特集・コラム

映画のとびら

2022年4月22日

マリー・ミー|映画のとびら #176

#176
マリー・ミー
2022年4月22日公開


© 2021 Universal Pictures
『マリー・ミー』レビュー
歌姫俳優のロマンティックな夢物語

 人気歌姫ジェニファー・ロペスがプロデュースと主演を兼ねたラブストーリー。音楽界の女性セレブがひょんなことから平凡な数学教師と恋に落ちていく姿をロマンティックかつコミカルに描く。ロペスの相手役となる教師に『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)、『フレンチ・ディスパッチ/ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)のオーウェン・ウィルソン。ヒロインの婚約者役に、これが実写映画初出演となるコロンビア出身のシンガー・ソングライター、マルーマ。監督と脚本は『ラブ・アフェア 年下の彼』(2012)、『ウソはホントの恋のはじまり』(2013)の女性監督カット・コイロ。

 世界的歌姫カット・ヴァルデス(ジェニファー・ロペス)はキャリアと人生、両方の絶頂期を迎えつつあった。新曲《マリー・ミー》でデュエットを組む新進気鋭の歌手バスティアン(マルーマ)との「観客前結婚」をステージ上で華々しく開催する予定だったのだ。下町の小学校で数学教師を務めるバツイチ男チャーリー(オーウェン・ウィルソン)にとって、そんなイベントなど興味外。しかし、チケットを確保していた親友のスクールカウンセラー、パーカー(サラ・シルヴァーマン)とひとり娘のルー(クロエ・コールマン)に引きずられるような形でラジオシティ・ミュージックホールに向かう。盛り上がる会場では、今まさにクライマックスの瞬間が迫り、カットも壇上へ向かう準備を調えたばかり。だが、周囲のスタッフの様子がどうもおかしい。実は、このイベントを狙いすましたように、バスティアンがカットのスタッフと浮気している暴露映像がSNS上で拡散していたのだ。これを知ったカットは茫然自失。うつろな目をしたまま、ステージに上がってしまう。もはやバスティアンとの結婚などありえない。途方に暮れた目に映ったのは、客席で「マリー・ミー」の手書き文字を抱えていたチャーリー。何を思ったのか、カットは彼を新たな結婚相手に指名する。思わぬ事態に、世界中が仰天。とりあえず、期間限定で「結婚生活」はスタート。当初は形だけの仮面夫婦だったのだが、日を追うごとにふたりの心は変化していくのだった。

 ジェニファー・ロペスとともにプロデュースを務めるエレイン・ゴールドスミス=トーマスは、本作品の企画に接して、21世紀の『ローマの休日』(1953)と『ノッティングヒルの恋人』(1999)を想起したという。その印象にたがわず、当該の2作品を見る気分で臨めば、ほぼ同様の楽しみがもたらされる作品になっている。有名女性セレブと一般男性の「格差カップル」の恋模様など無論、浮世離れした絵空事であり、おとぎ話。開き直ったかのような明るさを全編に満たしつつ、ほどほどのリアリティーとトラブルのスリルを経由して、だれもが望むさわやかで王道のハッピーエンドへと突き進んでいく。

 ジェニファー・ロペス演じる歌手は、ロペスの歌手活動を地で行くような存在感。目に鮮やかなステージ衣裳もさることながら、持ち前の喉を遺憾なく披露してやまない。物語を埋め尽くすほどに彼女の歌声が全編にわたって流れており、この映画自体がひとつのコンサートになっているともいえる。

 『ノッティングヒルの恋人』のヒュー・グラントと同じく、女性セレブの相手役には喜劇色を帯びた俳優が選ばれている。オーウェン・ウィルソンはグラント以上に喜劇方向の俳優だが、人を安心させるようなとぼけた容姿や人間味でロペスの相手役にハマった。ロペスとは『アナコンダ』(1997)以来の共演。彼女との長い友情も手伝ってか、やりすぎない「笑い」を常識人の数学教師ににじませていて、うまい。観客はロペスと同じ比重でウィルソンの芝居を追いかけなくてはならない。

 笑いの部分では、助演陣が光る。スクールカウンセラー役のサラ・シルヴァーマンはお節介で騒々しいお祭り女ぶりが見事。問題収集に駆けずり回るカットのマネージャー役ジョン・ブラッドリーも、数学対決でいいところを見せるチャーリーの娘役クロエ・コールマンも優れた盛り上げ役。アメリカ映画のコメディーは俳優の味と実力で作品を引き締めるのだ。

 ジェニファー・ロペスは今や俳優というより歌手としての地位や知名度の方が上。それでも、盟友のゴールドスミス=トーマスと組んで、『メイド・イン・マンハッタン』(2002)、『ジェニファー・ロペス 戦慄の誘惑』(2015)、『セカンド・アクト』(2018)、『ハスラーズ』(2019)といった自身の主演作品を活発に製作し続けている。根は役者なのだろう。もしかしたら、最近よりを戻したベン・アフレックと『ジーリ』(2003)以来の共演作品も実現するかも。活力旺盛な歌姫俳優の今後に期待をつなげつつ、ロマンティックな夢物語を楽しんでいただきたい。

 4月22日(金)全国公開
原題:Marry Me / 製作年:2021年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:112分 / 配給:東宝東和 / 監督:カット・コイロ / 出演:ジェニファー・ロペス、オーウェン・ウィルソン、マル―マほか
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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