特集・コラム

映画のとびら

2022年12月23日

嘘八百 なにわ夢の陣|映画のとびら #225

#225
嘘八百 なにわ夢の陣
2023年1月6日公開


Ⓒ2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会
『嘘八百 なにわ夢の陣』レビュー
初笑いにふさわしいお宝騒動

 中井貴一×佐々木蔵之介の顔合わせで描く痛快骨董コメディー第3弾。今回は、豊臣秀吉が愛でたという「秀吉七品」のひとつ「鳳凰」をめぐって、またも予想もしない騒動が巻き起こる。孤高のアーティスト役で関ジャニ∞の安田章大、アーティストを守ろうとする謎の美女に中村ゆりがシリーズ初参戦。監督は前2作同様、『百円の恋』(2014)、『全裸監督』(2019)の武正晴。

 例によってさえない毎日を送っている古美術商・小池則夫(中井貴一)のもとへ、ある日「大阪秀吉博」の実行委員会から依頼を受ける。それは、秀吉の出世を後押ししたといわれる幻の縁起物「秀吉七品」のひとつ「鳳凰(ほうおう)」を「こしらえる」こと。どんな形をしているかもわからない器の贋作(がんさく)を仕上げられるのはあいつしかない。則夫が向かった先は陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)のもと。しかし、その佐輔は別口から「秀吉にお茶をたてる茶碗を焼いてほしい」との依頼を受けていた。依頼者は、御利益のある波動を放つアーティストとして妖しく名をはせていたTAIKOH(タイコー/安田章大)を擁する「TAIKOHクリエイション」の代表・山根寧々(ねね/中村ゆり)だった。やがて、寧々は「TAIKOH 秀吉博」を開催し、そこで幻の「鳳凰」も披露すると表明する。つまり、佐輔は「鳳凰」の再現を頼まれたも同然であった。このままいけば「大阪秀吉博」との衝突は必至。八方ふさがりになる則夫、なかなかイメージをつかみきれない佐輔。困り果てた両者が選んだ解決方法とは何か?

 第1作から登場している学芸員の田中四郎(塚地武雅)が、大阪城の天守閣ミュージアムで則夫と佐輔を見つけてうれしそうに声をかける。「利休、織部と来て、今度は太閤秀吉ですか!」。堺、京都に続く舞台として選ばれた大阪の地で最大の歴史的武将は秀吉。名のある茶器をめぐるシリーズの騒動は、いよいよ頂上決戦的な高みにまで至ったのだと、映画は学芸員の台詞として思いのほどを代弁させたわけである。

 そもそも、千利休や古田織部の茶碗を現代に再現することなどほぼ不可能。そのウソを「映画のウソ」でこねくり回し、「まことの笑いと感動」に焼き上げてしまおうというのがこのシリーズ。第1作では監督の武正晴、脚本担当の今井雅子と足立紳が定期的に新宿の喫茶店に集まり、手探りで練り上げていた物語を、この第3作ではプロット段階から中井貴一、佐々木蔵之介も参加。則夫と佐輔の心意気を隅々に行き渡らせることによって、ますます人間味の息づくコメディーに発展させたといっていい。

 お宝をめぐる人間の欲と業はトラブルや悲劇を呼び、その裏返しとして笑いへと昇華する。一攫千金の儲け話がはかなく立ち消え、代わりに情に訴えかけるゴールを迎えるのも前2作と同じ。安心して楽しめる定番喜劇の土台を揺るがすことなく、腐れ縁コンビの迷走を三度、軽快に弾ませる手際はお見事。

 おなじみの展開をしながら新味を保つには「新たな血」の導入も必要。アーティスト役の安田章大は、関ジャニ∞のグッズデザインを手がけていることを考えると、配役として無理を感じさせない。創作の苦悩を抱えながら孤独にキャンバスに向かう姿に映画の役とは別の何かを重ね、感じる観客も多いのではないか。中村ゆりは冷たい策略家とそれとは正反対の顔を交錯させて、いい塩梅で映画を豊かな終着地に導く。お宝騒動をめぐって女性心理がひもとかれるという点では前作『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020)における広末涼子のヒロインに通じる役割、表現といえるだろうか。そういう側面を思うに、脚本の今井雅子、音楽担当の富貴晴美の存在は、このシリーズにおいてやはり大きいと言わざるを得ない。

 過分な欲をかくことなかれ。そんな教訓も秘めたこのシリーズは、物語を笑い飛ばす観客自身を映す鏡みたいなもの。中井&佐々木コンビのドタバタを笑いものにすればするほど、結局、自分自身の業を笑うことになるといっていい。一年の計は元旦にあり。屈託なく笑いに浸るという娯楽においても、自分を見つめ直すという戒めにおいても、この第3作は前2作同様、やはり初笑いにふさわしい一作なのであった。

 2023年1月6日(金)全国公開
原題:嘘八百 なにわ夢の陣 / 製作年:2023年 / 製作国:日本 / 上映時間:112分 / 配給:ギャガ / 監督:武正晴 / 出演:中井貴一、佐々木蔵之介、安田章大、中村ゆり、友近、森川葵、前野朋哉、宇野祥平、塚地武雅、吹越満、松尾諭、酒井敏也、桂雀々、山田雅人、土平ドンペイ、Blake Crawford、高田聖子、麿赤兒、芦屋小雁、升毅、笹野高史
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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