特集・コラム

映画のとびら

2021年3月5日

野球少女|映画のとびら #104

#104
野球少女
2021年3月5日公開


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『野球少女』レビュー
応援したくなる思春期の一途な思い

 人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』(2020)のマ・ヒョニ役で一躍注目を集めたイ・ジュヨン主演による青春ドラマ。1997年に女性で初めて高校の野球部に所属し、韓国プロ野球が取材する公式試合に先発した女性選手アン・ヒャンミをモデルに、プロ野球チームへの入団を夢見る少女の情熱を描く。監督は、これが長編映画デビュー作となるチェ・ミンテ。

 1996年以降、韓国野球界では女子の参加も可能となった。無論、狭き門には変わりはないが、高校生のチュ・スイン(イ・ジュヨン)はプロ選手になる日を夢見て精進の日々を送っている。最高で球速134キロの速球が投げられ、韓国で20年ぶりに高校野球の女子選手となった彼女は、かねてより天才投手として世間の注目を集めた存在。だが、同じチームからプロ球団の指名を受けたのは、リトルリーグ時代のチームメートで幼なじみのイ・ジョンホ(♂/クァク・ドンヨン)だった。「昔は私の方がうまかった」と悔しさをにじませるスインは、トライアウトへの参加を目指すも、受付で門前払い。野球部の新コーチ、チェ・ジンテ(イ・ジュニョク)からは「その程度の球速ではプロに通用しない」などと厳しい意見を突きつけられる。なんとか150キロの速球を投げたい。父親(ソン・ヨンギュ)も失業中で、母親(ヨム・ヘラン)から就職を命じられているスインは、指に血をにじませながら練習に没頭。独立リーグでなかなかプロに上がれない時期を過ごしていたジンテも、やがてスインの健気な努力に心を打たれ、彼女の「回転数の高い球を投げられる」という長所を生かした「改造計画」を提案するのだった。

 一種の「性差別」と戦う枠組みだけをとれば、一種の「女性映画」だろう。男性社会である野球の世界の壁は高く、野球部のロッカールームの描写ではトイレを生かした女子選手用の「個室」まで登場し、あげくに主人公は「趣味としての野球」を勧められる始末。ヒロインの願望は誰がどう見ても厳しい。そんな中、一縷(いちる)の望みをつないで、頑固なまでに目標への道をひた走るスインの姿はそのまま「因習打破」の精神と重なり、野球というカテゴリーを別の困難に置き換えて見る観客も多いはず。

 スポーツ映画としてはリアル路線だろう。たとえば、少年投手がメジャーリーグ・チーム(正確にはカブス)に入団し、大人の選手からバッタバッタと三振の山を築く『がんばれ!ルーキー』(1993)のような喜劇にもファンタジーにもしない。観客によっては『ロッキー』(1976)のような高揚感を期待する向きも多いだろうが、低所得家庭の現状もしっかり根を張っており、そこまでの熱血系にも走らない。速球は無理、ならば変化球をという展開にしても、水島新司原作の映画『野球狂の詩』(1977)を連想させつつ、どこかで「やはり打たせてとる方法しかない」という現実的な判断があり、安直に「魔球」を発明するわけでもない。明るい応援歌というより、どちらかといえば渋く、暗い展開。だからこそ、ヒロインに対して「なんとかしてやれないか」との真摯な同情と共感が湧く。思春期の一途な思いを応援したくない者などいない。スインの夢は我々観客の夢でもあった。それを、固唾を呑んで見守ることのできる喜び。

 クライマックス、ついにナックルを会得したヒロインがどんな投球を見せるのか。また、最終的にどんな運命が彼女を待っているのか。夢と現実の狭間をいくような「結果」は、映画としてさすがの手際といっていい。演出にしても演技にしても、誠実な視線がある。それゆえの確かな実感がある。

 大げさな描写を避けた表現はスポーツの躍動感以上にドラマとしての感動を大きく引き出した。とりわけ、母親と娘が織りなす葛藤と融和には心を熱くさせられるのではないか。その感動はまさに剛速球である。

 3月5日(金)全国ロードショー
英題::Baseball Girl / 製作年:2019年 / 製作国:韓国 / 上映時間:105分 / 配給:ロングライド / 監督・脚本:チェ・ユンテ / 出演:イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギュ
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)1976 By Paramount Pictures Corp. All Rights Reserved.
COMEDYSPORTS
タイトル がんばれ!ベアーズ
(原題:The Bad News Bears)
製作年 1976年
製作国 アメリカ
上映時間 102分
監督 マイケル・リッチー
出演 ウォルター・マッソー、テイタム・オニール、ヴィック・モロー、ジャッキー・アール・ヘイリー

女子選手が活躍する野球映画

 女子選手が活躍する野球映画といえば、なんといっても『がんばれ!ベアーズ』(1976)である。公開当時13歳のテイタム・オニールが投げるシーンは、背後からワンカットで撮影された上、視覚効果も特になし。投球フォームもさまになっていて、どう見ても本当に速球を投げている。これまた「実感」がそのまま感動につながった好例だろう。映画自体は、ウォルター・マッソーのとぼけたチーム監督ぶりや、スラッガー役のジャッキー・アール・ヘイリーも秀逸で、笑いと感動が押し寄せるラストも最高。

 ちなみに、大ヒットした『がんばれ!ベアーズ』には、その後、2本の続編が製作されており、第3作『がんばれ!ベアーズ大旋風』(1978)では海外遠征という設定で日本も登場。野球の試合の前に、アントニオ猪木とプロレス騒動まで見せて笑わせてくれる。

 同じく女性投手が活躍する実写映画『野球狂の詩』(1977)では、木之内みどり(夫は竹中直人)演じる水原勇気が素晴らしい。魔球「ドリームボール」以上に、投球フォームが美しいのであった。

 女子野球を描いた作品にはペニー・マーシャル監督による『プリティ・リーグ』(1992)もある。1943年から1954年まで実在したアメリカの女子プロ野球を題材にした作品。トム・ハンクスの監督率いる選手にはジーナ・デイヴィス、マドンナ、ロリ・ペティ、ロージー・オドネルという当時人気の女優陣が集結。敵チームの選手役で『ディープ・インパクト』(1998)のティア・レオーニも顔を出しており、彼女たちの華麗にして懸命なプレーは一見の価値あり。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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