特集・コラム

映画のとびら

2021年4月2日

ゾッキ|映画のとびら #109

#109
ゾッキ
2021年4月2日公開


©️ 2020「ゾッキ」製作委員会
『ゾッキ』レビュー
映画でしか味わえない時間

 竹中直人、山田孝之、齊藤工(俳優名義は斎藤工)という3人の人気俳優が監督として作り上げたシュールかつナンセンスな異色コメディー。漫画家・大橋裕之が2017年に刊行した初期短篇集『ゾッキA』『ゾッキB』(カンゼン刊)をもとに、それぞれが撮りたいエピソードを抽出。『十二人の死にたい子どもたち』(2018)で映画脚本デビューした「劇団ペンギンプルパイルペイルズ」主宰の倉持裕がそれらをひとつの世界観の中に編み上げた。企画の発起人である竹中の呼びかけにより、山田、齊藤の参加が決まったほか、これが初の映画音楽担当となるCharaも音楽監督に抜擢されている。

 映画は、自宅で日向ぼっこをする老人(石坂浩二)とその孫娘(吉岡里帆)の会話からスタート。「秘密」をめぐる祖父の告白に孫娘がギョッとしたところで一転、物語の視点は「あてがないあて」をたよりに自転車の旅に出た青年・藤村(松田龍平)へと移る。彼と漁師たち(國村隼、ピエール瀧など)の交流劇が落ち着くと、今度はふたりの高校生のエピソードへ。学校で「ぼっち」だった高校生・牧田(森優作)に初めてできた友だち、それは丸刈り頭もエキセントリックな伴くん(九条ジョー)だった。彼に「きみの姉ちゃんに会わせてくれ」と懇願され、困り果てた牧田がとった策とは? 一方、20代の青年・マサル(渡辺佑太朗)は幼少期(潤浩)に体験した父親(竹原ピストル)との一夜が頭から離れずにいた。それは父親と夜の高校に忍び込んだ際に目撃した世にも怪奇な現象である。怪奇といえば、藤村のとなりの部屋に住んでいる少年・伊藤(鈴木福)にも奇妙な体験があった。アルバイト先のビデオレンタル屋で、彼が目にした「メモをめぐる怪事件」とは? そして、友人からの電話で知った世界的な事件とは?

 寸劇のようなオープニングから、新たなキャラクターを次々と登場させて進む映画は一見、異なるエピソードが別個に連なるオムニバス形式の様相だが、実は舞台となる場所はいずれも同じ町。節々で各エピソードの登場人物がひょいと交錯することで、やがて「とある田舎町の風変わりな住人たち」のごとき体裁の不思議な一体感を形成していく。ロケ地となった愛知県蒲郡市は原作者の故郷であり、山と川、それに海にも接することができる風光明媚な場所。そこから放たれるのどかな空気が作品を単なる「奇人変人物語」の羅列に終わらせなかった、といえるだろうか。先述の「世界観」への着地とはそういうことでもある。

 エピソード名は劇中に表示されることなく、どのエピソードをどの監督が手がけたのかはエンド・クレジットまで待たなければわからない。あえてここに書き出すなら、竹中が『石けんの香り』『アルバイト』『秘密』『父』を、山田が『Winter Love』を、齊藤が『伴くん』『おっぱい』を、そして竹中、山田、齊藤の三者が共同で『オサムをこんなうさんくさい道場に通わせたくありません』を撮っているとのこと。エピソードが交錯する際には監督たちも現場で重なるという具合。作品全体のトーンは原作漫画を基調に整えられているわけだが、もちろんそれぞれの監督のこだわりや個性も楽しめるだろう。

 竹中が監督したエピソードの場合、『無能の人』(1991)よろしく日常からにじむ人間のおかしみが刻まれつつ、ちょっとした「恐怖」も絡められる。日頃からジャンルの壁なく古今東西の映画を見続けている竹中は、ホラー映画も大好き。『石けんの香り』では誘拐事件の悪夢が、『父』では夜の学校の超常現象が描かれ、『アルバイト』においてはレンタル屋の店内に架空の恐怖映画のポスターをわざわざ用意する周到さ。『死霊の皿回し』『死霊のざぼん』『殺しのワンピース』『血を吸うか』『悪魔のぬけがけ』など、タイトルだけを並べても「恐怖と笑いは表裏一体のものである」と言わんばかり。

 これが映画初監督となる山田は、フィックス(カメラを固定した撮り方)を基本とした演出。出演者の芝居をいちばん素直な形で届けようとする姿勢が見ていて気持ちいい。今回はプロデューサーとしても製作にかかわっており、普段から心がけている俳優へのケアが自身の監督作にもにじんだ格好といえる。

