特集・コラム

映画のとびら

2022年1月21日

麻希のいる世界|映画のとびら #162【ポストカードプレゼント】

#162
麻希のいる世界
2022年1月29日公開
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©SHIMAFILMS
『麻希のいる世界』レビュー
「生きもの」として輝く少女たち

 アイドルグループ「さくら学院」の元メンバー、新⾕ゆづみと⽇髙⿇鈴のダブル主演による青春ドラマ。ひとりは、無軌道な毎日を送る女の子。もうひとりは、彼女に強い「思い」を抱く同級生。生き方も考え方もかけ離れたふたりの女子高生の姿を切なくも鮮烈に描く。監督は『月光の囁き』(1999)、『害虫』(2002)、『黄泉がえり』(2003)、『さよならくちびる』(2019)の塩田明彦。

 青野由希(新谷ゆづみ)が初めて牧野麻希(日高麻鈴)の姿を目撃したのは、海岸沿いに建つ古い物置小屋の前だった。目と目が合うふたり。ストレス厳禁の重い持病を抱え、ただ生きるだけの日々を送ってきた由希に対し、麻希は男性関係が奔放で社会性を全く持ち合わせていない女の子。いつの頃からか、由希は麻希を追いかけるようになっていた。やがて、距離を縮め、行動を共にしだした由希は、麻希に歌の才能があることを知るや、今度は麻希のためにバンドを結成しようと奔走する。だが、麻希とトラブルを抱えていた軽音部には入部の依頼は言下に却下。由希に恋い焦がれていた軽音部の部長・伊波祐介(窪塚愛流)が渋々、ふたりに協力することになるも、3人の間には次第に不穏な空気が漂っていくのだった。

 同じ塩田明彦監督作品『さよならくちびる』に「ハルレオ・ファンの女の子」として映画に初出演した新谷ゆづみと日高麻鈴の才能に塩田が惚れ込み、オリジナル脚本が編み出された。そのときの役名も、由希と麻希。とはいえ、これは『さよならくちびる』のスピンオフでも姉妹編でもない。三角関係的な気分が漂うことはあっても、女性デュオの話で貫かれているわけではない。ここでは、音楽はふたりの女子高生の関係をつなぐものであり、物語上でも断片的な素材に過ぎない。描かれるのは、ひとりの少女の一途な思い。自分とは全く正反対の女の子に向けられた熱く、深い思い。

 由希は麻希に心を奪われる。麻希にどんどん惹かれていく。平たくいえば「好き」という感情。でも、恋愛感情ではない。それ以上の強く太い「思い」であり、同性愛というくくりには到底入らない。塩田明彦は「あこがれ」と定義した。それが加速することで「狂気」に変貌したとも説く。確かに、ふたりの行動はそこに当てはまる。だが、別の解釈も通る。それだけの映画的余裕がここにはある。由希にとって麻希は自由意志の象徴かもしれない。一方、性犯罪者の父を持つことで「何か」がゆがんでしまっている麻希にとって、その生き方は自由どころか十字架を背負う苦しみに近いかもしれない。でも、そんな彼女たちが出会うことで、なんらかの化学反応が起きている風景に違和感はない。無理がない。

 由希はたびたび昏倒する。基本、持病がもたらす事態だが、その引き金になっているのは由希が感じる精神的ショックだ。麻希への感情をめぐって、由希は揺さぶられ続ける。麻希は由希を大切に思いながら、簡単に突き放しもする。由希は振り回される。でも、麻希への気持ちはいよいよ強まっていく。ついには、麻希と同様の行動さえとる。それは自暴自棄というより、相手を実感するための彼女なりの手段だろう。

 この映画は、感情のままに走る少女たちを妙な社会通念、あるいは収まりのいいドラマ的作為の中に収めようとしていない。行動を縛り付けていない。本能と激情をそのまま作品の流れに直結させることで、演出は「人間」をあぶり出すことに成功している。その点でも単なる思春期ドラマやラブストーリーの域にとどまっていない。「生きる」ことをめぐる講釈もヘタに垂れることなく、もっと動物的ともいえる生々しさの中にヒロインふたりを鮮やかに、ナチュラルに放った。ここにあるのは、だから「ドラマ」というより「生態観察」に近いかもしれない。いうなれば「生きものの記録」。

 作品としては、かなりクセが強い。観客も選ぶだろう。けれど、この「一念を通す猛進」をシンプルにつづった映像的筆致はりりしく、見逃すことはちょっと許されない。

 新谷ゆづみ、日高麻鈴は堂々たる主演ぶり。アイドル活動期を知らぬとも、彼女たちの魅力を発見、もしくは再確認するには申し分のない機会だろう。ふたりはスクリーンの中で見事に「生きもの」であった。

 1月29日(土)より新宿武蔵野館ほかにて公開
原題:麻希のいる世界 / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:89分 / 配給:シマフィルム株式会社 / 監督・脚本:塩田明彦 / 出演:新谷ゆづみ、日髙麻鈴、窪塚愛流、鎌田らい樹、八木優希、大橋律、松浦祐也、青山倫子、井浦新
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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