特集・コラム

映画のとびら

2021年12月24日

フタリノセカイ|映画のとびら #157【片山友希・単独インタビュー・サイン入りポスタープレゼント】

#157
フタリノセカイ
2022年1月14日公開
★片山友希さんのサイン入りポスターを3名さまにプレゼント!

インタビュー|片山友希

撮影:増永彩子

100%幸せな人っていない

――2019年6月から7月にかけて撮影された作品です。2年半前のご自身をスクリーンで見るご気分はいかがですか。

片山:22歳のときですね。いやぁ、見たくないです(笑)。全然、冷静に見られないですね。もともと自分が出た作品を見たりすることもあまりないですし、2年半も(時間が)経っていると考え方も変わるじゃないですか。「もっと深く考えればよかったな」っていう反省の方が多いです。もう、まともに見られないというか、照れくさいのもあって(笑)。

――この企画にふれたときのことを思い出せますか。

片山:相手役の真也が坂東龍汰くんで、監督が飯塚花笑さん、という映画で、飯塚監督は男性として今は生活していらっしゃる方です、という説明がまずあって、その後、3人で会ったんです。よく覚えているのは、監督が高校生のときにお医者さんからもらったという診断書のコピーを私たちにくださったこと。それと一緒に、セクシャルマイノリティの方へのインタビューをまとめた本をくださったことですね。「台本を読んでください」ということではなく、「まず、こういう人たちがいます」という感じです。監督自身からも「自分にはこういうエピソードがありました」というお話も伺いました。診断書を見たときは、すごく重いものを感じましたね。

――脚本に接したときはどんな印象を持たれましたか。

片山:ユイや真也の気持ちに寄り添うべきだと思いました。もっと監督が体験されたこと、映画が扱っていることを勉強しないと、って。私は(演じる役が監督の分身ともいえる)真也ではなく、ユイでしたから、余計にわかっていないところがあったかもしれません。そのことを正直に監督に相談したら、真也とユイと全く同じ境遇のカップルの方に会わせていただいたんです。そのおふたりがすごく明るい方たちで。監督の診断書や映画の台本ですっかり重く考えていた自分は、勝手にそう(いうふうに重く)思い込んでいたんじゃないか。もっと明るい感じでもいいんだって、そのとき思えました。

――ユイは真也と出会い、彼の抱えている「事実」を徐々に知っていく役ですから、ある意味、観客と同じ位置にあるといいますか。観客の窓口、案内役といってもいいです。

片山:そうですね。なるほど。『茜色に焼かれる』(2021)のときもそうでしたけど、私、あまり(映画や自分の役を)俯瞰で見られないんですよ。もっと全体を見なくちゃいけないなって思っているんですけど、なかなかできなくて。

――ユイと真也というカップルについてはどういう構えで臨まれたのですか。

片山:前に岩松了さんの舞台に出させていただいたとき、ある俳優さんがちょっと不思議な感じの男の子の役をやることがあって、彼はその役を「変わった男の子」と考えて演じたわけですけど、それを見ていた岩松さんがある日、「あのさ、自分の役、変わった役だと思ってやっている? それ、変わっていないから」とおっしゃって。その言葉を私、ずっと覚えていたんですよ。ユイと真也も変わっているように見えるけど、実は全然、変わっていない。だから、相手を好きになるということに「変なこと」のように考えることはしませんでしたね。ユイは普通の人ですし、好きになる感情も普通ですし。「変わっている」という気持ちでやっていたら、たぶんダメだと思ったんですね。

――ユイは徐々に真也の「秘密」を知っていきます。その流れを演じる上で、段階的に演技を変えていこうと意識したりしたのですか。

片山:私、そういうことができないんですよ(笑)。先を考えて(演技を)することができない。できないとダメだなって思っているんですけど、本当にその場、その場(の感情)でしかできないんですよ。

――監督からはユイの芝居に関して何か指針みたいなものを伝えられなかったんですか。

片山:監督は(役でいうと)真也じゃないですか。だから、坂東くんとはよく話していたんです。私には(どういうふうにやっていいのかを)話せないから、女性同士のカップルに会わせてくれたんだと思いますね。よく覚えているのは、真也のお母さん(クノ真季子)に対して怒鳴るシーンがあるじゃないですか。あそこが私、最初は全然、理解できなくて、他人のお母さんに暴言を吐くのって失礼じゃないのかなって思っちゃったんです。私、自分(の中で役や場面のこと)が腑に落ちないと、全く台詞が覚えられないんですよ。全く台詞が出てこなくなる。何回も出てこなくなって、監督に「私、ここ、わからないです」と。「もっと優しく言うべきだと思います」と伝えたら、監督は「ユイと真也のいちばん近くにいて、いちばん理解していてくれる人だと思っていたら、そうじゃなかった。そこに怒ってほしい」と。それでやっと台詞が言えるようになったことがあって。監督から(具体的にユイのことで指示があったの)はそれくらいだったかなと思います。

