特集・コラム

映画のとびら

2019年12月6日

ジョン・デロリアン|映画のとびら #038

#038
ジョン・デロリアン
2019年12月7日公開


© Driven Film Productions 2018
ジョン・デロリアン レビュー
その車は友情の羽根をつけて今日もどこかで飛んでいる

 デロリアンとは、1970~80年代に存在したアメリカの自動車製造会社の名であり、同社が製造した自動車(DMC-12)を指す。一般には、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)でタイムマシンに改造された車種として認識している人が多いだろう。その創業者にして開発者の名を冠した映画『ジョン・デロリアン』は、タイトルロールをめぐる物語であるが、いわゆる「伝記作品」という体裁ではない。若くして副社長の座にあったゼネラル・モーターズ退社後の1977年から1980年代初頭にかけての人生のある時期、具体的にはデロリアン社の起業から破綻までの一時期を、ジョン・デロリアンの隣人でもあった友人男性の視点で描いた作品だ。監督は『マーサ・ミーツ・ボーイズ』(1998)、『穴』(2001)、『アダム~神の使い、悪魔の子~』(2004)などの佳作を放っているニック・ハム。

 1977年、コカインの密輸で御用となったパイロットのジム・ホフマン(ジェイソン・サダイキス)は、監獄行きを免れる代償としてFBIの捜査官ベネディクト・ティーサ(コリー・ストール)から麻薬ディーラー、モーガン・ヘトリック(マイケル・カドリッツ)摘発に協力することを命じられる。高級住宅地パウマ・ヴァレーに引っ越してみると、隣人がゼネラル・モーターズでポンテアックGTOを大当たりさせた天才エンジニア、ジョン・デロリアン(リー・ペイス)だった。ジムの車がたまたまGTOだったことから、距離を縮めた両者はたちまち家族ぐるみの付き合いに発展。しかし、楽しい時間は束の間のこと。自分が理想とする車をなんとか開発しようとしていたジョンは、アイルランドに製造工場を設立し、DMC-12の販売に踏み切るが、売れ行きは芳しくなく、やがて工場閉鎖の危機に追い込まれていく。そして、ある日、ジムはジョンから「10日間で3千万ドルが必要だ」と相談を持ちかけられるのだった。

 デロリアン社の興亡は、本国アメリカでは有名かもしれないが、日本ではほとんど知られていないはず。世界で最もポピュラーなタイムマシンのベースマシンにはこんな逸話が隠されていた……。その事実を眺めるだけでも興味の器が満たされることは間違いない。

 物語は、法廷の証人席に座るジムから始まる。弁護士から次々に繰り出される発言に、ジムの怪しい経歴、ジョンとの関係が明らかになっていく。なぜジムは法廷に召還されているのか。なぜ厳しい追及を受けるのか。デロリアン社をめぐる運命の行方に、どこかミステリー的な気分もにじませつつ、基本的に語り口は喜劇調。とりわけジムのキャラクターが、悪くいえばいいかげん、よくいえば後ろ向きにならない陽性に設定されていることが、ほどよい軽みをドラマにたたえており、最後まで「シリアスの沼」に陥らない。

 総じて、肩の凝らない回想形式の実話ものとして楽しめる作品だが、最終的に友情物語として収斂(しゅうれん)していくあたりが最大の魅力だろうか。ふたりの人間が直面した出来事は「事件」にほかならない。けれども、根の深そうな確執を乗り越え、さわやかな後味とほんの少しの笑いでまとめられる映画においては、きわどい犯罪計画も懐かしい「記憶」にサラリと変貌する。これを締まりのない演出と簡単に罵るなかれ。むしろ、人間を優しく見つめた製作陣の懐の深さを褒め称えよう。

 ガルウィングのドアを絵に描きながら「どこでも駐車可能、重力に逆らうんだ。未来の車さ」と、ジムにジョンが笑いかける。デロリアンに華やかな未来はついに来なかったが、大人気タイムトラベルSF映画の中で永遠に名を残した。今日もデロリアンはどこかの映画館やお茶の間で時空を超えて飛んでいる。

 12月7日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
原題:Driven / 製作年:2018年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:113分 / 配給:ツイン / 監督:ニック・ハム / 出演:リー・ペイス、ジェイソン・サダイキス、ジュディ・グリア、マイケル・カドリッツ
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

