特集・コラム

映画のとびら

2023年3月31日

クリード 過去の逆襲|映画のとびら #247

#247
クリード 過去の逆襲
2023年5月26日公開


© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved. CREED is a trademark of Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
『クリード 過去の逆襲』レビュー
幼なじみと一騎打ち

 『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)、『クリード 炎の宿敵』(2018)に続く『ロッキー』スピンオフ第3弾。少年期に由来する過去の因縁をめぐって、クリードの新たな戦いが始まる。主人公アドニス・クリードを演じるマイケル・B・ジョーダンが監督も兼任。これが映画監督としてのデビュー作となった。アドニスの宿敵に転じてしまう年長の幼なじみを演じるのは『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)のジョナサン・メジャース。

 物語は2002年、アドニスがまだ施設にいる時代から始まる。夜中に施設を抜け出しては、仲間のデイムことデイミアン・アンダーソンが出場する賭けボクシングの観戦に興じていたアドニスは、ある夜、怨恨のある不良と遭遇。それを助けようとしたデイムは監獄行きとなってしまう。15年後、アドニス(マイケル・B・ジョーダン)はコンランを相手に引退試合を行っていた。26勝1敗という満足のいくキャリアを残し、心置きなくリングを去ってさらに3年。現在のアドニスにとって、娘とママごと遊びをし、ジムでの後進の支えになることが充実の日常であった。そんなとき、駐車場でバッタリ遭遇したのが18年の懲役を全うして出所したばかりのデイム(ジョナサン・メジャース)である。「力になりたい」と歩み寄るアドニスに対し、デイムは彼なりにプランを持っていると語り、不敵に微笑むのだった。

 一線を引いていたボクサーがリングに復帰するということでは『ロッキー4 炎の友情』(1985)や『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)が、実績のない男にタイトル戦への挑戦権が舞い込むという展開には『ロッキー』(1976)が連想されるだろうか。それでなくとも、前2作に引き続き何らかの因縁をめぐる闘いのドラマであるところに『クリード』シリーズたる魂を感じさせる第3作であり、構成自体に不満を抱くファンは皆無なのではないか。対戦相手決定の流れに少々の無理が感じられたとしても、この巨大なボクシング・サーガにあっては小さい、小さい。戦いの場に行かねばならぬ男がいる。戦いの場でこそ輝く男がいる。ロッキーと同じ道を歩むクリードの姿に見る前から拳を握る観客は今回もきっと多いはずだ。

 前2作で監督を務めたライアン・クーグラーはプロデュースと原案に回り、同じくプロデューサーとして名前を載せているシルヴェスター・スタローンとともに、監督も兼業することになった主演俳優を後方支援。そのマイケル・B・ジョーダンの演出がどうかというのが最大の見どころだが、かなり健闘しているといっていい。広角レンズを多用した映像は迫力をたたえ、映像のつなぎも滑らか。ハイスピード撮影も折々に挟みながら、ほぼダレ場をつくることなく、ファイトシーンをスリリングかつダイナミックに展開。クライマックスの決戦まで見る者をグイグイ引っ張っていく。最後の試合での映像表現、ファイトの流れをどう見るか、受け止めるかは観客次第。CG合成の活用を含めて、なかなか興味深い仕掛けがそこに刻まれている。機材の面では、IMAX認証デジタルカメラを導入しているあたりも注目だろう。

 ドラマ面では妻ビアンカ(テッサ・トンプソン)のくだりはもちろんのこと、アドニスの義母メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)との新たな秘話もソツなく絡めている。回想場面、引退試合の導入部までをわずか10分あまりで見せる手際は鮮やかで、さらにデイムとの再会までもがスピーディーにまとめられており、「無駄口」がずいぶん少ない。デビュー作とは思えぬ語り口のうまさだ。ジョーダンは手堅いストーリーテラーであり、アドニス同様、チャレンジ精神たくましき映像表現者であった。そう、この映画はアドニスのその後の物語とともに、映画作家マイケル・B・ジョーダンの才気を知る好機なのである。

 音楽担当のジョセフ・シャーリーは今回がシリーズ初登板。前2作で音楽担当だったルートヴィッヒ・ヨーランソン(ルドウィグ・ゴランソン)の助手を務めていた人物だが、クライマックスでビル・コンティ作曲による『ロッキー』音楽素材、及びヨーランソンによる《クリードのテーマ》をピンポイントで引用。シリーズ双方のファン心理を裏切ることなく、巧みに興奮をピークに持っていったのであった。

 5月26日(金)全国ロードショー
原題:Creed III / 製作年:2023年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:116分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督:マイケル・B・ジョーダン / 出演:マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャーズ、ウッド・ハリス、フロリアン・ムンテアヌ、ミラ・ケント、フィリシア・ラシャド 他
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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