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映画のとびら

2022年9月1日

華麗なる大泥棒|映画のとびら #201

#201
華麗なる大泥棒
2022年9月2日公開


THE BURGLARS © 1971, renewed 1999 Sony Pictures Television Distribution (France) SNC. All Rights Reserved.
『華麗なる大泥棒』レビュー
ベルモンド活劇をフランス語で!

 往年のフランス映画界を代表するスター、ジャン=ポール・ベルモンドが世を去って1年。その業績にあらためてスポットを当てた特集上映「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」が第3弾を迎える。

 映画『華麗なる大泥棒』(1971)は、コロンビア映画(現ソニー・ピクチャーズの一部門)の製作・配給のもと、ベルモンドが38歳のときに主演したアクション快作。アラン・ドロンとの共演を果たした大ヒット作『ボルサリーノ』(1970)の翌年に発表され、1960年代から70年代へと人気をつなげた作品のひとつといっていい。日本ではすでにDVD化も果たされているが、それは海外市場向けに短縮された英語吹き替え版。今回の「傑作選3」では初公開時に紹介された英語吹き替え版より12分ほど尺が長いフランス語版を上映。この50数年、日本のスクリーンでなかなか見る機会が得られず、その存在を知らない世代の多さを思えば、ある意味、新作も同然。しかも、取得された権利は上映権のみで、日本におけるフランス語版のソフト化の目処は現状、立っていないという。この特集上映を逃すと、もはや字幕付きでは永遠に見られないかも、なのである。これはベルモンド・ファンならずとも見ておきたいところ。

 物語は、フランスの泥棒一味がギリシャの富豪所有の100万ドル相当のエメラルドを盗み出すところから始まる。リーダー格のアザド(ベルモンド)率いる4人組の一味は大型船「アラックス号」での国外脱出をもくろんでいたが、なんと肝心の船が急な修理で5日間、出航がかなわぬことが判明。アザドはひとまずエメラルドを隠し、出航まで4人別々に潜伏することを提案。しかし、強盗団の存在に気づいた悪徳刑事ザカリア(オマー・シャリフ)が陰湿かつ執拗にアザドらを追いつめていくのだった。

 ベルモンドとその作品がアニメーション版『ルパン三世』の造型に大きな影響を与えているのではないかとの声はかねてからあった。ベルモンド作品のテレビ放映の際、山田康雄が声の吹き替えで招かれているあたりも、その説に拍車をかけている節があるだろう。真偽はさておき、この『華麗なる大泥棒』にアニメーション版『ルパン三世』を彷彿とさせる空気があることは確かである。ベルモンドという俳優にピンとこない人などは、むしろ『ルパン三世』を見る気分で接すればかなり楽しめるのではないか。

 ベルモンドがルパン三世なら、オマー・シャリフのザカリアは銭形警部。ダイナマイトバディーで魅了するダイアン・キャノンのレナ、及び、強盗団の紅一点、ニコール・カルファン演じるエレーヌなどは、さしずめふたりセットで峰不二子といったところ。強盗団の黒ハット&黒スーツ男ラルフ(ロベール・オッセン)に次元大介の姿を重ねる向きもいるだろう。

 キャラクターの一致だけに終わっていない。この『華麗なる大泥棒』を秀作として屹立(きつりつ)させているのは、やはりアクション描写。開巻から35分経った頃に始まるアザド対ザカリアの10分間にも及ぶ街中カー・チェイスは誰しもが目を奪われるところで、通行人が闊歩する実際の車道、実際の車でここまで長くハラハラさせる表現など、最近ではジョン・フランケンハイマー監督、ロバート・デ・ニーロ主演の『RONIN』(1998)以外、とんと見かけない。あんな危険なこと、ちょっとできない。

 ベルモンドがアクション場面のほとんどをスタントなしで自ら演じていたのは有名。さすがにカー・チェイスはスタントドライバー任せなのだが、開巻より1時間30分頃、オマー・シャリフに追われて、路上から走行中のバスへ飛び乗り、別のバスへと乗り移る一連の場面などは、ベルモンド活劇の面目躍如的名シーンだろう。さらにすごいのはその直後、トラックの荷台から砂利と一緒に埋め立て地へと投げ出されるベルモンドは、数十メートルはあろうかと思われる崖のような坂を岩石と一緒に延々と転がっていく。途中でスタントマンに代わっているわけではない。ベルモンド自身が本当に転がっている。信じられない。なぜ断らない? ジャッキー・チェンだって、こんなことはやらない。あまりのことに、思わずプッと吹き出す。何度見ても笑う。この場面だけでもスクリーンで体験する意義は大きい。

