特集・コラム

映画のとびら

2021年4月30日

JUNK HEAD|映画のとびら #114

#114
JUNK HEAD
全国公開中/4月29日よりTOHOシネマズ海老名ほかで公開


©2021 MAGNET/YAMIKEN
『JUNK HEAD』レビュー
新鮮でユーモラスな手づくりの味わい

 内装業を生業としていた男性が7年の歳月をかけて作り上げた異色のストップモーション・アニメーション。遠い未来を背景に、広大な地下空間にやってきたひとりの人間の冒険を描く。ストーリー、モデル、美術セットの制作、及び撮影、音楽に至るまで、独学の個人制作でやり遂げた堀貴秀は、もちろんこれが長編第1作。2017年4月に完成後、海外の映画祭に出品されると、著名監督、審査員らから激賞の嵐。ファンタジア国際映画祭最優秀長編アニメーション賞、ファンタスティック映画祭新人監督賞などを次々、受賞。そこからさらに4年を経て、日本で正式に劇場公開されることになった。

 今、ひとりの青年が果てしなく広がる地下の闇に向けて危険なダイブを試みようとしていた。彼の名はパートン。バーチャル界のダンス講師をしていたのだが、人口減少のあおりで経営が悪化。心機一転、地下調査員の仕事に応募した男である。地下には1600年前、人類が労働力として開発した人工生命体マリガンが今や独自の進化を遂げ、彼らならではの社会を形成していた。ウイルスの蔓延により人口の30%が失われ、あまつさえ長寿の代償に生殖能力すら失ってしまった地上の人類にとって、マリガンこそは再生のための一縷(いちる)の望みだったのである。しかし、地下へと放出されたバートンのカプセルはその途中で四散。バートンの体もバラバラになってしまう。彼の頭部を拾ったマリガンたちは、そこに機械のボディーを加えることで彼をよみがえらせることに成功するが、バートンには何の記憶も残っていなかった。

 調査目的で派遣された主人公が姿形を転々とさせ、さまざまなマリガンに出会い、交流し、異形の怪物との闘いも繰り広げるという物語。そこになんらかの生態調査の結果が明らかになるというベクトルやゴールはなく、ウイルスの危険が同時代の社会問題としてアピールされるわけでもない。ロボットの体と化した主人公の彷徨、それ自体がドラマのすべてとなっている。つまり、お話としては主人公のあてどない旅のまま=一種の迷宮状態にあり、物語自体の構築性や完結性を楽しもうと思うと無理も出るであろうし、かなりの体力が必要とされるかもしれない。換言するなら、物語の呪縛から離れ、主人公が目撃する事象や事件をともに体感する喜びを得られるなら、いつまでもこの世界で遊んでいられる魅力がある。

 実際、登場するキャラクターの造形には目を引くものがあり、総コマ数14万という手間暇をかけてつくられた動きの数々は随所にユーモアを漂わせて飽きが来ない。何を言っているかわからない台詞も、ほぼ監督自身による合成音で、その内容を字幕で表現するという方法も作品に独特の個性を与えている。

 実のところ、短編作品ならともかく、コマ撮りによるモデル・アニメーションのみの長編映画など、現状、日本ではほぼ製作されることなどまずなく、その存在自体が目新しいだろう。海外においても、イギリスのアードマン・スタジオを除けば、もはや死滅状態にあるとしてよく、その希少性も株を上げた一因といえる。CDや配信のデジタル世代にアナログ・レコードやカセットテープが面白く映る風潮に近い気分をここに探っても悪くない。手づくりの味わい、といってしまえばそれまでかもしれなないが、流ちょうに過ぎるともいえる3DCGアニメーション全盛の現代においては、やはり目に新鮮だろう。

 監督によれば、これは三部作の中間部に当たる作品であり、製作が可能となれば、次回作は1000年前が舞台になるという。物語としてはある意味「過渡期」のまま終わる本作品は、その構想においては当然の結果といえるだろうか。次なる冒険のために、今はただ、この世界観に存分に浸っていただきたい。


©2021 MAGNET/YAMIKEN
 2021年3月26日公開<大ヒット上映中>
原題:JUNK HEAD / 製作年:2021年 / 製作国:日本 / 上映時間:99分 / 配給:ギャガ / 監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽:堀貴秀
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)1963, RENEWED 1991, COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
ADVENTURESF
タイトル アルゴ探検隊の大冒険
(原題:Jason and the Argonauts)
製作年 1963年
製作国 アメリカ
上映時間 104分
監督 ドン・チャフィー
出演 トッド・アームストロング、ナンシー・コバック、ゲイリー・レイモンド、ローレンス・ネイスミス

モデル・アニメーションの秀作たち

 人形を使ってコマ撮りをするストップモーション・アニメーションの元祖といえば、やはりウィリス・オブライエンだろう。彼が発表した実写との合成作品『ロスト・ワールド』(1925)や『キング・コング』(1933)は古典中の古典。

 そのオブライエンに薫陶(くんとう)を受けたのがレイ・ハリーハウゼン。彼がアニメーターとして参加した本格的デビュー作『原子怪獣現わる』(1953)などは、レイ・ブラッドベリの原作小説の哀感に満ちた物語もあいまって、やはり目にしておかなければならない古典。

 その後、プロデューサーのチャールズ・H・シニアとコンビを組んで発表した『水爆と深海の怪物』(1955)、『シンドバッド七回目の航海』(1958)、『ガリバーの大冒険』(1960)、『SF巨大生物の島』(1961)、『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)などは少年スティーヴン・スピルバーグも熱狂した傑作。メキシコの秘境を舞台にした異色作『恐竜グワンジ』(1969)なども捨て置けない。

 ハリーハウゼンの後には『ロボコップ』(1987)のフィル・ティペット、『空の大怪獣Q』(1982)のランディ・クックといったアメリカ勢が、イギリスでは『ウォレスとグルミット』シリーズ(1989-2008)で知られるアードマン・スタジオのニック・パークやピーター・ロードが続いている。

 英米のアニメーターたちとは一線を画す作風で孤高の存在感を示しているのがチェコの作家たちだ。イジー・トルンカは1940年代から作品を発表し、『チェコの古代伝説』(1951)、『真夏の夜の夢』(1959)などの名作を発表。異形のシュールレアリスト、ヤン・シュヴァンクマイエルについては『石のゲーム』(1965)や『対話の可能性』(1982)などの短編はもちろんのこと、『アリス』(1988)、『ファウスト』(1994)、『悦楽共犯者』(1966)あたりの長編は押さえておきたいところ。

 トルンカに弟子入りしたのは川本喜八郎で、『鬼』(1972)、『道成寺』(1976)、『いばら姫またはねむり姫』(1990)など、どれもこれも傑作ばかり。同じ日本の作家では『おこんじょうるり』(1982)で知られる岡本忠成の名前も忘れてはいけない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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