――自分で納得しないと役の台詞が出てこないあたり、片山さんらしいです。

片山:昔、あるドラマでも同じようなことがあって、本当に台詞が言えなくて、1時間くらいずっとやっていたことがありました。そんなに長いシーンじゃなかったのに、全然、出てこなくて(笑)。

――坂東龍汰さんとは事前にユイと真也について何か固めたところはありましたか。

片山:坂東くんとは、さっきお話しした岩松了さんの舞台で一緒だったんです。初対面だとわからないことも多かったと思うんですけど、もう知っていたので、そこはふたりで(ユイと真也を)作っていこうというより、まずユイや真也の現状を考えようという気持ちの方が強かったですね。わからない者同士がわからないことに対して一所懸命、取り組んだっていう印象です。やっぱり、最初に監督の診断書を見たことが大きかったと思うんです。白い紙に文字だけが書かれているっていう、あの冷たい感じに、日本での認識の遅れが見えたっていうか。私はこの映画をやってから知識を持つべきだと思いました。友だちとの会話でも、表現に注意するようにもなりました。そういう意味では『茜色に焼かれる』も一緒です。風俗店で働く同世代の女性の話を本で読んだら、その中で「大学の学費を払うため」に働いていると書いてありました。この世界にはいろんな人がいるんですよね。「知る」ということはすごく大事なものだと学びました。

――『フタリノセカイ』という映画のよさは、いろんな問題意識をぶつけるばかりではなく、主人公カップルの本筋の幕間にコミカルなシーンを持ってきて、場を和ませつつ、物語の補足もかなえているところだと思います。特にユイとその保育園の同僚(持田加奈子)のやりとりなどは、それが該当するシーンです。なんでもないガールズ・トークの中に、ユイの悩みが等身大で語られ、それについて同僚が身の丈に合った意見を出している。

片山:持田さんとのシーンでいうと、映画の冒頭で、園児が忘れ物をしてそれをユイが届けようとするところがあるんですけど、そのときに(持田さんが演じる)同僚がスッと私の靴を差し出すんです。何でもない、普通の日常シーンですけど、「あ、こうやって、人に優しくされているんだな」って思いましたね。自分もその小さい優しさを続けられる人間でいたいなって。

――そういうささやかなシーンが、この映画ではうまく機能しています。ユイと同僚の場面は息抜きにもなりつつ、問題意識を外から眺める役割をもっているんです。

片山:そうおっしゃっていただけるとうれしいです。持田さんとはこれが初めての共演でした。ちなみに、持田さんは『茜色に焼かれる』にも出られているんです。『茜色に焼かれる』のとき、「片山、元気―?」って、声をかけられました(笑)。持田さんはとても話しやすい方なんです。笑うときは大きく笑いますし。大きく笑う人は安心しますよね。

――ユイが保育園児とお遊戯しているシーンもいいですね。《幸せなら手をたたこう》を歌いながら、溌剌(はつらつ)とした片山さんが見られます。

片山:あそこ、自分がいちばん見たくないシーンです(笑)。2年半前の自分を見るのはそれだけで恥ずかしいのに。でも、カメラマンの方に「エプロンがいちばん似合っているよ」って言われました(笑)。

――歌っているといえば、パブのシーンでもユイはカラオケをやっています。

片山:あれも嫌でした(笑)。自分が歌っているのは基本、見たくないですね。やっぱり、恥ずかしいですよ。

――この映画は俳優・片山友希の歌唱風景が見られるということでも注目ですけど、どちらのシーンも登場人物にとって関係なさそうで実はしっかりと意味を持っている。最初の歌ではまだ何も知らない無垢なユイ、もうひとつの歌では真也との関係に苦しんでいるユイが映し出されて、その後の新たな人間関係につながっていきます。

片山:私自身はそこまで意識できなかったというか、わからないまま、撮影を続けていた感じですね。わからないままはダメなんだろうな、でも、わからなくちゃいけないんだろうなって心の中で思いつつ、なんだか急いでいた感じです。

