特集・コラム
映画のとびら
2022年5月13日
20歳のソウル|映画のとびら #181【全国共通鑑賞券プレゼント】
2017年1月12日、ひとりの青年が世を去った。浅野大義(たいぎ)、20歳。千葉県船橋市立船橋高校時代に吹奏楽部に在籍し、同校の応援歌《市船 soul》を作曲。優しい家族や仲間に囲まれながら、わずかな人生を音楽とともに駆け抜けた。その情熱の日々をまとめた書籍『20歳のソウル 奇跡の告別式、一日だけのブラスバンド』(2018年刊)の著者でもある中井由梨子が自らシナリオ化。主人公の大義に『私がモテてどうすんだ』(2020)、『彼女が好きなものは』(2021)の神尾楓珠。彼の恋人・夏月に『思い、思われ、ふり、ふられ』(2020)、『しあわせのマスカット』(2021)の福本莉子。大義の親友・斗真に『真夜中乙女戦争』(2022)の佐野晶哉(Aぇ! group/関西ジャニーズJr.)。大義の母に『茜色に焼かれる』(2021)の尾野真千子。大義の恩師・高橋健一に『64 ロクヨン』(2016)の佐藤浩市。監督は元テレビ朝日の秋山純。これが映画監督デビュー作となった。
広がる青空のもと、校舎の屋上で吹奏楽部1年の浅野大義(神尾楓珠)はトロンボーンを高らかに吹いていた。音楽だけをやりたい彼は、部活動の一環とはいえ、「よさこい節」を踊らせようとする担当教員の高橋健一(佐藤浩市)に文句たらたら。そんな大義に健一は言う。「今しかできないことを精一杯やれ」と。やがて健一は大義にとって尊敬すべき師となっていく。
2年後。高校3年となった大義は、野球部のレギュラーから外され腐っている同級生の滝沢(松大航也)を励ます意味も込め、船橋市立船橋高校のための応援曲を書こうと一念発起。健一に「僕らにはテーマソングが必要」と訴えかけ、オリジナル曲《市船soul》を書き上げる。幕間に「攻めろ、守れ、決めろ、イチフナ!」というかけ声も加えたそれは、球場の応援スタンドを中心に名物応援曲になっていく。
高校を卒業すると、大義は健一の後継者を目指すべく、音楽大学へ進学。恋人の夏月(福本莉子)とともにキャンパス・ライフを楽しんでいた。だが、あるときから頻繁に咳き込むことが増え、検査の結果、担当医の星野(高橋克典)から胚細胞腫瘍という病名を告げられる。
真っ向から「青春の夭折(ようせつ)」という題材に取り組んだ「若者の絶唱記」。構成としては、最初の50分弱で高校時代から大学進学までを描き、その後が闘病記となる。学園生活や家族との日常における絆の風景を丁寧に描くことで、豊かな情感を後半へとつなぎ、はぐくんだ。もちろん、名曲誕生秘話の側面もあり、音楽映画の一種として感慨にふけることもできるだろう。いずれにせよ、音楽好きの青年と彼が生んだ応援曲、それぞれの「魂」の輝きに打たれること必至である。
闘病中の主人公は言う。「俺の時間はこんな病気と闘うためにあるんじゃない。音楽を作るためにある。夏月と一緒にいるためにある。俺は命より大切なもののために今を生きたい!」。
実話の説得力はどこまでも大きく重く、映画はそれにあらがうことなく、しっとり、じっくり、在りし日の出来事を重ねていく。涙から逃れることはたぶん、不可能だろう。
浅野大義を演じる神尾楓珠は、長髪の高校生よりも闘病中の短髪姿の方がすがすがしく、端的に言って美しい。その熱演もさることながら、脇を固める佐藤浩市、尾野真千子、高橋克典の芝居が涙腺破壊にさらに拍車をかけた。3人とも監督の秋山純とは『陽はまた昇る』(2011)、『狙撃』(2016)、『特命係長・只野仁』シリーズ(2003-2017)といったテレビドラマでのタッグ経験を持っており、秋山演出の重心をすでに心得ていたか。わずかな仕草、何気ない台詞回しで場面を固めるあたりは見事。ともすればやわになりがちな青春劇に人間ドラマの輪郭とひだを加えることに成功している。
個人的には、主人公から持ち込まれた楽曲が担当教師の指導、添削によって磨き上げられていく場面が捨てがたい。楽曲の充実が段階を踏んでかなうことで、師弟の絆をも本物にした。
原作の副題にあるとおり、主人公の告別式で映画はクライマックスを迎える。実際の葬儀に使われた場所を借り切っての撮影だったという。164人もの演奏希望者が斎場を埋め尽くし、主人公の編んだ楽曲を奏でるくだりは圧巻。「攻めろ、守れ、決めろ」のかけ声部分が、いったいどのような言葉に置き換えられたのか。友情の尽くしが愛おしい。《市船soul》よ、永遠に。若き魂は今もここに生きている。
たっぷり泣いていただきたい。
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<応募期間:
2022年5月13日(金)~18日(水)>
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
※小田急グループ関係者の応募はできません。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。