Vol.01

代々木上原駅周辺

犬と本の居場所。

まだ駆け出しの頃に、お世話になった編集者が暮らしていた街が代々木上原だった。住んでいるマンションのエレベーターで芸能人と一緒になったとか、夜10時を過ぎてから近所のスタイリストと打ち合わせをしているとか、自分の暮らしとは懸け離れた話ばかりで、そのせいか代々木上原は遠い街だった。翻ってみれば、住民だけが用事のある街で、一度その街に暮らしてみれば、溶け込むことができるのかもしれない。
そう思うようになったのは、それこそ編集者との打ち合わせに訪れた帰りに、古本屋に入って、自分の家にある本ばかりが並んでいる棚を見つけてからだった。持っている本に挟まれた、知らなかった本を見つければ、その本は自分のために用意されたものだと錯覚してしまう。店主と言葉を交わさずとも、居場所を見つけたようだった。久しぶりに訪れたその本屋では、平野甲賀というブックデザイナーが手がけた書籍、しかも文庫本に限って陳列するというフェアをやっていた。いくつも見たことのある本が並んでいて、チェコの作家カレル・チャペックが書いた『ダーシェンカ』もそこにあった。表紙には独特の描き文字と小さな犬・ダーシェンカの写真。手を伸ばしてレジを見ると、そこに毛布に包まれて、同じように小さな犬が寝ていた。お前もここに居場所があるのだねと、目を合わせたがピクリともしなかった。その古本屋は、駅から代々木八幡に向かって5分ほど線路沿いを歩いて角を一つ曲がったところにある。

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