特集・コラム
映画のとびら
2022年4月8日
バーニング・ダウン 爆発都市|映画のとびら #174【ポスタープレゼント】
『インファナル・アフェア』(2002)、『桃(タオ)さんのしあわせ』(2011)などの香港映画界の代表的スター、アンディ・ラウ主演によるアクション。記憶を失った爆弾処理班出身の男が香港の危機を救うため、爆弾テロとの激しい戦いに身を投じていく姿をスリリングに描く。爆弾処理班の同僚に『インターセプション 盗聴戦』(2014)のラウ・チンワン。主人公の恋人に『君といた日々』(2014)のニー・ニー。監督は、アンソニー・ウォンとタッグを組んだ『八仙飯店之人肉饅頭』(1993)、『イップ・マン 最終章』(2013)などで知られるハーマン・ヤウ。邦題の「バーニング・ダウン」とは「焼け落ちる」の意。本国では2020年12月に公開され、230億円の興行収入をたたき出す大ヒットとなっている。
爆弾処理班のエース、プン・センフォン(通称フォン)(アンディ・ラウ)は、今日も相棒のマン(ラウ・チンワン)とタッグを組んでひとりの少女を救ったばかり。ところが、とあるアパートに仕掛けられた爆弾の処理に当たったとき、犯人のトラップに気づかず、フォンは爆発で左足を失ってしまう。恋人のレン(ニー・ニー)の支えもあって、順調に体力を回復させていくフォンだったが、警察上層部は彼の現場復帰を認めない。警察を辞したフォンが次にその姿を警察の同僚に発見されたのは、マー・サイグアン(ツェー・クワンホウ)率いるテロ集団「復生会」が起こしたホテル爆破の現場だった。それも、爆破の被疑者として。病院で目を覚ましたフォンは自身が記憶を失っていることを知る。「自分はテロに加担した覚えはない」と、警察の尋問に苛立つしかないフォンは病院から抜け出すことを決意。すると、彼の逃亡を手助けしようとする謎の武装集団が時同じくして病院に現れたのだった。
ハーマン・ヤウ監督×アンディ・ラウ主演の爆弾処理班ものといえば、『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』(2017)が思い出されるところ。英語題名に「SHOCK WAVE2」を冠している今回、爆弾処理のヒロイズムこそテーマとして通底しているものの、両作品に設定、物語上の関連性はない。一種のリブートといえるだろうか。思えば、『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』の日本公開時、早々に続編決定のニュースが駆けめぐっていたわけで、その意味では正規の続編を期待していた観客には残念な企画の方向転換かもしれない。ただ、アンディ・ラウのりりしい爆弾処理ぶりに今一度ふれたかった向きにはこれはこれで十分な贈り物だろう。
総製作費44億円というふれ込みは、派手なアクション描写を連発している点であながちホラではない。開巻早々、クライマックスの大爆破映像の断片が刻まれたかと思えば、爆弾処理班の活動を描くふたつの事件を連続描写。後半部では高層ビル、地下鉄、空港などの巨大施設、広大な景観をテロの背景に設定し、火の玉がガンガン上がる。アクション描写を生かすためなのか、主人公が足を失った後の「空白」を後回しにし、すぐにホテル・テロへと話題をつなげるなど、実は時間軸が複雑に交錯している作品でもあった。ちょっと構成として凝り過ぎなのは確かで、ドラマの中間部で「謎解きの回想」が加えられるまでの前半部、一瞬、何がどうなっているのか事態が飲み込めずに戸惑う観客もいるだろう。とはいえ、目の前の映像に集中していれば、やがてフォンをめぐる哀しい真実に心が揺さぶられることは必至。アンディ・ラウ=フォンが最後にとる行動、恋人に発する言葉に思わずもらい泣きをする人もきっと多いはずだ。
実年齢ではすでに還暦を過ぎているアンディ・ラウだが、今回もそれを感じさせない奮闘ぶり。走って、戦って、叫んでと、最後までエネルギッシュ。「人の怒りは一切を滅ぼす」という戒めを全身で背負って、ひたすらカッコイイ。その精悍な容姿にじっくり見惚れていただきたい。
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<応募期間:
2022年4月8日(金)~20日(水)>
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ハーマン・ヤウ監督×アンディ・ラウ主演の『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』(2017)は、2018年8月に日本で劇場公開されている。ラウの役名はチョン・チョイサン。彼の演じる爆弾処理班員が強盗団のボスと因縁の対決をするという物語。アンディ・ラウはプロデューサーとして、続く『バーニング・ダウン 爆発都市』(2020)も手がける気合いの入りよう。爆弾処理班員という職業にドラマティックな可能性を感じたのかもしれない。
アンディ・ラウ出演作品では、恐らく『インファナル・アフェア』(2002)が最も知名度が高いだろう。アクション映画ではチャン・イーモウ監督との『LOVERS』(2004)、マギーQ、サモ・ハン共演の『三國志』(2008)、ジェット・リー共演の『ウォーロード/男たちの誓い』(2008)、アラン・ユエン監督との『ファイヤー・ストーム』(2013)、マット・デイモン共演の『グレートウォール』(2016)、ジャン・レノ共演の『グレート・アドベンチャー』(2017)なども追いかけておきたい。人間ドラマではアン・ホイ監督との『桃(タオ)さんのしあわせ』(2011)がやはり白眉だ。
『バーニング・ダウン 爆発都市』で主人公フォンは記憶を失い、何が真実か、わからなくなってしまう。自分の記憶が本物か偽物かをサスペンスフルに描いた作品として、ポール・ヴァーホーヴェン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『トータル・リコール』(1990)は見ておきたいところ。シュワルツェネッガー=ダグラス・クエイドの冒険が「夢かうつつか」と揺れるあたりは、原作のフィリップ・K・ディックの持ち味でもあり、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982)、ジョン・ウー監督の『ペイチェック 消された記憶』(2003)も例に漏れていない。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。