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映画のとびら

2022年8月5日

ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ|映画のとびら #196

#196
ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ
2022年8月19日公開


©︎2021 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
『ロッキーVSドラゴ:ROCKY Ⅳ』レビュー
地に足をつけた4本目のロッキー物語

 劇場初公開時から36年。シリーズ第4作にして最大のヒットを飛ばした『ロッキー4/炎の友情』(1985)が新たな形でよみがえることになった。監督・脚本・主演を務めたシルベスター・スタローン自らが新たに編集の手を加え、およそ42分の未公開映像を投入。「究極のディレクターズ・カット」として、2021年11月11日、アメリカでの一夜限りの特別上映(オリジナル版の全米公開は1985年11月21日)を経て、今年2022年、日本では全国公開の運びとなった。

 物語の大筋は変わらない。ソ連(現在のロシア)のアマチュア・ボクシング界の王者アイヴァン(イワン)・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)がプロへ転向、国際親善の一環と称してアメリカでのエキシビション・マッチを申し込む。ソ連側は対戦相手としてロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)を希望。しかし、ドラゴの来米記者会見を見て憤慨したロッキーの盟友アポロ・クリード(カール・ウェザース)が代替選手として名乗り出る。ろくにドラゴのことを調査しなかったアポロはドラゴに2ラウンドKO負け。友を失ったロッキーは単身、ソ連に乗り込んでドラゴとの決戦に挑んでいく、というもの。

 今回のディレクターズ・カットで大きく変わったといえるのは前半部分。差し障りのない範囲で記すなら、まずタイトルバックが違う。オリジナル版ではサバイバーの歌曲《アイ・オブ・ザ・タイガー》に乗せて、アメリカとソ連、それぞれの国旗を刻んだボクシング・グラブが衝突し炸裂する派手な映像が用意されたが、ここでは黒地のバックに白文字の原題が右から左へ流れるのみ。地味、といっていい。ただし、それこそがこの作品の新規再構成における意図でもあった、とするべきだろう。

 フッテージの変化でいくと、オリジナル版で大きく目立った「家事ロボット」の登場場面がすべてカットされている。ドルフの妻を演じたブリジット・ニールセンの出番も減った。代わりに、大幅に増えたのは前作『ロッキー3』(1982)の映像。強敵グラバー・ラング(ミスター・T)に敗れたロッキーに「虎の目」を取り戻させるため必死の後押しをするアポロ、その尽力と友情を大きく盛り込んでいる。

 オリジナル版が製作・劇場公開された当時、アメリカはレーガン政権下。タカ派のイケイケドンドンの世情があり、東西冷戦をめぐるにらみ合いも一種のピークにあったといっていい。両国のグラブが激突するタイトルバックはまさに「戦争」を喚起させ、その興奮を試合場面に直結させた感がある。しかし、1989年、ベルリンの壁が崩壊。今でこそプーチン采配のロシアが台頭し、新たな対立が取り沙汰されているが、それらの「傷」にスタローンは塩を塗りたくるようなことはしたくなかったのだろう。

 スタローンは「前の『ロッキー4/炎の友情』を作った頃の俺は、今よりかなり薄っぺらだった」との声明を発表しているが、70代半ばとなった今、視野も広がり、人間として落ち着いたのかもしれない。当初、富豪になったロッキーの現状をユーモラスに示す象徴であった「家事ロボット」は、恐らく今となっては「調子に乗っている愚かな若さ」のそれでもあり、大人となったスタローンには恐らく耐えがたく、恥ずべき過去でしかなくなった。それならば『ロッキー3』の映像をふんだんに取り入れることで、ドラゴをめぐるロッキーとアポロ、両者の感情のうねりを倍加させ、ドラマとしての厚みを修繕できないだろうか。そんなスタローンの意志が誰の目にも明らかになっている。

 常々、スタローンは『ロッキー』シリーズをスポーツ・アクションではなく、「ロッキー・バルボアをめぐる人間ドラマ」と規定している。公開当時、一部で「ミュージックビデオのようだ」と揶揄(やゆ)されたオリジナル版について、スタローンは映画としての確かな重心を持った作品に修復したいとずっと願っていたのかもしれない。興奮よりも心のひだを重視した流れを取り戻せないか、と。その目的はついに果たされた。地に足のついた4本目の「ロッキーの物語」がここに新しく生まれたわけである。

