特集・コラム

映画のとびら

2022年8月12日

ハウ|映画のとびら #197

#197
ハウ
2022年8月19日公開


(C)2022「ハウ」製作委員会
『ハウ』レビュー
きみをたずねて二百里

 鳴き声を持たない保護犬とその飼い主の絆を描く感動作。

 『黄泉がえり』(2004)、『キセキ -あの日のソビト-』(2017)などで知られる脚本家・斉藤ひろしのオリジナル原案をもとに、『ジョゼと虎と魚たち』(2003)、『グーグーだって猫である』(2008)、『のぼうの城』(2012)、『引っ越し大名!』(2019)の犬童一心監督が映像化した。飼い主の市役所職員に田中圭、その同僚に池田エライザ。保護犬とふれ合う人々に『光を追いかけて』(2021)の長澤樹、『風の電話』(2020)、『異動辞令は音楽隊!』(2022)のモトーラ世理奈、『マルサの女』(1988)、『キネマの神様』(2021)の宮本信子。

 婚約者にフラれて落ち込む市役所職員の赤西民夫(田中圭)に、上司の鍋島(野間口徹)が妻(渡辺真起子)とともに勧めたのは飼い主に捨てられた保護犬の飼育。元の飼い主の仕打ちのせいか、「ワン」と鳴けず、息を吐くようにしか吠えられないその白い犬に、民夫は「ハウ」と名付けた。ハウとの新生活は民夫を徐々に立ち直らせていくが、ある日、ハウが突然、民夫のもとから姿を消してしまう。どういうわけか、ハウは民夫の自宅のある横浜から789kmも離れた青森のはずれにいたのだった。

 映画は、なんとか民夫のもとへ戻ろうとするハウと、ハウのいない現実に向き合おうと努力する民夫の姿を並行して描いていく。こうなると、ハウを演じる犬の演技にすべてがかかるわけだが、なんの無理もなくこの白い犬は野暮な観客の懸念を見事にはねのけてしまう。

 ハウを演じた白い犬には当初、別のゴールデンドゥードルがキャスティングされていたのだが、コロナ禍の影響で撮影が1年以上も延期。これを受け、『南極物語』(1983)のドッグトレーナーとして知られる宮忠臣がこの作品のために幼犬から育て上げた、その名もベックが代役として立ったという。

 念入りに訓練されているのだから「演技」もスゴイのだろう。それは当然。しかし、そんなゆがんだ目線など、物語が動き出すや、あっという間に消し飛ぶ。ベックが「ハウッ! ハウッ!」と声なく吠える姿、ひたむきに駆ける姿は、とにかくけなげ。演技以前に個性としてずば抜けている。もう無条件にかわいい。これを否定できる人間がいるとすれば、相当な犬嫌いか、もしくは人の皮をかぶった鬼だろう。

 もちろん、映画はベックの愛らしさに甘えているだけではない。「母をたずねて三千里」ならぬ「民夫をたずねて二百里」状態のそれはもはや長大なロードムービー。その旅の折々に、ドラマの「骨」があった。原発風評被害でいじめに遭っている茨城の女子中学生(長澤樹)に、夫からのDVによって心身虚脱状態となった群馬の女性(モトーラ世理奈)、そしてシャッター通りでひとり寂しく傘販売を続ける栃木の老女(宮本信子)などと、現代の社会問題を反映した人々が登場。彼らがハウを通して心の傷を回復していく姿は人間ドラマとして感動的で、とりわけ宮本信子演じる傘店のエピソードは涙なくして見られない。声なき白い犬は、飼い主だけでなく、日本という国の傷も静かに癒やしていくのである。

 ハウの旅と並行して描かれる民夫の物語にも隙はない。変わり者の同僚(池田エライザ)との交流が、これまた悲喜こもごもの日常ドラマとして秀逸。適度に笑いをにじませながら、監督の犬童一心は白い犬と飼い主、両方の魂の行方をバランスよく刻んでいく。上野耕路によるギター音楽もかなり心地よい。

 『母をたずねて三千里』では少年マルコは母に出会うことができた。ハウも無事、民夫のもとに戻ることができるのか。そのあたりも、この映画、ひと工夫がある。ちょっと意外で、優しいエンディングがまた、観客の心を揺さぶるはず。最後の最後まで、さわやかな感動に浸っていただきたい。

 8月19日(金)全国ロードショー
原題:ハウ / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:118分 / 配給:東映 / 監督:犬童一心 / 出演:田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
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犬たちに会いたい!

 けだし、犬の映画といえば「忠犬もの」である。忠犬といえば、もちろん王道はハチ公。神山征二郎監督、仲代達矢主演で描かれた『ハチ公物語』(1987)は、かの有名な実話をてらいなく味わうことができる点で基本中の基本。日本人なら見ておきたい一本だろう。

 実話ものでは、新潟県中越地震をめぐる犬の親子の逸話『マリと子犬の物語』(2007)が号泣必至。『きな子 見習い警察犬の物語』(2010)も心が動く実録もの。実話ではないが、堺雅人主演で犬の殺処分問題を絡めた『ひまわりと子犬の7日間』(2013)も社会の実情として見ておきたいところ。

 犬は海外で「Man’s Best Friend」とまで称される存在。したがって、犬を描いた映画は世界中にゴマンとある。『ハウ』(2022)のように旅する犬を描いた作品でいけば、ディズニー社が製作した『三匹荒野を行く』(1963)、及びそのリメイク作品『奇跡の旅』(1993)がオススメ。

 崔洋一監督が手がけた『クイール』(2003)は、犬童一心監督以上に観客にこびない演出で攻める。それでいて、犬のかわいらしさもドラマ越しに見事に引き出していてお見事。犬童監督といえば、実はすでに「犬映画」を撮っており、具体的にはオムニバス作品『いぬのえいが』(2004)に演出家のひとりとして参加。その演出エピソード『ポチは待っていた』は『ハウ』の予習作品として最適かも。

 『ハウ』と同様の東映作品ということでは、『わさお』(2010)もぜひ。実在するオモシロ顔の秋田犬「わさお」を主人公に配した作品で、わさお同様のブサかわ的なドラマ展開は一見の価値ありだ。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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