特集・コラム

映画のとびら

2022年9月8日

ヘルドッグス|映画のとびら #202

#202
ヘルドッグス
2022年9月16日公開


©2022 「ヘルドッグス」製作委員会
『ヘルドッグス』レビュー
危険な岡田准一を見る

 深町秋生が2017年に発表した小説『地獄の犬たち』(KADOKAWA刊)を岡田准一、坂口健太郎の顔合わせで映画化した犯罪アクション。関東最大のヤクザ組織に潜入した元警官の戦いを激しいアクション描写とともにスリリングにつづっていく。監督は、岡田と『関ヶ原』(2017)、『燃えよ剣』(2021)に続き、3度目のタッグを組む原田眞人。

 かつて自身の管轄内で、思いを寄せていた女子高生を強盗団に射殺された元警官・出月梧郎(岡田准一)は、個人の恨みとして強盗団の親玉を葬った後、警視庁組織犯罪対策部特別捜索隊の班長・阿内(酒向芳)に捕縛される。どんな罰が下されるかと思いきや、阿内が出月に提示したのは、彼の駒となって関東最大の広域暴力団・東鞘会に潜入すること。これを呑んだ出月は名前も兼高昭吾と改め、手始めに東鞘会の精鋭部隊「ヘル・ドッグス」の一員になるべくタイへ。そこでメンバー随一の狂犬・室岡(坂口健太郎)の信頼を獲得すると、徐々に東鞘会七代目会長・十朱(MIYAVI)の側近へと成り上がっていくのだった。

 原田が今回の映画化に関して引き合いに出している作品は、サミュエル・フラー監督の『東京暗黒街 竹の家』(1955)、マイク・コナーズ主演のテレビドラマ『タイトロープ(秘密指令)』(1959-1960)、そしてフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(1979)の3本。最初の2作品は「犯罪組織への潜入捜査もの」であり、似た設定を持つ原作への興味も理解しやすい。『地獄の黙示録』に関しては、ラスボスをめぐる主人公の心境、両者の関係性に思想を通じさせている部分がある。潜入捜査官の葛藤と友情となれば、アンディ・ラウとトニー・レオンの共演による『インファナル・アフェア』(2002)を連想する向きも多いだろう。デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセン主演の『イースタン・プロミス』(2007)のような雰囲気を見て取る観客もいるかもしれない。いずれにせよ、張り詰めた空気が続く駆け引きのドラマであり、それをアクションの仕掛けでスピーディーに見せた作品だろう。いや、ある意味で、アクションを見るための作品といってもいい。

 格闘アクションが肝になってくる前提において、岡田の登板は全く無理を感じさせない。それどころか、岡田なくしては成立しない作品だったろう。近年の他作品同様、ここでも格闘の振り付けをデザインする役目も兼任した岡田は、ここでもあらゆる格闘技を取り混ぜたかのような、流れるような「戦い」を見せていく。『図書館戦争』(2013)や『ザ・ファブル』(2019)などと異なるのは、恋愛劇や笑いのオチに向かわないこと。シリアスな空気が支配しているということでは『SP 警視庁警備部警護課第四係』(2007)などに通じる部分があるが、その比較において本作品は圧倒的に格上のハードボイルドであり、アンチヒーローを主人公にした犯罪映画である。当然、『散り椿』(2018)のような時代劇からも遠い。もはや俳優という枠を超えた武道家/格闘家の資質が際立つ題材であり、千葉真一や倉田保昭の主演作品に構図が近いかもしれない。ジャニーズ・タレントとしての岡田に思いを寄せる観客にとっては、アイドルの面影が吹き飛ばされるようなギリギリの映画だろう。「そこまでやらないで」という悲鳴がどこからか聞こえてきそうな危険な作品というべきか。兼高は道を踏み出した男だが、岡田もロマンティックな道から一歩、踏み出そうとしている。そんな「いよいよ」のエッジな野心作とも換言できるかもしれない。

