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映画のとびら

2022年4月28日

生きててよかった|映画のとびら #178【ムビチケプレゼント】

#178
生きててよかった
2022年5月13日公開
★「生きててよかった」のムビチケを抽選で3名さまにプレゼント!

©2022ハピネットファントム・スタジオ
『生きててよかった』レビュー
見られてよかった

 不遇の俳優時代を送る中、2009年に一念発起して中国へ渡り、ドニー・イェンやアンソニー・ウォンと堂々と渡り合った日本人がいた。その名も木幡竜(こはたりゅう)が齢45にして日本映画初主演作を完成。戦いの場でしか生きられぬボクサーにふんし、その苦悩と苦闘を令和日本の観客へ向けてスリリングにたたきつける! 企画の出発から6年、木幡とともに脚本を練り上げ、監督も務めたのは、今野浩喜主演の気骨な青春映画『くそガキの告白』(2011)を撮り上げた俊英・鈴木太一。

 楠木創太(木幡竜)はもうリングで勝てなくなっていた。長年のプロボクサー生活ですっかり体をむしばまれていた創太は、その夜、無様なノックダウンを喫し、ジムの会長(火野正平)から引退をほのめかされる。心痛で彼の試合を見ることもできない幼なじみで恋人の幸子(鎌滝恵利)は、ロッカールームで創太を抱きしめると、「結婚しよう」とささやくのだった。幸子との第2の人生は、しかし、創太にとって幸せを意味するものではなかった。どこの就職先でもうまくいかず、同僚にからかわれるとすぐに拳を振り上げてしまう。友人の松岡健児(今野浩喜)と絵美(長井短)の夫婦にはいろいろ慰められるが、その優しさは創太には逆に痛いだけ。そんな行き詰まった創太に「ファンだ」と言って近寄ってくる奇妙な青年がいた。彼、新藤勇(栁俊太郎)の案内によって、創太は怪しい地下格闘技の世界へと足を運んでいく。

 「ボクシングは麻薬だ」とつぶやいたのは小山ゆうの漫画『がんばれ元気』(1976-1981)に登場する天才ボクサー、海道卓である。高森朝雄&ちばてつやによる『あしたのジョー』(1968-1973)では、廃人となった世界ランカー、カーロス・リベラが自身を失いながらもボクシングの試合会場に流れてきた。まこと、ボクサーは戦争後遺症に悩まされる兵士のごとき、である。戦場でしかおのれを燃やすことができない。生を感じることができない。悲惨である。いたたまれない。実際にプロボクサーの経歴を持つ木幡だからこそ可能となったリアリティーが、「成れの果て」の物語を生々しく、鮮やかに彩っていく。

 アクション監督に『マンハント』(2018)、『ベイビーわるきゅーれ』(2021)の園村健介を招いての格闘シーンも半端な「型」だけに終わっていない。冒頭の創太の負け試合では、第 34 代 OPBF 東洋太平洋スーパーフライ級王者のプロボクサー、松本亮を投入し、実際のパンチを木幡の顔に入れた。本物のノックダウン映像を望んだ木幡の希望でもあったという。ムチャである。しかし、その「本気」は確かな手ごたえとなり、ドラマの後半を担う地下格闘技の場面をさらに際立たせた。

 もともと体脂肪10%だったスリム体型を映画のためにさらに3%にまで落とし込んだという木幡の信じがたい気合いは、これまた映像の緊張感にそのまま直結した。リングに転がる創太のボディーを目の当たりにして恐らく誰もが声を失う。この一滴の水分もなさそうな体は何なんだ、と。これだけ「身体」がドラマそのものを物語っている映画はなかなかない。絞りに絞りきった木幡の体、その「乾き」が見る者を圧倒する。真っ当な社会生活を送ることができない男の悲哀を肉体化する。恐ろしい。しかし、美しい。

 鈴木太一の演出にも賛辞を送らなければならない。無駄を省き、必要十分なショットだけを連ねたそこには、確かな人間の体臭が漂う。生活感があふれる。あっという間に引き込まれる。気取った場面などほとんどない。木幡のボディーにも似て、脚本も映像も見事な減量をやりとげている。

 俳優陣は全員、素晴らしい。創太の恋人・幸子を演じる鎌滝恵利は、木幡にも負けない体当たり演技を披露。愛する人間が傷つくところを正視できないがためにゆがみをはらむ女心を全身で見せた。鎌滝恵利の存在があったればこそ、この映画はラブストーリーとしての輝きも得られたとしていい。今野浩喜はコメディーリリーフ的な役割を担いつつ、主人公の人生の「セコンド」として存在感を放つ。創太の母親役の銀粉蝶、火野正平の会長はもっと出番を望みたくなるほどの安定感。栁俊太郎、長井短は出てくるだけでその場の空気をさらうムードメーカーだ。みんなに会いたくなる。みんなが恋しい。

 無味無臭の小綺麗な作品が尊ばれる令和のご時世で、ぶざまなほどに汗と血と涙をまき散らすこの映画には、喜怒哀楽、あらゆる感情がみなぎっている。ラストの一歩手前、木幡の笑顔が大写しとなる映像に題名が重なるとき、観客はその4種類の中からいったいどのような感情を呼び起こされるのか。

 俳優の覚悟がまぶしい。本気がうれしい。すさまじい格闘技映画であり、もがきのラブロマンスであり、社会に適応できないアウトローたちの悲劇であり、最終的には真っ当な道を歩けなかった弱い男と女の物語、とするべきだろうか。映画を見終えたとき、題名そのままの感想が出る人も決して少なくあるまい。

 5月13日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
原題:生きててよかった / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:119分 / 配給:ハピネットファントム・スタジオ / 監督・脚本:鈴木太一 / 出演:木幡竜、鎌滝恵利、今野浩喜、栁俊太郎、長井短、黒田大輔、渡辺紘文、三元雅芸、銀粉蝶、火野正平
公式サイトはこちら
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 単身、中国映画界へ乗り込んでいった木幡竜はそこで俳優人生をリスタートさせた。主な出演作品に、力石(!)役を演じたアンドリュー・ラウ監督、ドニー・イェン主演の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』(2011)、黒龍を演じたアクション映画『エンジェル・ウォーリアーズ』(2013)、サモ・ハン、倉田保昭が出演する『戦神/ゴッド・オブ・ウォー』(2017)などがある。テレビドラマではディン・グワンセン主演の歴史アクション『笑傲江湖/レジェンド・オブ・スウォーズマン』(2018)などがある。作品によっては中国人の役にも声がかかるというのだからすごい。

 2018年には、バーナード・ローズ監督、佐藤健主演の日米合作時代劇『サムライマラソン』にも出演し、長谷川博己演じる藩主を狙う刺客を演じている。綾野剛が主演したフジテレビ制作のテレビドラマ『アバランチ』(2021)では、秘密組織「極東リサーチ」の一員にふんした。

 ちなみに、映画『生きててよかった』(2022)では、創太がボクシングに目覚める契機となった作品としてシルヴェスター・スタローン主演の『ロッキー』(1976)が言及されている。木幡が生まれた年に全米公開された作品であり、木幡自身のボクサー人生にも影響を及ぼした映画かもしれない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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