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映画のとびら

2019年8月2日

ライオン・キング|新作映画情報「映画のとびら」#020

#020
ライオン・キング
2019年8月9日公開


© 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
レビュー
「超実写版」と銘打たれた大ヒット・アニメーションのリメイク

 世界中で大ヒットした長編アニメーション『ライオン・キング』(1994)をフルCGアニメーション作品として再映画化した動物ドラマ。『アイアンマン』(2008)の監督にして、同シリーズのハッピー・ホーガン役俳優としても知られるジョン・ファヴローがプロデュースと監督を兼任している。

 物語の骨格は1994年版と大きく変わらない。ライオン王ムファサ(声:ジェームズ・アール・ジョーンズ)の息子として生まれたシンバ(声:ドナルド・グローヴァー)が、父の弟スカー(声:キウェテル・イジョフォー)の謀略によって幼くして父を失った後、別の土地でたくましく成長を遂げ、王国「プライドランド」奪回のために立ち上がるというもの。タイトルが出るまでの導入部などはオリジナルの完全再現となっており、そこに流れる主題歌《サークル・オブ・ライフ》もメインの歌い手が変わっているとはいえ、ハンス・ジマーのプロデュース&レボ・Mによるアフリカン・アレンジにこれまた大きな変化はない。恐らく原版のファン、原版未見の観客のどちらも、円滑に作品世界に入っていくことができることだろう。

 《サークル・オブ・ライフ》に限らず、1994年版のために用意されたエルトン・ジョン作曲&ティム・ライス作詞の歌曲群は今回の新版にも盛り込まれている。いずれも新録音となっており、その新たな楽曲プロデュースを担っているのが、ジマーの呼びかけで参加したファレル・ウィリアムスである。原曲の印象を妨げない現代向け編曲は、やはりファンにはうれしいブラッシュアップとなっているだろうか。

 旧版との決定的な違いは何かといえば、やはり映像面に答えがあった。単にお決まりの3DCGアニメーション化を敢行したわけではない。実写のスタイルでCGを組み立てたというべきか。なんと、VR(ヴァーチャル・リアリティー)でアフリカの風景が広がる「スタジオ」を組み、その中を、ヘッドギアを装着したスタッフがロケハンをし、実写同様に撮影機材を持ち込んでカメラワークを決めていったという。実のところ、そう書いてみても、実感がなかなかわかない。恐らく、実写同様の手触りがある空間認識、実際的な撮影画角をCG世界に可能な限り反映させようとしたということだろう。その本気度は、撮影監督に『チャンス』(1979)や『ライトスタッフ』(1983)の名手キャレブ・デシャネルまで呼んでいることからも尋常ではない。思わず実写映像かと錯覚してしまうほどの仕上がりに対し、「超実写版」なる造語が宣伝文の端々に踊った。それも無理からぬこと。何しろ、これが世界初のトライなのだから。

 動物たちの動きもなかなか。仲間で毛づくろいをする場面の豊かな実感もさることながら、朽ち木の中で這う虫を食べる場面などは見ているこちらまで美味しそうに感じるのだから不思議だ。食事の合間の台詞には「Umami(旨み)」などという単語まで飛び出す。そのあたり、『シェフ/三ツ星フードトラック始めました』(2014)という映画まで作ってしまう食通の映画監督ファヴローならではの味わいだろう。雲上から父の声がこだますという場面では、ムファサの姿を安易に見せることもしない。いたずらに幻想性を打ち出さないというあたりも作家性を考える上でのヒントになるのではないか。

 製作総指揮に目を転じると、ジュリー・テイモアの名前まであった。『フリーダ』(2002)、『アクロス・ザ・ユニバース』(2007)などの傑作を生み出しているこの女性監督は、実はミュージカル舞台『ライオンキング』(1997)の衣裳から構成までをイチからデザインした人。もしや、再映画化の製作過程において、舞台版に近い映像開発が一時、本格的に試みられたのではないか。テイモアのクレジットをめぐり、映画愛好家がそのような妄想にふけることができるのも、今回のCG版の面白いところである。

 さても、巧妙な擬人化が徹底されたアフリカ動物世界の物語は、王座をめぐる確執劇という点で伝統的な劇的風格も漂っているだろうか。イボイノシシやミーアキャットのコメディーリリーフも機能する秀逸な喜劇的側面もある。家族や仲間の温かい絆の物語という点でもファミリー映画として純度の高い作品であり、映画を通してもしや子どもたちが大自然や動物に目を向ける機会になるかもしれない。リメイクがそんな関心を呼ぶきっかけになっているのだとしたら、新たな映像開発に腐心した作り手たちも本望だろう。

原題:The Lion King / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:119分 / 配給:ディズニー / 監督:ジョン・ファヴロー / 声の出演:ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ
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(C) 2016 Disney
ANIMATIONADVENTURE
タイトル ライオン・キング
(原題:The Lion King)
製作年 1994年
製作国 アメリカ
上映時間 88分
監督 ロジャー・アラーズ、ロブ・ミンコフ
声の出演 ジェームズ・アール・ジョーンズ、ジョナサン・テイラー・トーマス、マシュー・ブロデリック、ジェレミー・アイアンズ、ウーピー・ゴールドバーグ

『ライオン・キング』とジョン・ファヴロー

 まず、オリジナルの『ライオン・キング』(1994)は予習、ないしは復習教材としてチェックしておきたいところ。第67回米アカデミー賞で作曲賞と歌曲賞を獲得した同作品は、少なくともハンス・ジマーという作曲家にヒットメーカーとしての血路を開いた作品として記憶していい。エルトン・ジョンの作曲そのままの歌曲では活路が見いだせなかった製作陣に対し、ジマーはスポーツ・ドラマ『パワー・オブ・ワン』(1992)で組んだアフリカ音楽の達人レボ・Mを今一度、招き、歌を「転生」させた。アフリカ的な合唱を生かした導入部の《サークル・オブ・ライフ》の活力は四半世紀を経た今でも古びていない。

 ジョン・ファヴローの線でいけば、彼は今回のリメイク版の前に同じディズニーで実写版『ジャングル・ブック』(2016)を成立させている。同作品で体験したCGアニメーションと実写映像の掛け合わせの経験があってこそ、今回の『ライオン・キング』(2019)の成果も生まれたといっていい。もちろん、一連の『アイアンマン』シリーズ(2008-2013)での特殊撮影経験も反映されているだろう。

 ファヴローといえば、『エルフ~サンタの国からやってきた~』(2003)で映画監督デビューを果たし、続いて『ジュマンジ』(1995)の続編に当たる『ザスーラ』(2005)を初期に放った人。当時、現在の躍進を予測できた映画ファンなどいただろうか。その意味では、監督第3作『アイアンマン』(2008)に彼を招いたマーベルは慧眼であったと言わざるを得ない。佳作『シェフ/三ツ星フードトラック始めました』(2014)も含め、この機会に彼の監督としての軌跡を振り返るのも一興なのではないか。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。