特集・コラム

映画のとびら

2021年6月11日

クワイエット・プレイス 破られた沈黙|映画のとびら #121

#121
クワイエット・プレイス
  破られた沈黙
2021年6月18日公開

 

(C) 2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』レビュー
一粒で二度おいしい極限スリラー

 人気SFスリラー第2弾。音に敏感な謎のモンスターから逃れようとするアボット家、その決死のサバイバルが再び幕を開ける。前作に続き、監督・脚本はジョン・クラシンスキー。テレビドラマ『CIA分析官 ジャック・ライアン』(2018)の主演俳優としても人気の彼は、今回も出演を兼ねて監督業に登板。実生活の妻であるエミリー・ブラントを再び「家族の母」に迎え、新たな極限状態に観客を誘い込んでいく。長女と長男役にはこれまた前作に引き続き、ミリセント・シモンズとノア・ジュプ。新たな生存者として『インセプション』(2010)のキリアン・マーフィが出演している。

 物語は前作の直後から始まる。夫のリー(ジョン・クラシンスキー)を失ったものの、かろうじて生き延びたエヴリン(エミリー・ブラント)は、リーガン(ミリセント・シモンズ)とマーカス(ノア・ジュプ)、それに生まれたばかりの新生児を連れて、新たな生活の場を求めて旅立った。やがて、とある廃工場にたどり着くと、新たな生存者エメット(キリアン・マーフィ)と遭遇。ひとまず安心したものの、それもつかの間、リーガンがさらなる新天地を求めて、たったひとりで探索に出ていってしまったのである。

 設定と世界観はほぼ変わらない。音を立てないようにする緊張感、暗黙のルールは変わらぬ極限状況を画面に横溢(おういつ)させ、観客の恐怖心とゲーム感覚をくすぐってやまない。前作が密室スリラーの様相を呈していたとするなら、今回は屋外ロケーションが増えたことによって別種のスリルを生んだといえる。単なる重苦しさとは違う感触、具体的にはアボット家の農場を飛び出したことによる視野の広がりが、見る者の想像力をよりくすぐる結果ともなった。モンスターがはびこってしまった地球では本当に人類は絶滅同然となっているのか。アボット家はさらなる生存者を見つける機会を持つことができるのか。実際、それらへの関心を埋めるためのドラマ展開、考察を促す作品になったといっていい。

 リーガンが求める新天地ということでは、現在公開中の隕石パニック映画『グリーンランド-地球最後の2日間-』(2020)と同様の伝統的アイデンティティーがあるとするべきだろう。つまり、ディストピアの先にはきっと明るい出口があるはず、というアメリカ映画的発想。リーガンの行動、希望はそれをストレートに体現するものであり、結果としてこの作品をゲーム性の強いスリラーから幅広いパニック・エンターテインメントへと昇華させた。同時に今回、監督のクラシンスキーはこの侵略された世界の「発端」についてもヒントを残している。大筋としては前作『クワイエット・プレイス』(2018)の後日談なのだが、前日譚のエピソードも巧みに挿入しているのだ。いかにして「音のない世界」は始まったのか。その一端が垣間見られるという一点においてもお得感は強く、まさに一粒で二度おいしい作品となっている。

 ちなみに、モンスターがある種の音響に弱い設定も前作のまま。そういう外敵をめぐる弱点発想も、実のところパニック映画の伝統を踏襲している部分だろう。『宇宙戦争』(1953/2005)における地球の細菌、『マーズ・アタック!』(1996)におけるカントリー・ソングなどにつながる、ある意味、H・G・ウェルズ以来の「SF的格式」ともいってよく、音をめぐる発想の斬新さ以上に、腰の据わった物語性がそこに感じられないだろうか。シングルマザーの奮闘という現代的要素も加わっており、低予算で出発したアイデアSFは、この続編を得て、さらに多くの観客をとりこにするかもしれない。

 2021年6月18日(金)全国公開
原題:A Quiet Place: Part II / 製作年:2021年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:97分 / 配給:東和ピクチャーズ / 監督・脚本・出演:ジョン・クラシンスキー / 出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスー
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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