 齊藤は、もとより喜劇に敏感な人。『伴くん』ではお笑いコンビ「コウテイ」の九条ジョーを担ぎ出し、その友人役に森優作という、そこにいるだけで滑稽な空気感を醸す役者を配した。配役だけではない。カット割りも細かく、それを的確に笑いの弾みにつなげるなど、例によっていちいちうまい。

 有名俳優の思いがけないチョイ役出演も、この映画のお楽しみのひとつ。若手女優・南沙良は「屁が止まらなくなる病気の女子高生」を演じ、松井玲奈は説明されなければわからない全身メイクの謎の女役。満島真之介は松田龍平と自転車レースをこなし、倖田來未はフラワーピープルのような漁師の妻にふんした。コンビニエンスストアの場面では柳ゆり菜がずっと電話でしゃべっている客役。ピエール瀧に刑務所帰りの男役を用意したのは山田孝之の優しさだろう。監督依頼の際、その山田に竹中をつなげたのが安藤政信で、ここでは殺人空手道場の師範代役。台詞は「さぶ(寒い)」のひと言だけだが、実は安藤、かつて竹中からルチオ・フルチ監督のイタリア製ホラー『ビヨンド』(1981)がいかにすごい映画かを直々にたたき込まれた過去を持っている。本筋に関係のない奇天烈な役どころも、肝いりの友情が映えた結果であった。

 総じて、とぼけた笑いが支配している小品だろう。どこか人肌に近い温度の手づくり感はそれだけで観客の心に親切で、後味もさわやか。鑑賞回数を重ねるほど、細部に目が届き、より味わいも深まるのではないか。ここには映画でしか味わえない時間が確かにある。映画ならではの遊び心がある。3人の映画監督は自由でありながら、同時に慎ましかった。そんな映画に対する純真なまでの誠意が最もまぶしい。

 2021年4月2日(金)全国公開
原題:ゾッキ / 製作年:2020年 / 製作国:日本 / 上映時間:113分 / 配給:イオンエンターテイメント / 監督:竹中直人、山田孝之、齊藤工 / 出演:吉岡里帆、鈴木福、満島真之介、柳ゆり菜、南沙良、安藤政信、ピエール瀧、森優作、九条ジョー(コウテイ)、木竜麻生、倖田來未、竹原ピストル、潤浩、松井玲奈、渡辺佑太朗、石坂浩二(特別出演)、松田龍平、國村隼
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©️ 2020「ゾッキ」製作委員会


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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)2017「blank13」製作委員会
DRAMACOMEDY
タイトル blank13
製作年 2017年
製作国 日本
上映時間 70分
監督 齊藤工
出演 高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、リリー・フランキー、佐藤二朗

3人の映画監督のこれまで

 竹中直人は映画『無能の人』(1991)で監督デビューを果たしている。つげ義春の同名漫画を映像化した同作品では、滑稽で切ない人間の抒情が見事に描かれ、竹中の映像作家としての真髄が早くも撃ち抜かれている。続く消防署員の日常を追った『119』(1994)、写真家・荒木経惟夫妻を描く『東京日和』(1997)、主夫業を担う夫とその妻、娘の姿を刻んだ『連弾』(2001)、原田知世をヒロインに迎えた『サヨナラCOLOR』(2004)と、その流れは続いている。これらに、ホラーコメディー『山形スクリーム』(2009)、異色官能劇『R-18文学賞vol.1 自縄自縛の私』(2012)を加えると、『ゾッキ』(2021)の世界観も理解しやすいのではないだろうか。

 齊藤工監督による映画作品はこれまでにふたつ。ひとつは『blank13』(2017)、もうひとつは『COMPLY+-ANCE』(2019)。前者は喜劇風味の人間ドラマ、後者はシチュエーション喜劇というカテゴリーの中で腕をふるっており、やはり『ゾッキ』にその両方の要素を見つけることが可能だろう。俳優としての斎藤工は十分に魅力的だが、それ以上に監督としての手腕がただごとではない。移動映画館という自主活動も含め、いよいよ目を離してはならない映画人だろう。

 山田孝之に過去、映画監督作品の履歴はないのだが、映画監督役の経験はある。その作品『全裸監督』(2019)は配信用作品として大きな話題を呼び、シーズン2も公開間近。これらの視聴を通じて、『ゾッキ』における山田の監督ぶりを想像するのも楽しいだろう。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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