 兼高はなぜ潜入捜査を引き受けたのか。高額報酬はひとつの動機だが、正義感に背中を押されるような気概は見えない。少なくとも、警官という意識はなく、一種のゴミ処理のように思っていたのだろうか。いやいや、室岡との絆をもう少し考慮すべきだろう。そんな主人公の意識、立ち位置をめぐる悩ましい混乱も、この映画の魅力といっていいかもしれない。岡田はその点においても観客を振り回してくれる。

 狂気と童心の狭間を行くような室岡は甘いマスクの坂口健太郎に適役。ヤクザの情婦を演じる松岡茉優もミステリアスにドラマをそよいだ。十朱役のMIYAVIはミュージシャンの色気を節々ににじませている。心に闇を潜ませたマッサージ師役は大竹しのぶの独壇場。阿内役の酒向芳は相変わらずうまい。終始、鼻を覆ったヤクザ幹部役の大場泰正は迫力が増し、体を張った刺客を演じた中島亜梨沙は美しい。

 例によって原作をそのままなぞらない原田眞人は、随所にオリジナルのトッピングをまぶして、物語をより濃く、より自由に飛翔させた。まくしたてるように情報が繰り出される語り口は例のごとくで、ボンヤリ見ていると、あっという間に置いてきぼりにされる。その意味でも138分という総尺、全く長くない。

 9月16日(金)全国公開
原題:ヘルドッグス / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:138分 / 配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント / 監督・脚本:原田眞人 / 出演:岡田准一、坂口健太郎、松岡茉優、MIYAVI、北村一輝、大竹しのぶ、金田哲、木竜麻生、中島亜梨沙、杏子、大場泰正、吉原光夫、尾上右近、田中美央、村上淳、酒向芳
公式サイトはこちら
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 ヤクザ絡みの原田作品ということでは、椎名桔平、水川あさみ出演のアクション映画『RETURN』(2013)はなかなかの佳作。もともとは役所広司主演の『KAMIKAZE TAXI』(1995)の続編として出発した企画だったが、役所が「もっと寒竹(主人公の名前)を大事にしたい」ということで、そこから新たに再構築された。キムラ緑子、赤間麻里子、土屋アンナが演じる極悪三姉妹が見もの。

 同じくヤクザ絡みの『KAMIKAZE TAXI』も、一見、穏やか、でも隠された爪を持つ日系移民のキャラクターが際立つスリリングな逃亡劇。飄々とした中にもナイフのような鋭さを見せた役所広司がブレイクのきっかけをつかんだ作品としても見直しておきたいところ。

 ヤクザ絡みでは川谷拓三主演の監督デビュー作『さらば映画の友よ インディアンサマー』(1979)、郷ひろみ主演のハードボイルド『さらば愛しき人よ』(1987)も見どころ多し。

 ハードボイルドなアクションでいけば、オリジナルビデオ枠で発表された木村一八主演の『タフ』シリーズ(1990-1992)も見逃せない。殺し屋に弟子入りしたことから始まる青年の殺伐とした日々が描かれていくわけだが、第1、2作は全体の助走といった趣向で、本格的に面白さのギアが入るのは第3作から。ちゃぶ台返しともいっていい意表を突くラストから、なだれ込むように第4作へとドラマを着地させていく。このあたり、まさに妙技といっていい演出。端々にその後の輝ける原田作品の萌芽が見られる。

 元刑事が巨大組織の陰謀に立ち向かう『トラブルシューター Trouble with Nango』(1995)も、今回の予習・復習には最適かも。ユーモアと狂気を同居させた独特の語り口は同年の『KAMIKAZE TAXI』に通じるものであり、今となっては『ヘルドッグス』(2022)の習作にもなっている。的場浩司、森本レオの「もめごと処理人」ぶりが魅力的。未DVD化がどうにも惜しい一本。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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