Vol.05

海老名

まるで塊のように。

駅前は複合施設が建ち並んでいて、多様な人が昼間から歩いている。ネクタイを緩めたサラリーマンがベンチでボーッと中空を眺めていたり、老人たちが喫茶店前のベンチで談笑していたり、高校生がデートしていたりする。駅ビルを行き交う人々の姿が日本の典型的な風景のように感じられるのは、なぜだろうか。東南アジアから来た、見知らぬ言葉を話す人々もいる。年齢も国籍も、交じるほどいい。
駅ビルを抜けて川へ向かって歩き出すと、すぐに畑が広がっていた。少し進んで振り返ると、畑越しに駅前の混沌。そうか。ほんの少し離れるだけで、土地は表情を変える。駅前のビル群が、なんとなく塊のように見えてくると、相模川の河川敷へとたどり着く。本流とは別に整備された小さな流れ込みで、親子が遊んでいた。園児と思しき子供たちが裸足になって水につけている。流れる川の水が冷たいことを知っただろう。どうして親は、できるだけ自然に触れさせようと考えるのだろうか。母親は水に触れる喜びを忘れていないし、子供たちもきっと生まれながらに知っている。
駅、畑、河川敷。
海老名は、人の営みが純粋な形で具現化されたような町だった。誰もいない本流まで降りてみると、遠景に丹沢の山並みが見える。駅ビルにのぼっても、あの山は見えるのだろうか。

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