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特集・コラム

映画のとびら

2022年6月24日

ベイビー・ブローカー|映画のとびら #188

#188
ベイビー・ブローカー
2022年6月24日公開


ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED
『ベイビー・ブローカー』レビュー
そして「家族」になる

 第52回カンヌ映画祭の「コンペティション」部門で最優秀男優賞(ソン・ガンホ)、およびエキュメニカル審査員賞を受賞。『万引き家族』(2018)の是枝裕和監督が韓国に渡り、韓国の映画製作会社のもと、韓国人スタッフ、キャストとともに作り上げた人間ドラマだ。「赤ちゃんポスト」に預けられた乳児を横流しして大金をせしめようともくろむブローカーたち(ソン・ガンホ&カン・ドンウォン)、乳児を産んだ若い母親(イ・ジウン)、そしてブローカー逮捕に血道を上げる女性刑事たち(ペ・ドゥナ&イ・ジュヨン)ら5人の駆け引きと旅の顛末(てんまつ)を描いていく。是枝にとっては、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ共演の『真実』(2019)に続く海外製作作品となった。

 ブローカーが主人公ということで、シリアスで重い社会派ドラマを連想すると、ちょっと当てがはずれるかもしれない。もちろん、赤ちゃんポストは是枝が数年来、題材として考えていた「社会問題」の一端であり、乳児ブローカーも犯罪なのだが、各登場人物に向けられた是枝の目線は温かく、ただのひとりとして定型の悪人におとしめていない。悪を断罪するというより、結果として悪を行ってしまう、そういう状況に陥ってしまう人間の業、人生のゆがみを哀れみ、優しく慈しんだ物語といえるだろうか。

 是枝はブローカー役のソン・ガンホとカン・ドンウォン、刑事役のペ・ドゥナという3人の愛着ある俳優たちについては当て書きで脚本を仕上げていったとのことで、その時点で悪人が誕生するはずがなかった。ソン・ガンホなどは最たる例で、あの憎めない笑顔が踊る宣伝ポスターにすべてが語られている。それでなくとも、是枝はキャラクターを創造するにあたり、往々にして脚本上には描かれない細かいバイオグラフィーを用意する筆まめな監督なのだ。カン・ドンウォン演じるブローカーの相棒役には児童養護施設出身という過去が加えられ、乳児の母、女性刑事にもそれぞれいかんともしがたい問題、事情が託されていた。サスペンスフルな刺激からは遠いが、代わりにきめの細かい人間ドラマを味わうことができる。

 無論、赤ちゃんポストをめぐる問題意識、親からの養育を放棄された子どもへの視点が、そもそもこの作品の「良心」として機能している。「生まれてきたことを祝福したい」との旨を是枝は語っているが、その人間讃歌の姿勢がそのまま「エキュメニカル審査員賞」につながった。同賞は、キリスト教関連団体から「人間の内面を豊かに描いた作品」に与えられるもの。確かに、是枝裕和はカンヌ映画祭のキュレーターに好まれている。審査員からも幸運にも、何度も支持を得た。だが、こびへつらっているわけではない。たとえば、社会問題に目を向ける傾向は、ドキュメンタリー出身ということが大きい。登場人物のバイオグラフィーを作成する手法も、人間観察の時間をきっちりとってきたジャーナリスト的な性分ゆえだろう。

 作風の一貫をひもとくなら、ブローカー、刑事、若い母親が、乳児の行く末をめぐって、やがて共同体的結束をかなえる部分に答えを見いだしてもいい。一部の例外を除き、是枝が手がける作品は、往々にして家族、もしくは疑似家族についての物語が多い。さらに、この作品では、養父母探しの旅が心の交流の経緯と重なり、一種のロードムービー的旅情感も漂わせている。そのあたりがまた観客の歓心をかき立てる要因となっており、疑似家族の形成に無理を感じさせない。物語だけでなく、是枝は映画を見る観客たちにも家族的な融和を求めているかもしれない。それが作品に漂う温もりの正体なのかもしれない。

 演出は懇切丁寧。役者陣も好演。過激な描写はほぼない。だれもが安心して見られる作品だろう。

 『万引き家族』の親戚みたいな作品。『万引き家族』を見る気分で接して何ら問題はない。社会の片隅で寄り添う是枝映画の登場人物たちは、現代を生きる我々にとってもきっとひとつの憧憬である。

 6月24日(金)全国ロードショー
原題(英題):Broker / 製作年:2022年 / 製作国:韓国 / 上映時間:130分 / 配給:ギャガ / 監督・脚本:是枝裕和 / 出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン イ・ジュヨン
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『ベイビー・ブローカー』出演者をめぐって

 是枝裕和がブローカー役に指名したソン・ガンホは今や韓国を代表するベテラン俳優。鼻筋の通った美男子というわけではないが、複雑な思いを抱えた男、純情一徹の男、そんな正反対の役を難なく表現できる懐の深さと、人懐っこい笑顔の持ち主である。ポン・ジュノ監督との『殺人の追憶』(2003)、家族のためにモンスターと戦った『グエムル 漢江の怪物』(2006)、相手役としてチョン・ドヨンにカンヌ映画祭主演女優賞をもたらした『シークレット・サンシャイン』(2007)、米アカデミー賞を席巻した『パラサイト 半地下の家族』(2019)など、どの出演作も興味を引くはず。

 ソン・ガンホのブローカーを支えるパートナーを演じたカン・ドンウォンについて、是枝は『義兄弟 SECRET UNION』(2010)が印象的だったと語っている。北朝鮮の工作員を演じたこの作品で、カン・ドンウォンはソン・ガンホと共演。最近では、伊坂幸太郎の同名小説を原作に韓国でリメイクした『ゴールデンスランバー』(2018)での必死の逃走劇、ヨン・サンホ監督との『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)でのゾンビや悪辣軍隊との戦いが評判を呼んだ。

 刑事役のペ・ドゥナは、是枝と『空気人形』(2009)ですでに顔合わせ済み。心を持ったラブドールはこの女優の勇気と演技力がなければ実現しなかった。女子高校生バンドの一員になった『リンダ リンダ リンダ』(2005)、ハリウッドのオムニバス大作『クラウド アトラス』(2012)、警官を演じているという点で『私の少女』(2014)などは見る価値があるかも。

 若い母親を演じたイ・ジウンはテレビドラマ『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018)での演技が是枝の目にとまった。ペ・ドゥナの相棒を演じるイ・ジュヨンはテレビドラマ『梨泰院クラス』(2020)、映画『春の夢』(2016)で是枝の関心を引いた。最近では『野球少女』(2019)でのプロ野球入団を目指す一途な努力家ヒロインがなんといっても素晴らしい。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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