特集・コラム
映画のとびら
2022年6月3日
ALIVEHOON アライブフーン|映画のとびら #185【特製ステッカープレゼント】
横滑り走行で勝敗を決する日本発祥のモータースポーツ「ドリフト」を題材にした青春アクション。eスポーツ界の若き日本チャンピオンが解散の危機にあるドリフト・チームにリクルート。リアルなレースの世界で仲間とともに頂点を目指していく。主人公のゲーマー・大羽紘一(おおば・こういち)に『日々ロック』(2014)、『ちはやふる 上の句/下の句』(2016)の野村周平。紘一を「チームアライブ」に誘う新米メカニック・夏実に『転がるビー玉』(2020)、『ハニーレモンソーダ』(2021)の吉川愛。紘一のライバル・小林総一郎に『たたら侍』(2017)、『孤狼の血 LEVEL2』(2021)の青柳翔。同じくライバルの柴崎快に『ブレイブ -群青戦記―』(2021)の福山翔大。「チームアライブ」のベテラン・メカニックに『殺すな』(2022)の本田博太郎。夏実の父で「チームアライブ」の元トップドライバーに『超高速!参勤交代』(2014)の陣内孝則。監督は『SHINOBI』(2005)の下山天。
横滑走によるモーター・レースといわれても、大半の人間にはピンと来ないはず。実際、わずかなコーナリングが勝負どころとなり、短い時間で決着する構造の同レースは、映画を見ていてもなかなかすぐには呑み込めない。ただ、ドリフト映像が積み重なり、仕組みに目が馴れ、レースのルールや作法が徐々に明らかになると、その面白さがじんわり伝わってくる。レース映画となれば、だれもがアクロバットな合成映像を連想するところだが、なんとこの作品では乗車場面でのCG加工はゼロ。物語が半ばを過ぎる頃には、ハイスピード映像を多用した「車間ギリギリショット」にいつの間にか手に汗を握っていることだろう。映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006)のテクニカルアドバイザーを務め、「ル・マン」の元レーサーでもある「ドリフトキング」こと土屋圭一が監修を担当。その指示のもと、現役のドリフト・ドライバーがハンドルを握ってのレース映像はまさに現場の「折り紙付き」。俳優陣も実際に車に乗り込み、「走行圧」を感じながら役を演じたという。実物を使って、体感映像をそのまま使う。その「本物志向」、『トップガン マーヴェリック』(2022)を連想させる。同時期公開というのも互いが引き寄せ合ったのか。ともあれ、作り手の「本気」は、気合いのレベルにおいてハリウッドの航空機大作と遜色がない。
ゲームシートから本物の運転席へ。一見、あり得なく映る設定も、現実に起きている事象とのこと。その前提で編まれたオリジナルストーリーでは、若きゲーマーと新米メカニックの関係を通して青春映画の香りも立ち上らせた。普段、奔放な発言で何かと注目されている野村周平だが、ここでは寡黙に「実戦」に挑み、おのれの流儀を生かす天才ゲーマーを好演。その「闘い」を気丈に支える吉川愛は機械油で汚れた顔がチャーミング。かつて『渾身 KON-SHIN』(2013)で相撲取りを演じた青柳翔は当時よりも「どすこい」的な迫力が増してライバル感十分。福山翔大も生意気なドライバー役をラストで気持ちよく着地させ、どれほどの即興演技を繰り出してくるかと思われた本田博太郎は意外や、口数の少ない「重鎮ぶり」を見せて逆に新鮮。陣内孝則は「お山の大将」的気分を嫌味なくドラマに刻んでいる。この映画はカー・アクションを見るのと同等に、役者を見る映画だといっていい。見るべき芝居がきちんと演じられ、適切に切り取られている。下山天の監督作品を振り返っても、上位に入る映像の仕上がりになっているのではないか。
ドリフトの聖地は、福島県二本松市に位置する「エビスサーキット」だという。かねてより福島の復興活動に尽力してきた下山は、同レース会場を筆頭に、映画のロケをほとんど福島で行った。そういう情熱もこの映画には刻まれている。福島の再生はもちろんのこと、昨年11月をもって閉鎖されたエビスサーキットの在りし日を残した作品としても、この映画は「心の聖地」になっていくかもしれない。
タイトルの「ALIVEHOON」とは、下山によれば「ALIVE」=生きる、「HOON」=「走り屋」の俗語、すなわち「今を生きる走り屋たち」とのこと。「ふーん」などとのんきにうなずいている場合ではない。映画館に駆けつけ、関係者たちの努力の成果をしかと目撃していただきたい。
公式サイトはこちら
「ALIVEHOON アライブフーン」の特製ステッカーを
抽選で3名さまにプレゼント!
◆ご応募はOPカードWEBサービスからエントリーしてください。
<応募期間:
2022年6月3日(金)~22日(水)>
※当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
敏腕ゲーマーが実戦に飛び出していく作品といえば、ニック・キャッスル監督の『スター・ファイター』(1984)が思い出される。田舎町の青年(ランス・ゲスト)がビデオゲームの腕を異星人に見込まれて、宇宙戦争に参加していくという物語。思えば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の主人公マーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)も実は射撃ゲームの名手。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTⅢ』(1990)では開拓期の西部でその腕前を発揮するのである。
カーレース映画には、スティーヴ・マックィーン主演の『栄光のル・マン』(1971)やバート・レイノルズ主演のストックカーもの『ストローカーエース』(1983)、同じくトム・クルーズ主演のストックカー・レース映画『デイズ・オブ・サンダー』(1990)、シルヴェスター・スタローン主演の『ドリヴン』(2001)、ジェームズ・ハントとニキ・ラウダの関係を描いた『ラッシュ/プライドと友情』(2013)、そしてマット・デイモン×クリスチャン・ベイル共演のル・マンもの『フォードvsフェラーリ』(2019)など、秀作、人気作がいっぱい。いずれも見ごたえたっぷりである。
日本でも過去にレース映画が製作されている。石原裕次郎プロデュース・主演のサファリ・ラリーもの『栄光の5000キロ』(1969)、池沢さとし原作の漫画を映像化した『サーキットの狼』(1977)、角川春樹の初監督作品『汚れた英雄』(1982)、高倉健主演のパリダカール・ラリー映画『海へ -See You-』(1988)あたりは参考のために押さえておきたいところ。
公道レースものでは、日本のコミックを香港映画人が映像化した『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』(2005)、大鶴義丹主演の『首都高速トライアル』(1988)などが注目作だろうか。その大鶴には『湾岸ミッドナイト』(1991)という人気のオリジナルビデオ作品もあり、さらに『ドリフトヒーロー』(2010)なるオリジナルビデオ作品にも脇で顔を出している。後者は高校生(佐藤博樹)がドリフトにトライするお話。ご興味のある方、どうぞ。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。