特集・コラム
映画のとびら
2021年12月24日
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム|映画のとびら #158【グッズプレゼント】
全米で公開されるや、最初の週末3日間だけで2億6013万ドル(約297億円)の興行収入を記録。これは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)を抜き、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)に迫る全米オープニング興行収入の歴代2位の成績。想像を超える熱狂の中で迎えられたトム・ホランド主演版『スパイダーマン』、その「高校時代三部作」のトリを飾る本作品は、前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)の直後から始まる。
ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)との戦いに勝ったのはいいけれど、彼から全世界に向けてスパイダーマンの正体を明らかにされてしまったピーター(トム・ホランド)は、故郷に戻っても、すっかり悪者扱い。野次馬に追われっぱなしの毎日に困り果てていた。このままでは大学進学のこともおちおち考えていられない。できれば、MJ(ゼンデイヤ)、ネッド(ジェイコブ・バタロン)とともにマサチューセッツ工科大学に入学したいのだ。一計を案じたピーターは、ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)を訪ね、なんとか時間を戻して「顔バレ」のない時代を取り戻せないかと懇願する。しかし、タイム・ストーンはもう手元になく、それは不可能。ならば、スパイダーマン=ピーター・パーカーという図式を全世界の記憶から消せないか。その要望を受けて、ドクター・ストレンジは「カフカルの魔術」と呼ばれる「忘却の術」を発効させようとするが、ピーターときたら術の最中に「MJには僕の記憶を残したい」「やっぱり、ネッドやメイおばさんも」「そうそう、あの人の記憶もそのままに」などと余計な注文をぶつけるものだから、大変。ドクター・ストレンジは混乱し、術は失敗。突如、出現したのはドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)である。オクトパスはピーターの姿を見つけるや、いきなり攻撃を仕掛けてきた。ピーターを別のスパイダーマンと勘違いしていたのである。そう、ドクター・ストレンジの術は「マルチバース(多元宇宙)」の扉を開き、いくつもの平行世界が交錯する事態を招いてしまったのだ。
ドクター・オクトパスは『スパイダーマン2』(2004)に登場した敵役。それだけでなく、『スパイダーマン』(2002)からはグリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)、『スパイダーマン3』(2007)からサンドマン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)、『アメイジング・スパイダーマン』(2012)からトカゲ人間のリザード(リス・アイファンズ)、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)からエレクトロ(ジェイミー・フォックス)と、過去のシリーズに登場した悪役が一挙集結。事態を収束させたいピーターにとっては困った状況だが、シリーズのファンからすればこれほどスリリングで楽しい混乱もない。
ふんだんに盛り込まれたアクションもさることながら、トム・ホランド版『スパイダーマン』の魅力は軽妙なムードとピーターの人柄を反映した明朗なタッチ。喜劇一歩手前のドタバタの中、ピーターは怪物たちをいちばんいい方法で処遇しようとする。その温もりが映画を単なるバトル・アクションに終わらせない。もちろん、優しさは裏目に出る。大甘な対応で事態をこじらせる彼には、結果として人生最大の悲劇も訪れた。観客にとっても、三部作で最もつらい事態だろう。そこからの回復は、ピーターの成長とともに、新たな『スパイダーマン』シリーズの出発も予感させてやまない。
高校時代三部作の終着点である一方、リスタートののろしを上げた作品ともいえる。そもそも2002年に出発したソニー・ピクチャーズ配給『スパイダーマン』シリーズは容赦ないリブートの繰り返しでもあった。トム・ホランド版は当初から「アベンジャーズ世界」に隣接した構成になっており、ともすれば過去のトビー・マグワイア版、アンドリュー・ガーフィールド版を「亡きもの」にしているような後ろめたさが漂っていたわけである。今回の「マルチバース事件」はその意味で「みそぎ」の作品といってもよく、怪人たちをケアする流れの中で、過去のマグワイア版、ガーフィールド版の存在を認め、肯定する仕掛けとなった。21世紀『スパイダーマン』シリーズには3人のピーター・パーカーがいた。そして、それぞれのスパイダーマンはそれぞれの世界で生きている。それを観客と共有し、理解するのが本作品最大の意義だろう。その上で、クモ男の物語はまた新たな階段を上っていくのだ。次は大学生編か、それとも社会人編か。
クライマックスでは戦闘中の「友情」描写に思わずもらい泣きをする向きもあるだろうか。恐らく、キャラクター愛を第一にして映画に接するファンほど心がほだされる作品であり、裏返せばシリーズを知らない観客にはトビー・マグワイア版、アンドリュー・ガーフィールド版を含め、念入りに予習することが命題となるだろう。少なくとも『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』=「ヨーロッパ旅行編」を見ておかないと、冒頭から何が問題になっているのかも理解できないかもしれない。ただ、理解さえできれば、いつまでも遊ぶことができる世界でもある。それが「アベンジャーズ時代」の映画鑑賞術なのだ。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。
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