特集・コラム

映画のとびら

2023年1月26日

仕掛人・藤枝梅安|映画のとびら #231

#231
仕掛人・藤枝梅安
2023年2月3日公開


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
『仕掛人・藤枝梅安』レビュー
闇の鍼師、新たなる復活!

 累計発行部数600万部を超える池波正太郎の人気小説『仕掛人・藤枝梅安』(1972-1990)を映画化するスリリングな時代劇。仕掛人(暗殺者)という裏の顔を持つ鍼(はり)医者が、思わぬことから哀しい過去と対峙する姿を描く。主人公の梅安に豊川悦司、仕掛人仲間の彦次郎に片岡愛之助、梅安と知り合う浪人に早乙女太一、蔓(つる/仕掛人に仕事を仲介する元締め)の嘉兵衛に柳葉敏郎、仕掛けの対象となる料理屋の内儀・おみのに天海祐希。監督は『星になった少年』(2005)の河毛俊作。

 仕掛人・藤枝梅安(豊川悦司)に届いた新たな依頼、それは料理屋「万七」の内儀・おみの(天海祐希)を始末すること。3年前、同じ「万七」の主の女房・おしずを仕掛けたのも梅安であった。同じ料理屋の後妻をまた手にかけるとはどういうことなのか。しかし、起り(おこり/仕掛けの依頼人)のことを知らされないのが、仕掛けの世界の道理。店の事情を探るため、梅安は「万七」の女中・おもん(菅野美穂)とねんごろになる。おもんによれば、おみのが店に入ってからというもの、上等の客や古株の奉公人が次々と去り、店の評判が落ちる一方なのに、儲けだけはあるという。おみのはどんなからくりで店を切り盛りしているのか。おしずの殺しを依頼したのはおみのなのか? 仕掛けの掟に反することを理解しながら、梅安は3年前の仕掛けの背景を調べ出す。そして、おみのと対面した梅安は衝撃の事実をその顔に見るのであった。

 「生かしておいては世のためにならない人間ですよ」……。「仕掛け」をめぐって、蔓の嘉兵衛(柳葉敏郎)が梅安に毎度のようにささやく文言である。そう、仕掛けは闇雲に行われているわけではない。蔓からの仲介に対して「それならば」と梅安が納得して初めて「契約」が進む。梅安にとって「悪人」を消すことが仕掛けを行う条件のひとつであって、単なる金稼ぎのためではない。報酬をもらって闇から闇へと動く暗殺者に違いないが、そんな世のため人のための処刑人というヒーローの気分を漂わせているあたりが人気の秘密だろう。同時に、その仕事は自らの過去や人間関係をめぐる苦い経験となることも多々あり、そこからにじむ探偵小説的な不条理、ハードボイルド感もまた、クセになる味わいとなっている。

 仕掛けの方法、スタイルもキャラクター人気を後押しした。仕事道具でもある鍼を延髄あたりに差し込んで突然死に見せかける手際は鮮やかで、その職人的技量が罪深き興奮を見る者に呼ぶ。それはもはや一種の「芸」であり、そこからさまざまな芸達者の殺し屋を描く『必殺』シリーズ(1972~)などが発展的成長を遂げていった。小説『仕掛人・藤枝梅安』はその50年にわたる原点というわけである。

 新たな座組で製作された今回の映画化に際しては、原点中の原点、小説『仕掛人・藤枝梅安』の最初期短編『おんなごろし』(1972)を下敷きにしている。これまでに数度、映像化されてきた原作で、映画でいえば田宮二郎が梅安を演じた『必殺仕掛人』(1973)で早くも取り上げられた。もっとも、1973年版は原作に少なからず手を加えた内容となっており、その意味では今回の映画版の方が原作に近い。