 すでにオリジナル版になじんでいる観客には、一見、どこが増えたのか、なかなか判別がつかないほど絶妙に盛り込まれた新規未公開映像を見いだす面白さがあるだろう。これが初めての「ロッキー体験」となる観客にとっては『ロッキー3』映像の増加がきっとドラマを解釈する助けになる。

 『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)では、リングの上ではなく、薄暗いストリートファイトで勝負が決しており、やはり前作『ロッキー4/炎の友情』との落差を叫ぶ観客も少なくなかった。その意味では、今回の再構成によって、少なくともシリーズ第1~6作におけるドラマ面でのバランスはとれたといえるかもしれない。スピード感あふれる派手なオリジナル版と、人間ドラマ面を重視したディレクターズ・カット版。「家事ロボット」が大好きなファンにはガマンならない暴挙に映るかもしれないが、今回、ひと粒で二度おいしく楽しめる機会をつくってくれたスタローンのこだわりに我々は感謝していい。

 8月19日(金)全国ロードショー
原題:Rocky IV: Rocky Vs. Drago / 製作年:2021年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:94分 / 配給:カルチャヴィル、ガイエ / 監督・脚本:シルベスター・スタローン / 出演:シルべスター・スタローン、ドルフ・ラングレン、タリア・シャイア、カール・ウェザース、ブリジット・ニールセン、バート・ヤング、ジェームズ・ ブラウン、トニー・バートン、マイケル・パタキ、ロバート・ドーンニック、ストゥ・ネイハン
公式サイトはこちら
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ドルフ・ラングレンという人間核弾頭

 映画『ロッキー4/炎の友情』(1985)が生み出した最大のキャラクターは、もちろん「家事ロボット」ではなく、ソ連ボクサー、アイヴァン(イワン)・ドラゴだろう。演じるドルフ・ラングレンはスウェーデン出身の空手家。モデルのグレイス・ジョーンズの勧めで『007/美しき獲物たち』(1985)でのKGB局員役で映画デビュー。シルベスター・スタローンにビデオや写真を送るなどの売り込みが功を奏し、『ロッキー4/炎の友情』で大役を獲得した。その高い上背の美しき存在感は観客を魅了し、シリーズ最強の対戦相手に挙げるファンも少なくない。冷酷な台詞も随所で決まり、彼という演じ手があったればこそ、「燃える心、もう爆発しそうだぜ!」との歌詞が踊るサバイバーによる米ソ決戦挿入歌《バーニング・ハート》もスクリーンに映えたというものである。

 映画の興行的成功とともに、ラングレン株も急上昇。その後、彼はあまたのアクション映画の御用達となっていく。コミック原作のファンタジー大作『マスターズ 超空の覇者』(1987)で映画初主演。やがて、誰が言い出したか、人間核弾頭なるニックネームも頂戴し、『レッド・スコルピオン』(1988)でソ連の特殊部隊兵役で大暴れ。ブルース・リーの息子ブランドン・リーと共演した『リトルトウキョー殺人課』(1991)、ジャン=クロード・ヴァン・ダムと衝突するローランド・エメリッヒ監督作『ユニバーサル・ソルジャー』(1992)、ロシアとは何も関係なのに「赤色」のイメージの邦題がついた『バニシング・レッド』(1992)など、質よりも量のごとき勢いで突っ走った。作品を選んでいるそぶりが見えないあたり、人間的にすぐれた素顔が垣間見えるところがあり、やはり空手有段者に上りつめるだけはある人格者なのだろう。

 スタローンとは『エクスペンダブルズ』(2010)で再びタッグを組み、その後『エクスペンダブルズ』シリーズの常連となり、『ロッキー』のスピンオフ企画『クリード/炎の宿敵』(2018)で再びドラゴ役を演じ、劇中でロッキー・バルボアと顔を合わせている。

 俳優だけでなく、『ディフェンダー』(2004)では映画監督にも挑戦。その後も『レッド・リベンジャー』(2005)、『バトル・ライダー』(2007)、『レッド・コマンダー』(2009)、『ザ・リベンジャー』(2010)、『キャッスル・フォール』(2011)といったアクション映画で監督をこなしている。その衰えぬエネルギーをどこまでも追いかけていただきたい。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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