Vol.09

栗平

それほど遠くで起こるわけでもない。

撮影の合間の空き時間を利⽤して、栗平の街を把握しようと地図アプリを⾒ながら散策をする。すると全国的にも名の知れた⾼校サッカーの名⾨校が⾒つかったので、グラウンドだけでも⾒学しようと坂を登ると、ちょうど試合が始まるところだった。⽗兄がスタンド席に陣取って応援しているので、その横に座って、しばしの間観戦させてもらう。⼆軍(あるいは三軍)の試合だったのに、⾃分が⾼校⽣だった時よりもはるかに上⼿で、綺麗なパス回しから20分ほどで3点も取ってしまった。すると不思議なもので、どちらの応援という気持ちもなかったのに、負けているチームに感情移⼊してしまい、かつて⾼校⽣の時にこの名⾨校と試合をしてケチョンケチョンに負けたことを思い出してしまった。
もう20年以上も前のことなのに、その悔しいような諦めのような気持ちが⼀気に戻ってきて、久しぶりの感情を味わうことができた。もうこの⼼苦しさは、ほとんど味わうことなく⽣きていくのだと思ったら、なんだか遠くまで来たなと思ってしまった。サッカーももう何年もしていない。
前半のうちに抜け出して、坂道をまた下っていく。初めて来たグラウンドなのに、懐かしい感情に出会ってしまい、なんだか得をしたような気持ちになった。
懐かしい⾃分に初めての場所で会う。そういう贅沢は、そうそうあるものではないけれど、それほど遠くで起こるわけでもない。

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