特集・コラム
映画のとびら
2022年4月1日
モービウス|映画のとびら #173【ポスタープレゼント】
マーベル・コミックでスパイダーマンの宿敵として登場する名物悪役を初めて銀幕で描いたファンタジー・アクション。タイトルロールには『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(2013)で第86回アカデミー賞の助演男優賞を獲得しているジャレッド・レト。共演に『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)のマット・スミス、Netflix配信映画『6アンダーグラウンド』(2019)のアドリア・アルホナ。監督は『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2014)、『ライフ』(2017)のダニエル・エスピノーサ。
映画は、コスタリカのジャングルに降り立つ血液病の権威マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)の姿から描き始める。暗い洞窟をのぞき込む彼の目的は、吸血コウモリの捕獲。幼少期から血液の難病に苦しんでいるマイケルは、人間とコウモリのDNAを合成させることで打開策を見いだそうとしていたのである。それは、自分と同様の病に苦しむ幼なじみの富豪マイロことルシアン(マット・スミス)を救うことも意味していた。新たに開発した血清「キメラ細胞」の動物実験はほどなく成功。マイケルは人体実験へとコマを進めることにし、法律から逃れるために国際水域の船へと実験場所を移動。同僚の医師マルティーヌ(アドリア・アルホナ)が見守る中、脊髄に血清を注射する。実験は成功したかに見えたが、意識を失ったマイケルの体は豹変し、傭兵たちを次々に襲い出すのだった。
マーベル・ファンにとっては、新規映画化キャラクターを吟味する場であり、その後のユニバース発展への期待をつなぐ作品だろう。
マーベル作品に縁遠い観客には、新手の吸血鬼映画としての鑑賞を勧めたい。血清を打った主人公は血の誘惑に駆られ、善悪の狭間で揺れる。人工血液を摂取するだけでは、正気でいられる時間は4時間22分。そんな有様で日常をいったいどう暮らしていけばいいのか。やがて、目前に思わぬ敵も立ちはだかる。カウントダウンのスリルと激しいアクション、それに吸血鬼としての哀しき宿命が重なって、葛藤が連続する人間心理の行方を無理なく追うことができるだろう。
作品の気分としては、マーベルというより、DCコミック映画のトーンに近い。ある種の暗鬱な空気が全編を覆っており、往々にして明るい出口が待っているマーベルのそれとはひと味違う。血清の成分が成分だけに、自然と闇夜の場面が多くなり、ダークな作風になって当然。レゲエの兄ちゃんのような長い髪をなびかせてはいても、DCのコウモリ男のように特別な扮装をすることもない。マーベル版「バットマン」のような呼称がまかり通ったとしても誰も驚かないだろう。ただし、スパイダーマンの悪役誕生劇という視点だけにこだわると、少々アテがはずれるかもしれない。モービウスは生き血に目がくらむ存在ではあるが、この作品においては善行が中心。正確には、自身に宿ってしまった悪魔的習性に悩むキャラクターであり、悪人要素などほとんど出てこない。そんなアンチヒーローとしての未成熟性、大きな流れの中の序章的気分こそが最大の醍醐味といえるだろうか。モービウスはいかにして将来、スパイダーマンと宿敵関係になるのか。はたまた味方になるのか。まだ見ぬ物語のピースをいろいろと想像する愉悦がここにはある。
ジャレッド・レトは『ダラス・バイヤーズ・クラブ』の翌日に出演したかのような病身ぶり。難病映画の延長上に眺めても納得のいくはまり役である。もっとも、悲劇の痩身は血清注入後にキャプテン・アメリカさながらに筋骨隆々。あふれる男の色気は、女性観客の関心を多く集めるに違いない。
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<応募期間:
2022年4月1日(金)~20日(水)>
※当選者の発表はポスターの発送をもってかえさせていただきます。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。