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映画のとびら

2019年7月5日

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム|新作映画情報「映画のとびら」#016

#016
スパイダーマン:
ファー・フロム・ホーム
2019年6月28日公開


レビュー
ピーター・パーカーがヨーロッパ旅行で大変!

 トム・ホランド主演版『スパイダーマン』シリーズの第2弾。前作『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)が「学園祭編」とするなら、さしずめ今回は「修学旅行編」とでもたとえるべきだろうか。

 夏休みに高校の仲間とヨーロッパ旅行へ行ったピーター・パーカー(トム・ホランド)の目的はただひとつ。思いを寄せる同級生MJ(ゼンデイヤ)に自身の気持ちを伝えることだった。緊張と期待に揺れる中、ヴェネチアに着いたピーターの前に現れたのは、風、水、火、土など、自然の力を操る怪物エレメンタルズ。この怪物を倒すために異次元の地球からやってきたという謎の男ミステリオことクエンティン・ベック(ジェイク・ギレンホール)まで登場し、ピーターの夏休みはますます当初の思惑からズレていく。

 ホランドの主演で再始動が図られた『スパイダーマン』は、思春期の物語に強く焦点を合わせたところに魅力があり、今回も折々に青春のナイーヴな感情がみずみずしく際立った。ヒーローへの憧れから一転、やはり悪と戦うことよりも、学園生活が大事というピーターの感情の変化は、ある意味で若者らしい転向といえるだろう。元S.H.I.E.L.D長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)からアベンジャーズ再編の協力を求められても、どうしても消極的な態度をとってしまう。大人の事情はもう結構。高校生は巻き込まれたくないのだ。それよりも好きな女の子のことが気になる。戦いなんてやっていられない。巻き込まれたくない。アクションの幕間に見られるピーターの葛藤は、確かな青春ドラマの軸を担っている。

 映像演出も弾んでいる。例によってアクション描写は手が込んでおり、その臨場感に不満をこぼす観客など果たしているだろうか。もちろん、青春喜劇としての側面も忘れられていない。どんなに激しい戦いが描かれても、最後にはおかしみや、明るい気分が残る。そんな温もり、壮快感もこのヒーロー映画ならではのものだ。ただし、独立した一個の映画としてまだ開かれていた第1作に比べて、今回はどこか「閉じられた感触」を覚える向きもあるのではないか。具体的には「マーベル・シネマティック・ユニバース」関連作品としての立ち位置がいよいよ顕著になっている部分で、ある瞬間には「ユニバース」のためのサブテキストのような様相まで呈している。ろくな状況説明もなく、さも当然のように『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)と地続きの時代設定になっていたりもする。エンド・クレジット後に登場するキャラクターの扱いも含め、いくつかの事象については、ほかのマーベル作品を未見の向きには、恐らくなんのことか、さっぱりわからないだろう。

 コア・ファンであればあるほど楽しく見られる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は、したがって、一種の試金石になっているといってもいい。このマーベルが仕組んだキャラクター・ユニバースにどう向き合うか。この世界に加わるのか否か。この世界に入ってしまえば、きっといくらでも遊んでいられる。ユニバースの他作品にも気持ちよく出入りできる。大きい仕掛けの一部として、どのヒーローの物語にも合点がいく。でも、半端な鑑賞者でいると、置いてきぼりにされる。ファン向けの遊び心も理解できない。どちらを選択するかは、観客次第。ピーター・パーカーの高校生活同様、我々ファンも映画生活の選択が求められているかのようだ。まさに「Choice is yours」である。

原題:Spider-Man: Far From Home / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:130分 / 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント / 監督:ジョン・ワッツ / 出演:トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ジェイク・ギレンホール
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(C) 2004 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. Spider-Man character (R) & (C) 2004 Marvel Characters, Inc. All Rights Reserved.
SFACTION
タイトル スパイダーマン2
(原題:Spider-Man 2)
製作年 2004年
製作国 アメリカ
上映時間 127分
監督 サム・ライミ
出演 トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、アルフレッド・モリーナ、ジェームズ・フランコ

「スパイダーマン」シリーズは第2作が激動編

 1960年代初頭にコミック・ヒーローとして誕生した『スパイダーマン』は、1977年にニコラス・ハモンドの主演で製作されたテレビ・ムービーが最初の映像化といわれる。同作品は以後、2本の続編をテレビで生み出し、いずれもアメリカ以外で劇映画として公開された。

 本格的な劇場用長編作品はサム・ライミ監督、トビー・マグワイア主演によって2002年に誕生。以後、ふたつの続編を生んだ後、今度はマーク・ウェブ監督、アンドリュー・ガーフィールド主演で『アメイジング・スパイダーマン』(2012)がリブート企画として登場。こちらも2年後に続編が生まれる好成績を残したが、3作目製作の日の目を見ることはついになかった。代わりに、2017年、ジョン・ワッツ監督&トム・ホランド主演の顔合わせで3度目の劇映画化が図られる。無論、「マーベル・シネマティック・ユニバース」をにらんでのシリーズ再編でもあった。

 サム・ライミ版、マーク・ウェブ版、ジョン・ワッツ版、いずれも第2作で大きな事件が起きるのも3シリーズの不思議な共通項である。サム・ライミ版では顔バレがあり、マーク・ウェブ版ではヒロインの不幸があり、そして今回のジョン・ワッツ版ではミステリオが最後の最後で大変な暴露をする。とんでもない激動をピーター・パーカーがどう乗り越えるのか。思春期映画らしく、第3弾でも軽やかな問題解決のジャンプに期待したいところだ。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。