特集・コラム

映画のとびら

2022年4月22日

流浪の月|映画のとびら #177【全国共通鑑賞券プレゼント】

#177
流浪の月
2022年5月13日公開
★「流浪の月」の全国共通鑑賞券を抽選でプレゼント!

(C) 2022「流浪の月」製作委員会
『流浪の月』レビュー
闇の彼方に光はきらめくのか

 凪良(なぎら)ゆうが2019年に発表し、第17回本屋大賞を受賞した同名小説を実写映画化したシリアスな人間ドラマ。女児誘拐事件の「加害者」と「被害者」が15年ぶりに再会し、人生の新たな局面を迎えていく。「誘拐された女児」の成年期を広瀬すず。「元誘拐犯」を松坂桃李。広瀬と松坂は、吉永小百合主演作品『いのちの停車場』(2021)に続く共演。「女児」の現在の恋人を『あなたの番です 劇場版』(2021)の横浜流星が、「元誘拐犯」の恋人を『空に住む』(2020)の多部未華子がそれぞれ演じる。監督は『フラガール』(2006)、『悪人』(2010)、『怒り』(2016)の李相日。李の要望で『哭声/コクソン』(2016)、『パラサイト 半地下の家族』(2019)のホン・ギョンピョが撮影監督に招かれている。

 ひとりの少女が読書などをしながら公園で自分の時間を過ごしていた。やがて空は曇り、本のページに雨粒が落ちてくる。でも、少女はベンチを動こうとしない。彼女には帰る場所がなかったのだ。そこへひとりの少年が傘をかざす。「うち、来る?」。2カ月後、湖のほとりでふたりは警察に取り囲まれていた。

 15年後。長野県のとあるファミレスでバイトをしている家内更紗(かないさらさ/広瀬すず)は恋人の亮(横浜流星)と同棲中。一見、幸せそうな更紗だったが、折々によみがえってくるのは10歳の頃、19歳の少年と生活を共にしたあの夏の日々。少年の名は佐伯文(さえきふみ/松坂桃李)といった。彼とは読書をし、食事をし、話をするだけの関係。父亡き後にオトコをつくる母、性的干渉を加える従兄の少年に辟易していた更紗にとって、文との生活は十分すぎるほど心の安らぎだった。でも、そんな幸せな時間を世間は今も理解してくれない。ある日、バイト仲間との呑み会の帰りに、更紗は同僚の佳菜子(趣里)に誘われ、calico(キャリコ)という名の風変わりなカフェに入る。「いらっしゃいませ」。聞き覚えのある声に更紗は動揺する。注文をとりにやってきたマスターの顔を確かめると、その人はまぎれもなく文であった。

 男には確かに独特の性的嗜好があった。女は少女時代の性暴力が尾を引いている。15年前の夏の日、互いの弱みを理解する両者から生まれたのは、通り一遍の男女関係とは別種の、なんとも筆舌に尽くしがたい信頼関係だった。長い歳月を経て巡り会ったふたりを、運命はどこへいざなうのか。

 心に傷を負った男女の絆の物語、とするのが妥当だろうか。先入観や誤解によって社会の路頭に迷った者たちが互いに傷をなめ合う姿はひどく悲愴的であり、同時にロマンティックでもある。性的な意味を伴わぬ関係図はどこか家族間の思慕にも似て、安直なラブストーリーに転じない清廉さがある。一方で、これをある種の共依存と読み解く向きもあるだろう。隅々まで行き届いた演出の目のもと、そんな一筋縄でいかない複雑な感情、一面的な解釈に終わらせない心理表現が最大の見どころといっていい。

 立ち位置としては、阻害される者に対して徹頭徹尾、同情的。彼らを取り巻く環境は一部を除き、概ね「悪」として描かれ、警察や粗暴な恋人、写メを撮りまくる学生など、やや紋切り型に映る嫌いもあるだろうか。だからこそ、主人公男女の「小宇宙」が観客側の聖域として最後まで守られた、ともいえる。

 物語と俳優をどこまでも追い込んでいく李相日の演出法はここでも健在。心理を事細かに刻めば刻むほど、情感は重くなる。主人公男女が歩む道はどこまでも暗く、総じて朗らかに転じることはない。ただ、李相日は観客を穴蔵に突き落とすために感情を掘り下げているわけでもない。彼なりに光を探している。人間という生きものは度しがたい。けれど、美しい。これまでの作品同様、李相日はここでもわずかな光明を求めて主人公男女をさまよわせる。容赦がない。残酷である。喧噪と静寂の狭間で流れゆく彼らが並び寝るラストに、今なお出口なき闇を感じるか、ささやかな希望を思うかは観客次第だろう。

 2時間30分という尺、決して短くない。だが、その長尺に見合った語り口ではある。演出は堂々たるもの。ホン・ギョンピョの光の読み取り方=ライティングの妙も、演出家のこだわりを支えている。

 少女の面影を残す広瀬すずは更紗役が適任。痩身と無表情の中に絶望をにじませた松坂桃李も好演。横浜流星はこれまでにない汚れ役に転じて新たな関心を呼び込みそう。短い出演時間ながら、多部未華子の感情表現に心が動かされる観客も多いだろう。少女時代の更紗役・白鳥玉季もたまらなく可憐である。

 夏の日に、幼き更紗が文から借りて読む本はエドガー・アラン・ポーの詩集。音読されるのは『ひとり』(原題:Alone)という詩。更紗と文がたどる物語のトーンを考える上で読んでおきたい一編である。

 5月13日(金)全国ロードショー
原題:流浪の月 / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:150分 / 配給:ギャガ / 監督・脚本:李相日 / 出演:広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子、柄本明
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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