特集・コラム

映画のとびら

2020年2月7日

1917 命をかけた伝令|映画のとびら #046

#046
1917 命をかけた伝令
2020年2月14日公開


(c)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
1917 命をかけた伝令 レビュー
1,600人の兵士を救うため、若者は戦場を走った

 題名どおり、第一次世界大戦終盤の1917年、フランスを舞台にした戦争ドラマ。長編デビュー作『アメリカン・ビューティー』(1999)で鮮烈に世に出たサム・メンデス監督が、祖父からもたらされた体験談をもとに物語を構成、初めて脚本のクレジットにその名を刻んだ作品でもある。ティプヴァルの激戦(1916年9月/数万人の兵士が数日のうちに戦死したソンムの戦いの一部)を生き抜いたという設定の若いイギリス兵を主人公に、全編ワンカット仕様という凝った仕掛けでスリリングに見せた。

 舞台となる「運命の日」は1917年4月6日。戦友のブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とともに、木陰で束の間の休息を得ていたスコフィールド上等兵(ジョージ・マッケイ)のもとへ、エリンモア将軍(コリン・ファース)からの特別命令が下る。それは、明朝、撤退したドイツ軍へ総攻撃をかけようとしているマッケンジー中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)率いる第二大隊へ、作戦の中止を知らせること。実はドイツ軍の撤退は見せかけであり、イギリス軍を待ち伏せして殲滅する腹づもりだというのだ。1,600人もの兵士の命を無駄に散らしてはならない。電話線が切れてしまった今、だれかが伝令となって、最前線へ直接、命令書を持って走らねばならなかったのだ。しかし、それは安全な味方の塹壕を抜け、銃弾飛び交う無人地帯、罠が仕掛けられた元ドイツ軍陣地を援護もなく越えるという苛烈な任務であった。

 1914年7月に勃発し、1918年11月に終息を迎える第一次大戦において、この映画の背景となる時代は戦争終盤、ドイツが西部戦線で守勢に転じたとはいえ、まだまだ戦火が猛々しい日々。映画の冒頭に提示される4月6日は、アメリカが連合軍側について参戦を表明した日付でもある。メンデスは、そのどこか象徴的な日時に舞台を設定し、ドイツ軍が強固な要塞を築いたヒンデンブルク線をひた走る若者を描こうとしたのだった。物語自体はフィクションだが、設定や状況描写は迫真にあふれ、現実味が濃い。

 作品最大の「売り」はワンカット仕様で構築された映像だろう。被写体をカット割り抜きの長回しで映像に収める手法だが、俗に言う「ワンシーン・ワンカット」を映画全体でやってしまおうという趣向である。映画においてカット割りは一種の呼吸みたいなもの。観客に緊張もさせるが、同時に「息継ぎ」の機会を与える役割もある。それをなくすことで、文字どおり「息詰まる」描写がほぼリアルタイムで現出することになった。その焦燥感と緊張感を観客に味わってもらうこと、すなわち戦場の緊迫した空気を肌で感じさせることが演出側の最大の狙いだったといっていい。

 実際には撮影に2カ月を要しており、細かいカットを積み上げての作業であったことは事実。だが、登場人物が爆煙に包まれるカットや気を失って暗転するカットなどに映像のつなぎ目を推察することはできても、細かな編集の痕跡を見つけることは至難だろう。デジタル時代のたまものであるが、製作側のこだわりには驚きを超えて感心するばかり。その努力と技術の結実を体験するだけでも一見の価値がある。

 主人公を演じるジョージ・マッケイは今年28歳を迎えるイギリス人俳優。『はじまりへの旅』(2016)や『マローボーン家の掟』(2017)などの佳作で注目を集めている若手だが、多くの一般観客にとってはまだまだ無名の存在。コリン・ファースやベネディクト・カンバーバッチといった有名人をわずかな登場にとどめる仕掛けも含め、娯楽性よりも現実感を重視したということなのだろう。一方で、劇中にはトーマス・ニューマンによる劇音楽も相応に盛られている。真に生々しい現実感を創出させるのであれば下手に音楽など入れない方が得策だろう。しかし、メンデスは音楽で娯楽面での「呼吸」機能を捨てなかった。しかも、映画の導入部の風景とエンディングのそれを、まるで韻を踏むかのように共通させた。その平衡感覚や映像的詩情をどう考えるかも、この映画を鑑賞する上での一興となるに違いない。

