投稿されているのを知る。

 足かけ15年に及ぶ物語。時間の長さだけで考えると長大な人間ドラマの印象も出るかもしれないが、決して大作というわけではない。むしろ、小さい。そして、かなり個人的な物語。また、松浦亜弥に始まり、30歳になった道重さゆみについての話題に終わるエピローグまで、節々に「ハロプロ」の変遷もにじむが、アイドルを礼賛する作品でもなければ、ハロプロ・ファンの純粋性を正確に再現しようとするような映画でもない。あくまで描写の対象となるのは、アイドルの応援活動でたまたま結託した男たち。古き良き在りし日を懐かしむ面もある作品だが、郷愁におぼれる作品でも恐らく、ない。カテゴリーとしては喜劇である。しかし、無茶のかぎりをつくすドタバタの始末記でもない。他愛のない小競り合いの連続である。そういった「ない」尽くしの果てに残ったものがこの映画である、と記すほか、ない。

 端的にいえば、青春ドラマ。ただ、友情のキラキラをさわやかに謳歌する作品でもなければ、メロドラマ的な仕掛けがあるわけでもない。終盤のイベント描写で『ウルトラマンA(エース)』(1972-1973)のとあるエピソードが言及されるが、それなど話が細かすぎて大半の観客はついてこられないだろう。一般的な「青春映画の型」を期待すると失望を覚える観客もいるのではないか。

 なのに、というか、だから、とするべきか。この作品は他に類を見ない個性を屹立(きつりつ)させている。登場するのは、ある意味、全員が社会の不適合者。はっきりいって、ダサい。面倒くさい。人によっては気持ち悪い部類に入るだろう。しかし、映画は彼らをいたずらに美化するわけでもなければ、突き放すわけでもない。そんな目線や、台詞の行間から、じんわりとにじむ独特のリズムと人間くさいたたずまい。「温度」でいえば、まさに「人肌」のような感触か。ちっとも熱くならない。いい塩梅で、ぬるい。

 今泉力哉といえば、『愛はなんだ』のヒットを契機に「ラブストーリーの名手」のごとき評価を受けた人。実際、『青春H/終わってる』(2010)、『サッドティー』(2013)、『知らない、ふたり』(2015)、『アイネクライネナハトムジーク』など、同系列の映画が作品履歴にズラリと並んでおり、否定の余地はない。ただ、大枠では「青春映画の人」とするのが正しく、それ以前に「ダメ人間を描く人」とするべきだろう。ダメ人間のどうしようもないモタモタ、グズグズを観察するかのように描くのが身上であり、共感や同情を観客に求めること、こびることがほとんどない。「物語」よりも「人間の生態」を優先させているというべきか。感傷的なくだりはあっても、感動を呼び込むような仕掛けはゼロに近い。

 思えば、脚本を担った冨永昌敬も社会からはみ出した人間を描くのを好むタイプであり、それこそ今泉とは同好の士といっていい。滅多に他人のために脚本を書くことがない冨永が今回、その禁を解いた理由も明快だろう。冨永の参加で描写が深まった部分と、逆により客観的になった部分も恐らくある。

 今泉映画は見る人を選ぶ。『アイネクライネナハトムジーク』のような例外こそあれ、決して万人向けの作品を撮る人ではない。それはすなわち作風の独創性を示すことにほかならず、似たり寄ったりの「模造品」が氾濫(はんらん)する現代においては貴重だろう。見方によっては、古いタイプの作家性の再来としてもよく、1960~70年代の日本映画になじんだ観客には居心地よくもあるのではないか。実のところ、『あの頃。』ではハロプロの歌曲、特に《恋ING》(2003)がエンド・クレジットも含め、3度も登場するのだが、映画の冒頭、さえない劔の日常の背景で流れるのは、1969年に発表された早川義夫のフォークソング《サルビアの花》だったりする。市井紗耶香が2001年にカヴァーしており、ある意味でハロプロ楽曲でもあるのだが、今泉力哉の作家性を思えば、なんとも象徴的な選曲ではないか。

 2021年2月19日(金)より全国ロードショー
原題::あの頃。 / 製作年:2020年 / 製作国:日本 / 上映時間:117分 / 配給:ファントム・フィルム / 監督:今泉力哉 / 出演:松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太、中田青渚、片山友希、山﨑夢羽(BEYOOOOONDS)、西田尚美
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
ROMANCE
タイトル アイネクライネナハトムジーク
製作年 2019年
製作国 日本
上映時間 120分
監督 今泉力哉
出演 三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造

「追っかけ映画」と今泉力哉作品

 好きなアイドルやアーティストを追いかける熱狂的なファン、その姿を描いた作品はほかにもある。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994)で知られるロバート・ゼメキスの監督デビュー作『抱きしめたい』(1978)は、1964年、ビートルズのアメリカ訪問をめぐり、女性ファン3人がすったもんだの騒動を起こす姿を描いたコメディー。スティーヴン・スピルバーグの支援で製作された作品で、後のゼメキス作品に関連する描写も多く、一見の価値あり。

 「キッス」の追っかけを描いた映画は『デトロイト・ロック・シティ』(1999)だ。1978年を舞台に、キッスのデトロイト公演になんとか潜り込もうとする少年たちを描くコメディー。監督は名作『ザ・チェイス』(1994)、『ラスト・ムービースター』(2017)のアダム・リフキンで、ここでも演出は快調。主演は『ターミネーター2』(1991)のエドワード・ファーロング。

 もちろん、『あの頃。』(2021)を鑑賞するに当たっては、ぜひ今泉力哉の追っかけになっていただきたいところ。先述の『青春H/終わってる』(2010)、『サッドティー』(2013)、『知らない、ふたり』(2015)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019)、『愛がなんだ』(2019)、『his』(2020)のほか、芹澤興人、天正彩共演のコメディー『最低』(2010)、モト冬樹主演の異色恋愛喜劇『こっぴどい猫』(2012)、谷桃子、前野朋哉共演の青春映画『鬼灯さん家のアネキ』(2014)、ENBUゼミナール製作の『退屈な日々にさようならを』(2016)、深川麻衣、山下健二郎、伊藤沙莉共演のロマンティック・コメディー『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)、田中圭主演の『mellow メロウ』(2020)などの既発表作品があり、実はかなりの多作。『あの頃。』にも出演している若葉竜也主演の『街の上で』(2021)も公開待機中。ぜひ多くの作品に目を通して、彼独特の作風をご堪能いただきたい。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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