――『茜色に焼かれる』のときと手探りの感触が似ている気がします。

片山:私、たぶん、そういうふうにしかできないんだろうなって思います(笑)。「もうちょっと落ち着けよ!」って自分に思っているんですけどね。

――テレビドラマ『探偵☆星鴨』(2021)のような喜劇でもそういう感じでしょうか。

片山:その意味では『星鴨』はあまり難しく考えていなかったですね。「楽しい」という感情だけで動けたんです。『フタリノセカイ』『茜色に焼かれる』みたいな(問題意識の強い)作品が続いて「うわー!」ってなっていたところへやらせていただいて、本当にありがたかったといいますか。プロデューサーの方にも顔合わせのとき「楽しんでやってください」とおっしゃっていただいて、なんだか「心の栄養」になった感じでした(笑)。

――『茜色に焼かれる』のとき、片山さんは「私には不幸を背負う役がついてくる」と冗談っぽくおっしゃっていましたね。

片山:最初に受かった映画が廣木隆一監督の『ここは退屈迎えに来て』(2018)で、それがマキタスポーツさん(が演じられた男性)と援助交際する女の子の役だったんです。自分は清純派だと思い込んでいたので、「あれ?」となって(笑)。そこから不幸そうに見える役が続いて、ずっと「あれ?」っていう感じです(笑)。

――不幸を背負わせても片山さんなら大丈夫という印象が製作側にはあるかもしれません。

片山:でも、『茜色に焼かれる』は私にはすごく大きかったんです。あれからちゃんと考えるようになったと思いますし、「人ってみんな、いろいろ抱えているんだな」って思えるようになりました。100%幸せな人っていないんだなって。だから、不幸そうに見える役が多いのは逆に当たり前のことなのかなって今は思っています。

――『茜色に焼かれる』に出演されたことで、片山さんも俳優として大きくクローズアップされたと思います。環境としても変化があったのではないでしょうか。

片山:先日も80歳を越えられた女性に「すごくよかったよ」って言われたことがあって、すごくうれしかったです。でも、うれしい反面、あまり真に受けないようにしないと、と思っている自分もいて。もちろん、評価していただけることはとてもありがたいんですけど、「これで調子に乗ったら一瞬で終わるぞ」って。「図に乗ったらダメになる」って思っているんです。だから、自分としては、なるべく変わらないようにしていますね。そうやって戒めて引き締めていかないと、そこで止まってしまう感じがするんです。

――『フタリノセカイ』という映画はどのように人に伝えたらいいでしょうか。単なるラブストーリーというだけでなく、人生についての映画ともいえる部分がありますね。

片山:確かに、ラブストーリーとひと言では言えない映画だと思いますし、ユイはどうやったら子どもを持つことができるのかで悩むじゃないですか。私は小学生の低学年の頃、キスをしたら子どもができると思っていました。中高生になって、そうじゃないことがわかるんですけど、それでも子どもってすぐにできるものだと思っていたんです。結婚すれば当たり前にできるものだって。でも、実際にはそうではないんですよね。「当たり前」「普通」ということに、どれだけの人が苦しんでいるのかって。そういうことをこの映画で感じましたね。苦しみからちょっとずつ進んでいく人が世の中にはいるし、ちょっとずつ進もうとする人を描いた映画なんだなって思います。

――『茜色に焼かれる』の石井裕也監督などは片山さんのことを「普通に会話が成立しないくらい変わっている人」と描写しましたけど、「個性的」という意味での絶賛評ですね。ご自身の気持ちを偽らず、飾らず、まっすぐぶつけてきます。その素直さが今回もユイという役と重なって魅力を放っていると思います。

片山:私はやっぱり俯瞰になれない人間なんです。ずっと正面に向かって突っ走っている感じなんですよね。話していても、自分で何を言っているのかわからなくなるときもいっぱいあります。今日もいっぱい変なこと話した気がする(笑)。でも、この映画に関しては、公開されるのが今の時期でよかったなって思っています。コロナ禍になって、私を含めて若い人も政治に関して大きく関心を持ったんじゃないかなって思うんです。この間の(衆議院議員の)選挙でも、同性婚や夫婦別姓の議論も起きて、私の世代でもそういう話題を聞きやすい時代になったのかなって。もし、コロナ禍がなくて、2020年くらいに公開されていたら、この映画に関心を寄せてくれる人も少なかったかもしれないなって。

――片山友希という俳優への注目度も上がっているタイミングです。

片山:もしそれもあるなら(笑)、やっぱりこの時期に公開されることになってよかったなって思います。(ご覧になる方にも)この映画で一緒に考えてもらえたらうれしいです。

