特集・コラム

映画のとびら

2020年3月6日

ジュディ 虹の彼方に|映画のとびら #050

#050
ジュディ 虹の彼方に
2020年3月6日公開


© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
ジュディ 虹の彼方に レビュー
47歳で世を去ったハリウッド女優の人生を思う

 往年の名女優にして名歌手ジュディ・ガーランド(1922-1969)の晩年の日々を描く人間ドラマ。タイトルロールを務めたレネー・ゼルウィガーが第92回アカデミー賞で主演女優賞を獲得している。

 7歳で歌手デビュー後、13歳でMGM社と専属契約を結び、17歳時に『オズの魔法使』(1939)のドロシー役で世界的認知を得たガーランドだったが、その芸能人生は順風満帆のまま過ぎることはなかった。少女時代からやせ薬を会社から飲まされ続けた結果、薬物依存となり、精神疾患まで患うと、数度にわたる自殺未遂まで起こしてしまう。『スタア誕生』(1954)でアカデミー賞主演女優賞候補、『ニュールンベルグ裁判』(1961)で助演女優賞候補になるも、女優業は徐々に破綻。歌手としてもカーネギーホールでのライブ盤でグラミー賞2冠を制覇するも、病から脱出することはかなわず、表舞台から撤退。借金がかさんだ揚げ句、持ち家まで失って、最後にはドサ回りにも近い歌手活動だったという。

 この映画では、そんなガーランドの最晩年に当たる1968~1969年、ロンドンのキャバレー・クラブでの歌手活動の日々を描いている。ピーター・キルターによる戯曲『End of the Rainbow』(2005年、オーストラリアで初演)を下敷きに、当時ガーランドの世話係を務めていたロザリン・ワイルダーの証言も反映させて、全体を新たに構成した。

 バイオグラフィーをひも解けば、どこまでも暗く切ない人生が浮き彫りにされるガーランドで、劇中でもMGM時代の過酷な生活が回想として刻まれるが、とはいえ陰鬱な描写だけに終わっているわけではない。どの時代においても彼女が苦境からはい上がろうとしていたのは事実で、その象徴としてロンドンにおけるキャバレー・クラブ「トーク・オブ・ザ・タウン」での公演にスポットが当てられたのだろう。

 わが子からも引き離され、なんとか再起にかけようとする彼女は、確かに痛々しく、切ない。治らない遅刻グセ、抜けきらないステージに立つ不安。でも、歌いたい。喝采を浴びたい。女性としての情念をあふれさせながら、芸能人としての矜持、業を背負ったその姿は、素直に一般観客の胸を打つだろう。とりわけ、ガーランドと観客が一体となるラストのステージ場面にはもらい泣きすること請け合いである。

 映画としては一種の「難病もの」としてカテゴライズすることもでき、その意味でもレネー・ゼルウィガーの熱演がオスカー獲得に結びついたのは理解しやすいところ。事前に訓練を重ねたという歌唱場面も堂に入っている。また、ガーランドが実はゲイの人々から親しみの感情を持って迎えられていたという事実を、この映画で知る向きも多いのではないか。思えば、ガーランドの娘ライザ・ミネリの元夫ピーター・アレン(1944-1992)もゲイであり、彼の生涯を彼の創作した楽曲を交えて描いたミュージカル戯曲『ボーイ・フロム・オズ』(2003年、オーストラリアで初演)にはガーランドの別の姿が刻まれている。また、三谷幸喜の作、戸田恵子の出演・歌唱による舞台『虹のかけら もうひとりのジュディ』(2018/2019)などはガーランドそのものを描いたわけではないが、一種のオマージュとしてガーランドの生涯を見渡している部分がある。彼女の出演映画ともども、あわせて参考にしたいところだ。

 果たして、ジュディ・ガーランドはエンタテインメント界で消費されただけの人だったのか、それともその才能を彼女なりに生かそうとした努力の人だったのか。この映画は後者の方向での視点に立っているが、どう彼女をとらえるかは観客の自由。ひとりの女優/歌手の生涯を考える好機として推奨しておきたい。

 3月6日(金)全国ロードショー
原題:Judy / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:118分 / 配給:ギャガ / 監督:ルパート・グールド / 出演:レネー・ゼルウィガー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル、ジェシー・バックリー、マイケル・ガンボン ほか
公式サイトはこちら
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あわせて観たい!おすすめ関連作品

(C)2020「弥生、三月」製作委員会
DRAMA
タイトル 弥生、三月 -君を愛した30年-
製作年 2020年
製作国 日本
上映時間 109分
配給 東宝
監督・脚本 遊川和彦
出演 波瑠、成田凌、杉咲花、岡田健史、小澤征悦、黒木瞳
公式サイト https://yayoi-movie.jp/

3月20日より全国東宝系にてロードショー

30年に及ぶ恋物語の行方に人生を思う

 人生を考えるという意味では、こちらの作品を試してみるのも面白いだろう。

 『家政婦のミタ』(2011)、『過保護のカホコ』(2017)などの人気テレビドラマで知られる脚本家・遊川和彦の長編映画監督第2作。お互いに惹かれ合いながらも、すれ違いを繰り返す男女の30年に及ぶ絆を描くラブストーリー。主人公のふたりに波瑠と成田凌。彼らと仲のいい同級生に杉咲花。

 題名に刻まれる「弥生」は、波瑠演じるヒロインの名前であり、そのまま「3月」という暦の意も兼ねる。30年という歳月が流れる作品だが、描かれるのは3月のみというのが構成上の大きな特徴。季節的な定点観測を試みた作品ともいえるだろうか。主人公カップルの主だった3月の風景、事件が手堅く積み重ねられ、ほどよく笑いの要素を交えつつ、やがて確かな感情的クライマックスをかなえていく。

 舞台となるのは1986~2020年の日本。恋物語としてのサイズは小さいが、時間の流れは大河ドラマ級。大きな「人生」という枠組みで恋愛が語られており、学園ドラマ的な軽めの男女の物語と早合点して接すると、その息の長いドラマ展開に驚かされるかも。当然、時代的には東日本大震災をめぐるドラマも含まれた。そこにはやはり、今年65歳を迎えるベテラン脚本家ならではの太く安定した目線があり、どちらかといえば40代以降の観客の方が物語を身近に感じ、男女の真情に素直に心が動かされるのではないか。一方で、16歳から50歳までを演じているのはすべて波瑠と成田凌。映像的、キャラクター的に若い観客がとっつきにくさを覚えることもないだろう。語り口もどこまでも平易である。少なくとも、いくつになろうと恋愛をめぐる思いは若い頃のまま、という意味においては、表現に違和感や無理はない。

 出演者たちによる歌唱で物語が締めくくられるあたりに、遊川の長編監督デビュー作『恋妻家宮本』(2017/阿部寛、天海祐希主演)を連想する観客も多いだろう。脚本家としてのみならず、映画監督としての遊川和彦の作劇嗜好を考える上でも、見ておきたい一本である。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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