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映画のとびら

2020年10月10日

82年生まれ、キム・ジヨン|映画のとびら #081

#081
82年生まれ、キム・ジヨン
2020年10月9日公開


© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved
『82年生まれ、キム・ジヨン』レビュー
何がジヨンに起こったか?

 母国韓国で130万部、日本でも16万部を売ったチョ・ナムジュのベストセラー小説を映画化。気づかぬうちに心の病を負っていた若い主婦の回復を描く。主人公キム・ジヨンを演じるチョン・ユミと夫デヒョン役のコン・ユは、『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)に続く3度目の共演。監督は、これが長編劇映画デビュー作となる元女優のキム・ドヨン。

 主婦キム・ジヨン(チョン・ユミ)は、2歳になる娘アヨン(リュ・アヨン)の世話で落ち着かない毎日。優しい夫デヒョン(コン・ユ)が気遣って、「正月は釜山への帰省をやめて旅行に行こうか」と提案しても、「義母に責められるのは私だから」と、これを却下。しかし、案の定、デヒョンの実家では料理作りを義母に押しつけられ、洗い物をデヒョンが手伝おうとすると、これまた義母が嫌みをこぼす。緊張のためか、眠りも浅い。すると翌日、デヒョンの姉夫婦が訪れた団欒(だんらん)の席で、いきなり義母に対して冷静な口調で語り始めた。「奥さん、うちのジヨンを実家に帰してください。私も娘に会いたい。義姉の料理までさせられてジヨンが気の毒です」。それは、まるでジヨンの母親(キム・ミギョン)の口調とそっくりだった。そればかりではない。再就職を希望するジヨンに体調を気遣ったデヒョンが反対の異を唱えると、ジヨンは「ジヨンは気持ちが焦っているの。ご苦労さま、ありがとうと言ってあげて」と語り始める。その話しぶりはすでにこの世を去った友人スンヨンのそれと酷似していた。妻のただならぬ様子に、デヒョンは精神科医を受診するよう進言。しかし、ジヨンは高額の治療代を聞くや、すぐに診察をやめてしまう。

 精神科医によるレポート形式で妻のこれまでの歩みが紹介される原作に対して、映画版では妻、及び彼女を支える夫の日常ドラマとしてこれを改案、脚色している。無論、多重人格者のお話ではない。多重人格の症状は恐怖映画ばりに観客をギョッとさせるが、劇中では「憑依」という表現で片付けられており、ここではどうやら病の一環に過ぎない様子。では、なぜそんな奇行を起こすような病気を背負ってしまったのか。夫はしきりに産後や育児の「うつ」を叫ぶが、映画はそれに簡単に「イエス」を下さない。代わりに、幼少期から成人に至るまでに降りかかった主人公の「受難」をドラマの端々に詰め込んでいく。過去の描写は回想の形で随所に織り込まれ、原作の要素を可能な限り漏らしていない。

 主人公の受難、と記したが、キム・ジヨンが体験するそれは、どれも女性をめぐる普遍的な社会問題である。通学時の痴漢行為、厳格な父親からの抑圧、姑(しゅうとめ)による嫌がらせ、職場での女性蔑視&パワ-ハラスメント、トイレの盗撮、見知らぬ他人からの中傷、などなど。いわば世に生きる女性すべての苦悩とストレスを一身に背負っている象徴的存在がキム・ジヨンであり、それほど日常的に女性は危険と不平等にさらされているとのメッセージがこの物語の根幹としていい。はじめに問題意識ありき。そこから逆算して設定&構成された節も多分にあるだろう。その意味では、実に今日的な題材の作品であると同時に、これまでになく濃厚で鋭利な「女性映画」だともいっていい。

 根深い病に冒された1982年生まれの主人公を、1983年生まれのチョン・ユミが好演。その等身大のたたずまいは魅力的で、中でもベランダでジヨンが物思いにふけるシーン。劇中で何度となく登場する同場面でチョン・ユミが淡々と重ねていく表情の変化は決して見逃してはならない。彼女に何が起こったのか、彼女の何が変わったのか。そんな「ドラマ」の起伏がささやかに、的確にここに刻まれている。この映画は単なる女性万歳のアドバルーンなどに終わっていない。チョン・ユミのジヨンがそれを教えてくれる。

 10月9日(金)全国ロードショー
原題::82년생 김지영 / 製作年:2019年 / 製作国:韓国 / 上映時間:118分 / 配給:クロックワークス / 監督:キム・ドヨン / 出演:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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