質の高いビールの世界を深く知っていただきたい

　8年ほど前のこと。最初にクラフトビールを飲んだときの感動を、今泉さんは今も忘れていない。

　「パイナップル風味のクラフトビールでした。かなり衝撃を受けましたね。大手のビールとは全く違った味で」

　以来、その味に惚れ込み、仕入れ、営業、講習と、クラフトビールに特化した仕事をなんでもこなしてきた。2020年１月にドイツのクラフトビールと料理を扱う「シュマッツ」に入社。中目黒店勤務を経て、4月から「シュマッツ・ビア・ダイニング」湘南台店の店長に就任した。今年48歳。

　「伝統的なヨーロッパ・スタイルのビールといえば、ドイツとベルギー。こちらの店舗では、原材料の個性が引き立ったドイツビールをご用意させていただいております」

　湘南台店ならではの特徴といえば、どこか家庭的な気分が強く漂っていることだろう。山小屋をモチーフにした木組みの内装に、ドイツの国旗カラーである黒、赤、黄が映える。かわいらしさと温もりが感じられて居心地がいい。

　「お子さま連れの方もよくいらっしゃいます。〈大人のファミレス〉といいますか、ご家族でゆっくり楽しんでいただけたらと。実際、長時間、滞在されるお客さまが多いです」

　クレヨンの貸し出しに加え、風船のプレゼントもある。住宅街に隣接した店舗ならではの家族向けサービスが好評だ。

　「料理については“モダンなドイツ料理＋和のテイスト”という〈和独折衷〉のコンセプトでやっています」

　もちろん、今泉さんのいちばんのこだわりはビールだ。

　「質の高いものを知っていただきたいと思っています。僕自身がお酒好きでビール好き。自分自身がおいしいと思っているからこそ、この世界を深く知っていただきたいんです」

　休日は「おいしいビール」を求めて街を飲み歩くとか。

　「もうビール漬けです（笑）。ビールって、どんな料理にも合わせられますし、ワインと同じく、食前、食中、食後と、ずっと楽しめる。可能性がすごく大きい。これからもビールで人と人をつなぐ場所が提供できたらうれしいですね」

　笑顔が広がる。目的が明快な「聖なる酔っぱらい」に千鳥足などない。

＜ 写真／星野洋介　文／賀来タクト ＞