 2月14日(金)全国ロードショー
原題:1917 / 製作年:2019年 / 製作国:イギリス・アメリカ合作 / 上映時間:119分 / 配給:東宝東和 / 監督・脚本・製作:サム・メンデス / 出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングほか
公式サイトはこちら
OPカードで「1917 命をかけた伝令」をおトクに鑑賞できます

「TOHOシネマズ海老名」で映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)1981 AUSTRIAN FILM DISTRIBUTION COMPANY. All Rights Reserved.
WARDRAMA
タイトル 誓い
(原題:Gallipoli)
製作年 1981年
製作国 オーストラリア
上映時間 111分
監督 ピーター・ウィアー
出演 メル・ギブソン、マーク・リー、ビル・カー、ロバート・クラブ、デヴィッド・アーギュ、ティム・マッケンジー、ビル・ハンター

伝令を描いたオーストラリア映画とサム・メンデスの資質

 伝令を描いた名作となれば、オーストラリア映画『誓い』(1981)にとどめを刺す。メル・ギブソン、マーク・リーという当時の有望若手、新人俳優を主演に迎えた同作品は、1915年、連合軍によるトルコ・ガリポリ半島上陸作戦に参戦したオーストラリア軍の悲劇を描いたもの。陸上競技会で知り合った俊足の青年ふたりが軽騎兵に憧れて入隊。ガリポリでの激戦地で無茶な突撃を敢行しようとする上官の指令を阻止するべく、伝令として最後のチャンスにかける。

 これが初の戦争体験となったオーストラリア軍(ニュージーランド遠征軍との合同組織でアンザックと称される)は、それまでの「純粋」をこの戦いで喪失したといわれた。オーストラリアには4月25日にアンザック・デーと呼ばれる祝日があり、オーストラリアの学校では教材として授業で上映されているほど。その意味ではまさに国民的作品。衝撃的なラストに、少年たちは今も涙を流している。

 監督のピーター・ウィアーにとっても重要な作品で、後に『刑事ジョン・ブック 目撃者』(1985)、『いまを生きる』(1989)、『トゥルーマン・ショー』(1998)、『マスター・アンド・コマンダー』(2003)といった後のハリウッドでの成功への足がかりになった。この映画に今も熱い思いを持つメル・ギブソンは、メイキング素材の中で以下のように語っている。「オーストラリアを描いた映画に出られて誇りに思う。人を楽しませる映画が作れたら最高だ。教育できれば上出来。精神を向上させることができればもっといい。ピーターはその3つをこの映画でやり遂げたんだ」。

 日本では1982年3月に公開されており、ピーター・ウィアーという監督を紹介する最初の機会となった。これを機に『キラーカーズ パリを食べた車』(1974)、『ピクニック at ハンギング・ロック』(1975)、『ザ・ラスト・ウェーブ』(1977)といった初期カルト作品が続々と紹介されている。いずれも、この映像作家のひとところに留まらぬ才能を確認できる作品群だけに一度は目にしておきたいところ。

 転じて、サム・メンデスという映画監督に目を向けるなら、出世作『アメリカン・ビューティー』(1999)をはじめ、『ジャーヘッド』(2005)、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008)と、どこか独特の目線で現実を浮き彫りにする作品が目につく。同時に、『007/スペクター』(2015)では冒頭部分に冒険的な長回しのアクション描写が用意されており、今から思えば『1917 命をかけた伝令』(2019)の映像技術的伏線ともなっている部分だろう。そのふたつの作家的資質がにじんだ現時点での集大成的な作品が『1917 命をかけた伝令』と考えても悪くない。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

OPカード会員ならmusic.jpで「あわせて観たい」の作品をおトクに視聴できます

OPカードがあれば最新映画や単館系話題作がおトクに楽しめます

TOHOシネマズ海老名

映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

ユナイテッドシネマ

OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

新宿シネマカリテ

当日券窓口でOPカードをご提示いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学生、短大生、大学院生、大学生)200円引きとなります。

新宿武蔵野館

当日券窓口でOPカードをご提示いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学生、短大生、大学院生、大学生)200円引きとなります。

music.jp800「OPカード特別コース」