特集・コラム
映画のとびら
2022年7月21日
野球部に花束を|映画のとびら #193【全国共通鑑賞券プレゼント】
クロマツテツロウによる『月刊少年チャンピオン』連載のコミック『野球部に花束を ~Knockin’ On YAKYUBU’s Door~』(2013-2017/秋田書店刊)を映画化した青春コメディー。中学卒業を区切りに野球と縁を切ろうとしていた高校生が、うっかり公立高校野球部に入部してしまったことで直面する過酷な練習の日々、及び仲間とのバカバカしくも充実した日常を笑い満載で描いていく。主人公の黒田鉄平には新海誠監督の大ヒット・アニメーション映画『天気の子』(2019)の帆高役で注目を集め、NHK朝ドラ『舞いあがれ!』(2022-2023)への出演も決まっている醍醐虎汰朗。鉄平のチームメート・桧垣主圭(きみよし)に『刀剣乱舞』(2015-2019)、『るろうに剣心 京都編』(2022)などの舞台作品で人気の黒羽麻璃央。野球部の熱血鬼監督・原田に髙嶋政宏。監督は『ステップ』(2020)、『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~』(2021)の飯塚健。
原作漫画の副題となっている「Knockin’ On YAKYUBU’s Door」は、恐らくボブ・ディランがサム・ペキンパー監督の西部劇『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973)のために書いた歌曲《天国への扉(Knockin’ On Heaven’s Door)》をもじったものだろう。若きガンマンの悲哀に高校球児の苦闘を自虐的に重ねた格好であり、飯塚監督の「野球でなく、野球部を撮った」との言葉に正しく、伝統的に「体質」の変わらぬ同部活動の「トリビア的実態」を、愛惜を持って笑い飛ばした作品といっていい。
設定は令和の現代だが、やっていることはほぼ日本古来の「封建社会的上下関係&しごき」。頭は丸刈り、休みは基本なし。先輩・監督の言うことは絶対で、個人よりもチームを優先。思春期の高校生にはまさに「地獄」といっていいが、悲劇であればあるほど笑いも引き立つというもの。恐怖のあまり、強面の先輩の顔が俳優の小沢仁志に見える場面では実際に小沢仁志に演じさせ、「野球部トリビア」が紹介されるくだりでは里崎智也をワイプで「あるある解説」させるなど、バラエティー番組のりのギャグも満載。クスリとさせながら、時代錯誤のような日々を、普遍的にしてかけがえのない青春の1ページへと昇華させていく。
この映画は、あくまでも公立校が舞台。天才的才能を持った野球選手は登場せず、奇跡の逆転劇が起きるようなスポーツ・ドラマでもない。スター選手は強豪校に引き抜かれ、集まってくるのは凡才だけ。甲子園という檜舞台に出場できるのは全国4,000以上もある高校から選ばれた49校のみ。確率でいえば1%のエリートしかスポットを浴びることができない。それどころか、弱小野球部でもベンチ入りすることすらできない選手だっている。飯塚が描こうとしたのは、それ以外の、極めて平均的な野球部の姿だった。そこに集まった部員はたぶん、僕ら自身。大きな栄光はつかめなくとも、心が通じ合う仲間がいた。一緒にバカをやった。人気庶民映画にあやかるなら、「野球部はつらいよ」といったところか。人情深いテキ屋の兄ちゃんが毎度、惚れた女性にフラれ、家族ともめるように、野球部員も同じ失敗、所業を繰り返す。だから、愛おしい。部活動という枠組みに、確かに青春と人生があった。
醍醐虎汰朗は人気俳優への階段を上り始めたばかり。登場人物以上に野球部が主人公ともいうべき作品で、目立ちすぎず、それでいて明快な存在感を放ち、いい塩梅で平均的な高校生感を出している。2.5次元的作品で人気を獲得し始めた黒羽麻璃央も、ここまで一般人っぽく汗臭い作品は初めてだろう。「野球に狂え!」と叫びまくる髙嶋政宏はコミック芝居を全開。コメディーリリーフとして鮮やかこの上ない。
ほぼ男一色の出演陣にあって、鉄平が恋心を抱く女子同級生役で浅野杏奈が紅一点で輝いた。わずかな出番ながら、新入女子部員役で登場する清田みくりも一服の清涼感を醸している。
飯塚の監督作品でいけば、髙嶋政宏も出演している『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』(2011)の気分で見ていい種類の作品。『風俗行ったら人生変わったwww』(2013)のお笑い感覚も無論、共通している。総じて、無邪気なスポーツ喜劇。この映画を見る人全員の青春に花束を!
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2022年8月3日(水)まで>
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高校野球を題材にしたコメディーといえば、日本映画では山口雄大監督の『地獄甲子園』(2003)当たりが思い出されるだろうか。漫☆画太郎による同名コミックの映画化作品で、中島丈博の漫画『アストロ球団』(1972-1976)をより過激に、よりバカバカしく発展させた作品。野球抜きでいえば、韓国映画『火山高』(2001)にも気分が近いかもしれない。人がいっぱい死ぬので、そこはご用心。
島本和彦の同名熱血漫画を映画化した『逆境ナイン』(2005)もバカバカしさではなかなかのもの。廃部に追い込まれようとしている弱小野球部が甲子園を目指す物語。玉山鉄二演じる主人公・不屈闘志が見せる魔球には思わずプッと吹き出すはず。須賀健太、小関裕太、山本涼介が3バカ高校野球選手を演じた『ちょっとまて野球部!』(2008)などは、ほのぼの喜劇として楽しめる。
野球コメディーとなれば、お国柄、アメリカ映画に多い。少年野球ではテイタム・オニールが見事な野球少女を演じた『がんばれ!ベアーズ』(1976)があり、大リーグものではトム・ベレンジャー、チャーリー・シーン共演の『メジャーリーグ』(1989)がある。後者のシリーズ化では、『メジャーリーグ2』(1994)と『メジャーリーグ3』(1998)に日本人選手役でとんねるずの石橋貴明が出演。
トム・セレック、高倉健共演の『ミスター・ベースボール』(1992)は、中日ドラゴンズにアメリカからメジャー選手がやってきて活躍するお話。ナゴヤ球場(当時)で大々ロケが敢行されことも話題になった。同じく日本を舞台にした米野球映画となると、『がんばれ!ベアーズ』シリーズの第3作『がんばれ!ベアーズ大旋風』(1978)もある。こちらは子どもたちが野球場だけでなく、プロレスのリングやテレビ番組『オールスター家族対抗歌合戦』に紛れ込み、アントニオ猪木や萩本欽一と絡んで大騒ぎ。野球よりもカルチャー・ギャップで笑わせようと腐心している節があり、それはそれで微笑ましい。
ヒジの手術で剛速球を投げられるようになった少年の大活躍を描く『がんばれ!ルーキー』(1993)、トム・ハンクスが監督役を演じる女子プロ野球の実録映画『プリティ・リーグ』(1992)なども、ほどよい笑いを楽しむには打って付けの佳作だ。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。