ヘアメイク:浅井美智恵 スタイリスト:髙山エリ

衣装:オールインワン(セラー ドアー/アントリム)他スタイリスト私物 ●衣装問い合わせ先:アントリム(03−5466−1662)

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片山友希(かたやま・ゆき)プロフィール
1996年、京都府出身。小学生の頃に俳優を志し、中学2年で地元の俳優養成所へ入所。20歳で上京する。廣木隆一監督の『ここは退屈迎えに来て』(2018)で本格的に映画デビュー。そのほかの映画出演作に『ねことじいちゃん』(2019/岩合光昭監督)、『君が世界のはじまり』(2020/ふくだももこ監督)、『あの頃。』(今泉力哉監督)、『茜色に焼かれる』(石井裕也監督)など。テレビドラマの出演作に『べっぴんさん』(2016)、『セトウツミ』(2017)、『俺のスカート、どこ行った?』(2019)、『伝説のお母さん』(2020)、『探偵☆星鴨』(2021)、『ボイスⅡ』(2021)など。主演舞台に『死ンデ、イル。』(2018)がある。出演映画『弟とアンドロイドと僕』(2022/阪本順治監督)が公開待機中。

 

『フタリノセカイ』レビュー
©️2021 フタリノセカイ製作委員会
恋愛を貫くことの覚悟

 石井裕也監督、尾野真千子主演映画『茜色に焼かれる』(2021)で俄然、注目され、今年度映画賞レースの新人賞、助演女優賞部門を熱くしている片山友希主演による恋愛ドラマ。彼女演じる保育士がトランスジェンダーのパートナーとの恋愛に悩み、もがき、やがて大きな決断にたどりつくまでの10年間が繊細に描かれていく。ヒロインのパートナーを演じるのは『弱虫ペダル』(2020)、『スパイの妻』(2020)の坂東龍汰。監督は、自身がトランスジェンダーでもある飯塚花笑(かしょう)。

 ユイ(片山友希)と真也(坂東龍汰)は、ユイが働いている保育園で出会った。恋に落ちたふたりは幸せな日々を送るが、なぜか真也はユイと体の関係を結ぼうとしない。実は、真也は、出生性は女性、心は男性というトランスジェンダーだった。ひょんなことからその事実を知ったユイは動揺を隠せなかったものの、真也との同棲生活に踏み切る。愛は失われていなかった。しかし、子どもを持ちたいという夢を捨てきれないユイは、真也との生活に徐々にズレを感じ、真也もまたユイの心を知って悩む。ある日、とうとう真也はユイに別れを告げるのだった。そして、傷ついたユイがとった行動とは!?

 一見、問題意識を第一に掲げたように映る作品だが、物語の流れ自体は一般的なラブストーリーと大きく違いはない。ひと組の恋に落ちたカップルが登場し、家族を形成する過程で悩み、子どもをつくるためにあらゆる努力と試行錯誤を繰り広げる。周囲との軋轢(あつれき)をメインにするのではなく、あくまでカップルという枠組みでの葛藤に終始しているあたりも好感が持てるところで、ラブストーリーとしてはもちろん、互いの人格、人生を理解、受容しようとする繊細な人間ドラマとしてまぶしく輝いた。

 およそ10年に及ぶ物語を83分という尺の中に過不足なく収めている演出の手腕もお見事。カップルの苦悩を掘り下げつつ、同時に目線を常に未来へ向けており、結果として問題意識を泥沼化させなかった。その足踏みのない語り口はなめらかであり、観客はいつの間にか、主人公カップルを前向きに応援し、彼らが選択する道の優しさ、強さに心を動かされる。それでも、カップルが最終的に選択する「決断」には、多くの観客が驚き、戸惑うだろう。そして、最終的に感銘を受けるだろう。恋愛を貫くこと、家族として次の段階へ進むことに、どれほどの「覚悟」が必要なのか。そこに、性の別は関係ない。みんな同じ。それを、スペシャルな状況、卓越したストーリーテリングであらためて示唆してくれた秀作である。

文・インタビュー/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

 2022年1月14日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
原題:フタリノセカイ / 製作年:2021年 / 製作国:日本 / 上映時間:83分 / 配給:アークエンタテインメント / 監督・脚本:飯塚花笑 / 出演:片山友希、坂東龍汰、松永拓野、関幸治、クノ真季子
公式サイトはこちら
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