特集・コラム

映画のとびら

2022年7月14日

戦争と女の顔|映画のとびら #191【全国共通特別鑑賞券プレゼント】

#191
戦争と女の顔
2022年7月15日公開
★「戦争と女の顔」の全国共通特別鑑賞券を抽選で3名さまにプレゼント!

© Non-Stop Production, LLC, 2019
『戦争と女の顔』レビュー
戦争はどんな顔をしている?

 第72回カンヌ映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞と監督賞を獲得したほか、第46回ロサンゼルス映画批評家協会賞で外国語映画賞を受賞するなど各国で絶賛された戦争ドラマ。第二次世界大戦直後のレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)を舞台に、戦争後遺症を抱える看護師とその友人の姿をシリアスなタッチで描いていく。着想の元となったのは、ノーベル文学賞受賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー・ノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(1985年発表)。監督は、ロシア映画界の大御所アレクサンドル・ソクーロフ(『エルミタージュ幻想[2002]、『太陽』[2005])のもとで学び、これが長編第2作となるロシアの新鋭カンテミール・バラーゴフ。

 英語原題「Beanpole」は「のっぽ」の意。この映画の主人公である背の高い女性看護師イーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)を指している。1945年秋、軍病院に勤める彼女は、あどけない3歳の少年パーシュカ(ティモフェイ・グラスコフ)とふたり暮らし。パーシュカは病院で看護師仲間や傷病軍人たちにも人気者だった。ある日、イーヤの部屋に、戦地で同じ対空射撃手だった友人マーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が訪ねてくる。「私の子パーシュカはどこ?」と尋ねるマーシャに、イーヤはまともな答えを返せない。その戸惑いの描写から、早速、この映画はズシリと重い。いや、映画の冒頭、体を硬直させて身動きもできずにいるイーヤのクローズアップからして重かった。彼女は戦地での経験から心的外傷をわずらっており、時折、前ぶれもなく目がうつろになり、誰の声がけにも反応できずにいる。

 ある種、「てんかん」にも似た症状だろうか。いったい、イーヤは戦場で何を見たのか。一方、戦友のマーシャも「傷」を負っていた。戦地で腹部をやられていた彼女は、もう子どもを産めない体になっている。にもかかわらず、マーシャはパーシュカに続く新たな子どもを欲しがった。その「手段」を何のためらいもなく戦友に伝え、戦友も彼女の望みをかなえようとする。痛い。痛すぎる。

 監督がオリジナルで脚本を執筆するに当たって参考にしたアレクシエーヴィチのノンフィクションは、具体的には戦地に従軍した女性たちの証言集である。映画のヒロインたちはその著作に登場する500人あまりの女性たちを集約させた存在といえるだろう。アレクシエーヴィチによれば、当時のソ連で従軍することになった女性は100万人以上もいたとのこと。そもそも、レニングラードという地名を聞くだけで、独ソ戦争の惨状が迫ってくるというのに、戦時中はおろか、戦後もさまざまな苦しみを抱え込むことになった彼女たちの「事実」は、フィクションの形をとることで現代的な「真実」に変換され、胸に迫ってくる。

 戦争は仮に勝利を得ても「辛勝」でしかない。兵士も民間人もなんらかの地獄を見る。この映画に登場する戦争直後のレニングラードでは皆、心が渇ききっている。絶望が日常化している。つらい。マーシャの考え方に疑問を持つ者も多いだろう。イーヤの従順に友情を超える「何か」を理解できても、その行動をまっすぐに受け止められない観客もいて当然である。なぜなら、それらの「ゆがみ」がイコール「戦争」なのだから。ここには戦争の「膿み」がある。戦場が蹂躙(じゅうりん)した人間性の悲劇がある。

 ロシア語原題も英語原題と同様、「のっぽ」を指している。だが、決してきれいごとでは生きられなかった戦後の女性たちを象徴するダブル・ミーニングにもなっているという。イーヤとマーシャを演じる女優はそれぞれこの作品が女優デビュー、長編映画デビューとのこと。余計な色、志向に染まっていないからこそ、現代にも通じる問題意識をその身ひとつ、体当たりで表現し切れたのかもしれない。

 安直なハッピーエンドはない。かといって、お涙頂戴の悲劇にも終わらせていない。その狭間にたゆたうように、映画は静かに終わっていく。演出は的確。迷走や間延びのたぐいはない。だが、ある種の覚悟が必要かもしれない。ユーモアが盛り込まれている箇所を探すのがこれほど難しい作品もないはずだから。もしもこの物語をコメディーとして笑い飛ばせる存在があるとしたら、それは「戦争」だけだろう。

 戦争は女の顔をしていない。しかし、男の顔とも言い切れないだろう。いったい誰の顔なのか。どんな顔をしているのか。きっと、それを考える映画でもある。

 7月15日(金)全国順次ロードショー
原題:Dylda(英題:Beanpole) / 製作年:2019年 / 製作国:ロシア / 上映時間:137分 / 配給:アット エンタテインメント / 監督・脚本:カンテミール・バラーゴフ / 出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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