いつも「前回の自分」に負けない気持ちで取り組んでいます

　千歳船橋店は今年で15年目。開店以来、店を切り盛りする小谷田さんのもとには今も常連客が足しげく通っている。

　「八王子の店舗時代から数えると、20年以上のお付き合いになる方もいらっしゃいます。飽きられてもいけませんし、こちらが甘えてもいけない。逆に身が引き締まる思いです」

　人が大好き。接客にも独特のこだわりが弾ける。

　「どんな人にもコンプレックスがある。でも、私にとってそれはその人の個性であり、むしろ魅力。「ダメ」を「いい」と思える関係になって、お客さまにご自分を好きになってもらうためのお手伝いができたらいいなと思っています」

　幼少期、母に髪を結ってもらっていた。その喜びと楽しさが美容師への憧れにそのままつながっていったという。

　「一生、好きな髪型をしていられる仕事って何だろうと考えたんです。人にも喜んでほしかったですし、家族にもしてあげたかった。今も父母は八王子からカットに来ます。昨日は妹一家が、その前は姉も。あ、全員、来ていますね（笑）」

　技術的にはベテラン。けれど、流行は日々、変化する。経験に甘えて寄りかかっている時間などないのだ。

　「普段から情報をあさっています。あさるの、大好き（笑）。常に“ こういうものが来る”という話題、お客さまの関心に応えられる新しいスタイルを提案できたらと思っています」

　たとえば「前と同じで」と頼まれた場合はどうするのか。

　「それは“前と同じ満足度で”ということだと解釈しています。だから毎回、前回の自分には負けられないんです（笑）」

　店舗に籍を置きつつ、ニューヨークでファッションショーのスタッフとして働いてみたいとの夢も持つ。一方で「自分はアーティストにはなれないタイプ」とも言い切る。

　「奇抜なものより、万人に受けるようなものをつくる方が私には向いています。シンプルがいちばん好き。でも、人の意見もちゃんと聞いて、本当にやりたいことを見つけたい」

　どの言葉も明るく朗らか。相手を瞬時にリラックスさせ、温もりの場を作り出すあたり、まさに天職といっていい。

　「この仕事につけてよかった。毎日、反省してばかりですけど、好きなことができて幸せ。本当に私は運がいいです！」

　ここには話したくなる人がいる。新しい自分を試したくなる時間がある。

＜ 写真／星野洋介　文／賀来タクト ＞