 監督のアンリ・ヴェルヌイユは、ベルモンドと『冬の猿』(1962)、『太陽の下の10万ドル』(1963)、『ダンケルク』(1964)、『恐怖に襲われた街』(1975)、『追悼のメロディ』(1976)などでも顔を合わせているフランスの名匠。両者の協力関係の中では、恐らくこれは最も痛快な仕上がりの作品ではないだろうか。ヴェルヌイユから「(数々のイージーリスニング・ナンバーで知られる)マントヴァーニのような曲を書いてくれ」と頼まれたというエンニオ・モリコーネの音楽も実にキャッチーで、ベルモンド活劇に明朗な軽みと異国情緒の彩りを加えている。そう、この映画は耳にも楽しい。

 体を張ったスタントも、ユーモアをにじませた物語も、人肌の温もりが感じられてやまない。何もかもがデジタルな現代では、こんな手作りの感触はなかなか望めない。ベルモンド映画は、どんなカテゴリーの作品であれ、すべて「人間味」というゴールに落着しているのではないか。まだ大丈夫。まだ間に合う。ベルモンドという人、ベルモンドという時代の大きさと優しさをじっくり味わっていただきたい。

 9月2日(金)より新宿武蔵野館にて待望のロードショー
原題:Le casse / 製作年:1971年 / 製作国:フランス・イタリア合作 / 上映時間:125分 / 配給:エデン / 監督:アンリ・ヴェルヌイユ / 出演:ジャン=ポール・ベルモンド、オマー・シャリフ、ダイアン・キャノン、ロベール・オッセン、レナート・サルバトーリ、ニコール・カルファン
公式サイトはこちら
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「ベルモンド傑作選3」を見よう!

 「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」では『華麗なる大泥棒』(1971)以外にも見ごたえのある6本のベルモンド作品が並び、スクリーンに花を添えている。

 これまでDVD化されたことがないという点では、ジャン・ベッケル監督、ジョゼ・ジョヴァンニ原作・脚本の『勝負(かた)をつけろ』(1961)をまず推しておきたい。無実の罪で刑務所に放り込まれた友人をなんとか支えようとする男の物語で、余計な説明を鮮やかに省いたクールな犯罪映画。ベルモンドも言葉少ない主人公を好演。11年後、原作者のジョゼ・ジョヴァンニが自らメガホンをとってリメイクした『ラ・スクムーン』(1972)も今回、同時にラインアップされており、見比べてみるのも一興だろう。

 『華麗なる大泥棒』以上にコミカルなベルモンドを見たい人には、フィリップ・ド・ブロカ監督のドタバタ喜劇『ベルモンドの怪盗二十面相』(1975)がオススメ。泥棒行為をたくらむけど、生業としては怪盗というより詐欺師。持ち前の口八丁でなんとか急場をしのいでいくベルモンドが数々の変装を交えて笑わせてくれる。ヒロインを務めるジュヌヴィエーヴ・ビジョルドも美しい。この作品も未DVD化。

 アンリ・ヴェルヌイユ監督との初タッグ作『冬の猿』(1962)は、名優ジャン・ギャバンと共演した味わい深い人間ドラマ。第二次大戦直後を舞台に、修道院に預けていた娘を引き取ろうとする男に若き日のベルモンド。彼を泊めて、背中を押すホテルの主人にジャン・ギャバン。

 反対に、ベルモンドが51歳時の中年期に主演したのがジャック・ドレー監督の『パリ警視J』(1984)。麻薬捜査に情熱を傾ける「J」ことジョルダン刑事を渋く演じつつ、『華麗なる大泥棒』に負けない危険なアクションを自らこなした。特に、ヘリコプターから疾走するボートに飛び降りる場面は大きな見どころ。これまたエンニオ・モリコーネの音楽がドラマのいい支えになっている。

 新翻訳の字幕で見やすくなり、すっきりと印象を変えたのが『薔薇のスタビスキー』(1973)だ。このアラン・レネ監督作品で、ベルモンドは実在の実業家を演じ、1930年代にフランスを大きくにぎわせた詐欺事件の顛末を見せきった。ベルモンドのダンディズムをはかるには格好の一本だ。

『勝負(かた)をつけろ』(1961)
© 1961 STUDIOCANAL - Da. Ma. Cinematografica
『冬の猿』(1962)
© 1961 GAUMONT - Tous Droits Réservés.
『ラ・スクムーン』(1972)
© 1972 STUDIOCANAL / PRAESIDENS FILMS (Rome). Tous droits réservés.
『薔薇のスタビスキー』(1973)
© 1974 STUDIOCANAL - Nicolas LEBOVICI - EURO INTERNATIONAL FILMS (Italie). Tous Droits Réservés.
『ベルモンドの怪盗二十面相』(1975)
©1975 STUDIOCANAL - Nicolas LEBOVICI. Tous Droits Réservés.
『パリ警視J』(1984)
© 1983 STUDIOCANAL - Tous Droits Réservés.
文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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