©2016 ACEK s.r.l
DOCUMENTARY
タイトル 水と砂糖のように
(原題:Acqua e zucchero: Carlo Di Palma, i colori della vita)
製作年/製作国 2016年/イタリア
上映時間 90分
配給 オンリー・ハーツ
監督・脚本 ファリボルス・カムカリ
出演 ケン・ローチ、ヴィム・ヴェンダース、ベルナルド・ベルトルッチ、ウッディ・アレン ほか
公式サイト http://mizusato.onlyhearts.co.jp/

11月30日より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開

アントニオーニ、ウディ・アレンを魅了した名手の人柄にふれる

 「発明」は何もモノに限ったことではない。映像の分野にも「革新者」はいる。カルロ・ディ・パルマは、撮影技師として紛れもなく、そのひとりとして数えられる人物だ。映画『水と砂糖のように』(2016)は、そんなイタリア映画界が生んだ伝説的な名手の足跡を追ったドキュメンタリーである。

 全く映画撮影と関係のなさそうな題名は、ディ・パルマの経験に由来する。花屋を営んでいた母親が雨の日、市電の運転士に息子を預けた。カルロを可愛がった運転手たちは泣き出す彼を慰めるために水と砂糖を買ってきては与えてあげたという。それが幼少期の名撮影技師の喜びだった。大いに陽気に、人生を楽しむように生きた男。そのトーンの中で、この記録映画は彼の個性を浮き彫りにし、刻みつける。

 父親が撮影助手を務めていた関係から、ディ・パルマは学校帰りに撮影所へ立ち寄る少年時代を過ごした。弱冠15歳でルキノ・ヴィスコンティの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1942)でフォーカスマンを務めるや、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』(1948)、ヴィスコンティの『揺れる大地』(1948)、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』(1948)というネオ・レアリズモの傑作群に次々に参加。ミケランジェロ・アントニオーニ作品で師匠となるジャンニ・ディ・ヴェナンツォのもと、モノクロ撮影で感性を磨くと、アントニオーニ初のカラー映画『赤い砂漠』(1964)で一気に国際的な注目を浴びる。

 アントニオーニとの『赤い砂漠』、『欲望』(1966)の2本だけで十分に芸術的にヒップな撮影監督だが、面白いのは1980年代半ばから90年代の終わりにかけて見せたウディ・アレンとの一連の協力関係だろう。『ハンナとその姉妹』(1984)に始まるそれは、とてつもない芸術性の一方で、あまりといえばあまりに軽やかなフットワークを見せる。光を巧みに読むこの撮影技師は、同時に人生を楽しむ達人だった。アレンとの長きにわたった協力関係も、そんな彼の性分が反映した結果だったのだろう。

 ここに、小難しい技術の解説はない。あるのは、ひとりのイタリア人撮影技師の機知とユーモアに満ちた素顔だけだ。彼の才能と個性を愛した映画人たちが次々に登場する。ベルナルド・ベルトルッチ、ケン・ローチ、ニキータ・ミハルコフ、ヴィム・ヴェンダース、エットーレ・スコラ、ジュリアーノ・モンタルド、フランチェスコ・ロージ、パオロ・タヴィアーニ、フォルカー・シュレンドルフ、ミーラー・ナーイル、リズ・オルトラーニ、アレック・ボールドウィン……。その顔ぶれを眺めるだけでも楽しいのに、カルロ・ディ・パルマが一時期、モニカ・ヴィッティと恋人同士だったという事実も飛び出る。ヴィッティを主演に迎えたディ・パルマの初監督作品『Teresa La Ladra』(1973/原題訳『女泥棒テレーザ』/本邦未公開)の映像が一部とはいえ、目にすることができるのも貴重だ。また、第二次大戦直後に起きた、イングマール・ベルイマン作品の名撮影監督スヴェン・ニクヴィストとの意外な関係も語られる。

 光を読み取る感性だけではない。脚本を精読し、物語と出演者にふさわしい色と構図を探し出す。作品をどう解釈するかが大切かということを、この名手はアーカイヴ映像を通して我々に語りかける。

 ディ・パルマは言う。「(撮影技師にとって)大事なのは、絵や音楽、文学の教養を育み、文化を尊重し、愛すること」だと。そして「いい映画のない人生は寂しいね」と加えて微笑む。

 心がほぐされるような、温もりのある「読後感」。発明と革新は確かな人柄が生み出していた。まるでディ・パルマ本人に接するかのような心地よさが、この作品にはある。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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