 今風にいうところのリブート企画となったこの豊川悦司主演版は、映像面では陰影を強調した撮影、照明に作り手の気概がまず感じられるところだろうか。裏稼業に生きる暗黒のヒーローを雰囲気たっぷりに見せており、実にムード満点。明朗快活なチャンバラ時代劇とは一線を画して、リアルかつスタイリッシュな犯罪映画志向に寄った格好である。時代劇馴れしていない観客にも、ダークヒーローの活躍という形で楽しめること請け合いだろう。一方で、美術も、衣裳にもしっかり配慮が行き届いており、一個の時代劇としてもちろん本格派。現代性をほどよく忍ばせつつ、ハイブリットな機能性を現出させて遜色がない。

 現代の観客に耐えうるという点では、川井憲次による音楽も大きな役割を担った。仕掛けの瞬間に女性ヴォーカルを絡めるほか、パーカッシヴな打ち込みを随所に織り込むなど、どこかハリウッド的な音響気分があるだろうか。さしずめ、この響きに乗せた梅安、鍼を持ったバットマンといったところか。

 豊川悦司の梅安は、歴々の梅安俳優に比べてシリアスな気分をたたえており、やや明るめの彦次郎役の片岡愛之助といいバランスを保っている。おみの役の天海祐希はトゲを備えた美しき悪女。早乙女太一演じる浪人・友五郎は原作の名物剣士・小杉十五郎の変型的キャラクターだろうか。梅安をめぐるレギュラーの面々では、菅野美穂が梅安といい中になるおもんを好演。梅安の身の回りの世話をする女中・おせき役の高畑淳子などは希少なコメディーリリーフとして見事に作品の薬味となっている。

 今年は池波正太郎の生誕100年を記念する年であり、同時にこの作品は時代劇専門チャンネル開局25周年の記念も兼ねている。近年の日本映画界で叫ばれ続けている「時代劇の復興」、その大きな課題に『藤枝梅安』という作品は正面からぶつかろうとしている企画でもあった。時代劇の持つ魅力、可能性とは何か。裏街道を歩く鍼医者の物語はきっとそれを探る一助になってくれるはずである。

 「仕掛人・藤枝梅安」2月3日(金)・「仕掛人藤枝梅安㊁」4月7日(金)連続公開
原題:仕掛人・藤枝梅安 / 製作年:2023年 / 製作国:日本 / 上映時間:134分 / 配給:イオンエンターテイメント / 監督:河毛俊作 / 出演:豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、小野了、高畑淳子、小林薫、早乙女太一、柳葉敏郎、天海祐希
公式サイトはこちら
OPカードで『仕掛人・藤枝梅安』をおトクに鑑賞できます

「イオンシネマ」OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

 

あわせて観たい!おすすめ関連作品
『仕掛人・藤枝梅安』第2作は4月7日公開

 第1作のエンドクレジットが終わると、そこに映るのは新たな場所を歩く梅安と彦次郎の姿。それはそのまま第2作へのプロローグになっていて、早くも新たな物語への期待をつなぐ。彦次郎の過去の悲劇をめぐるこの物語では、椎名桔平がまるで性格の異なる双子の侍をひとり二役で演じ、佐藤浩市が梅安と因縁のある男として登場。石橋蓮司も上方の蔓役を存在感たっぷりに演じている。

 古いファンには緒形拳や萬屋錦之介の姿が思い出される梅安作品だが、個人的には1982年に放送が始まった小林桂樹主演版が忘れられない。彦次郎に田村高廣、小杉十五郎に柴俊夫、蔓の半右衛門に中村又五郎。また、1991年には主演の渡辺謙がお気に入りに挙げているドラマ版も作られている。こちらは彦次郎に橋爪功、小杉十五郎に阿部寛、半右衛門に田中邦衛。2006年には岸谷五朗が梅安を演じたドラマもあった。いずれも一度は見ておきたい仕上がりである。

 豊川梅安も観客の反応次第ではシリーズ化の可能性も十分。息の長い作品となることを祈りたい。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


OPカードがあれば最新映画や単館系話題作がおトクに楽しめます

TOHOシネマズ海老名

映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

イオンシネマ

OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

新宿シネマカリテ

当日券窓口で小田急ポイントアプリのクーポンをご利用いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

新宿武蔵野館

当日券窓口で小田急ポイントアプリのクーポンをご利用いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。