特集・コラム
映画のとびら
2022年5月20日
トップガン マーヴェリック|映画のとびら #182
トム・クルーズ主演による大ヒット航空アクション、36年ぶりの続編。旧友からの依頼で新たなミッションに挑んだアメリカ海軍エース・パイロットが、難攻不落の敵の要地を若きパイロットたちとともに攻略する姿を迫力の映像の中に描く。クルーズ演じるマーヴェリックの新たな恋の相手を演じるのは『ビューティフル・マインド』(2001)のジェニファー・コネリー。マーヴェリックのかつてのライバル、アイスマンには、前作に続いてヴァル・キルマーが登板。貫禄と思慕に満ちた名演を見せる。監督には、SFアクション『オブリビオン』(2013)でクルーズとタッグを組んだジョセフ・コシンスキー。
前作『トップガン』(1986)は、レーガン政権下に製作されたイケイケドンドンのかっ飛びアクション。若きパイロットたちの情熱の衝突が一種の青春映画的な興奮とほろ苦さも醸したわけだが、続編は時間の流れそのままにベテランのさらに向こうの年齢にまで達したトム・クルーズが看板を張った。夕日を背に、革ジャンを着て川崎のバイクをかっ飛ばすクルーズの姿は前作の気分を否応なく喚起させる。それでなくとも、前作で大ヒットした歌曲《デンジャー・ゾーン》が同じケニー・ロギンスの声でいきなり流れ、前作の音楽担当ハロルド・フォルターメイヤー(フォルターマイヤー)の作曲による主題曲《トップガン・アンセム》までガンガン響くのだからたまらない。若き日にこの映画に接した観客にとって、これはもはや青春時代への再訪。出世に背を向け、意固地なまでに現場にこだわる中年パイロットの姿には、一種の「ロートル応援歌」が感じられ、共感の涙を禁じ得ない。40~60代の観客にとって、ここでのトム・クルーズはきっと同時代の同窓生。「窓際」に追いやられても、友人の期待に応えるため人事を尽くす。若いモンに負けるなと思わず声が出そうだ。そして、トムはそんな我らのエールにクライマックスできちんと応えるのである。トムは必ずやる。
極秘作戦に使用する戦闘機に「F/A-18」をマーヴェリック=トムが指定するのもすごい。今や世界のあちこちの軍隊から「退役」させられつつある機体である。それを生かそうとするトム。同じ境遇にある仲間としての同情なのか。無論、違う。特殊作戦の環境にピッタリだから。そして、操縦者を生かす機体だから。機械よりも人間。その信念が熱い。「F/A-18」だけじゃない。映画には「F-14」も登場する。そう、前作でトムが搭乗した戦闘機だ。そこで出てくるのか、と。なんというオマージュ、なんというトリビュート。思わずプッと吹き出しつつ、オジサン、オバサン観客は心の中で熱狂の声をあげるだろう。
懐メロ気分に浸っているだけではない。空のアクションはかなりグレードアップ。前作の比ではない。トムのひと言により、パイロット役の俳優は全員、5カ月も戦闘機での飛行訓練を積んだという。そう、彼らが飛んでいる映像は全部、本当に飛んでいる映像なのだ。合成処理を捨て、コックピットにはIMAXカメラも設置。いったい、どれほどのお金を注ぎ込んでいるのか。こういうハリウッド大作に遭遇すると本当にかなわない。実際、その成果はすさまじい。迫力が半端ない。こういうのを体感映像というのだろう。『スーパーマン』(1979)で使用されたキャッチコピーをそのまま借用すべきだ。「あなたも飛べる」と。鑑賞の際はできるだけ大きなスクリーンを探していただきたい。
人間ドラマの面では、マーヴェリックとアイスマンの再会場面がやはり感動的。登場人物としてという以前に、トム・クルーズとヴァル・キルマーの長い空白を経た再会=再共演なのである。トムは前作同様、キルマーの出演にこだわった。スターの面影を失いつつある中年俳優を、晴れのアクション大作に出すなんてどうかしている。そんな映画会社の声をねじ伏せたトムの友情の尽くし、慈しみが、裏事情を知らずとも映像からビシビシ伝わってくる。それに応えるキルマーの笑顔もステキだ。映画を超えた同窓会だろう。
構造的には『トップガン』+『ミッション:インポッシブル』。近年、後者のシリーズを作りまくってきたトムにとって、それは自然な流れといえるだろう。ただ、いつまでも無敵で年齢を感じさせないイーサン・ハントに対して、マーヴェリックはオジサン。いくらバキバキに鍛えた肉体を持つとはいえ、飛行能力しかないのである。そこに別のスリルが発生する。実は、これは生身の人間ドラマ。生身の軍人の物語。超人の話ではない。見ながら思う。作戦は成功するだろうが、本当に大丈夫なのか、と。そんな匂いが立ちこめる。実際、苦戦する。その完璧からちょっと遠い雰囲気はトム・クルーズの容姿にもにじんだ。頬はたるんでいる。でも、心地よい。肌も疲れている、でも、愛おしい。ここには等身大のトムがいる。今年、還暦を迎える男が。それを誰もが感じられる。そこが、いい。さらに数十年後、もっとジジイになったマーヴェリックが見たくなる。そこにもきっと、等身大のトム・クルーズが立っているはずだから。
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1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。