特集・コラム

映画のとびら

2021年7月9日

ファイナル・プラン|映画のとびら #126

#126
ファイナル・プラン
2021年7月16日公開


©2019 Honest Thief Productions, LLC
『ファイナル・プラン』レビュー
恋におちたリーアム・ニーソン

 リーアム・ニーソンが元爆破強盗を演じるアクション。例によって、ほぼ代役を使わず、激しいスタントを演じてスリリングな気分を味わわせてくれる。監督、プロデュース、脚本の三役を兼ねたのは、これが『ファミリー・マン ある父の決断』(2016)に続く監督第2作にして、ニーソンと初顔合わせとなったマーク・ウィリアムズ。新作『Blacklight』(2021)でもニーソンとタッグを組んでいる。

 トム・カーター(リーアム・ニーソン)に人生の節目が訪れていた。7年で七つの州の12の銀行で強盗を重ねてきた彼は、とある街で立ち寄ったレンタル倉庫の会社で大学院に通いながら働く女性と運命的な出会いを果たす。その彼女アニー(ケイト・ウォルシュ)と打ち解けたトムは1年ほど交際を続けたが、真っ当な結婚生活を送るために過去を清算することを決断。連邦捜査局(FBI)に連絡して、自首することを告げる。盗んだお金はすべて返還する。その代わりに、刑期は2年未満、ボストン近郊の刑務所に服役すること。それが条件だった。この連絡を受けたFBI捜査官のマイヤーズ(ジェフリー・ドノヴァン)とベイカー(ロバート・パトリック)はいつものイタズラだと一笑に付し、若い同僚のニベンス(ジェイ・コートニー)とホール(アンソニー・ラモス)にトムの住むホテルに向かわせる。しかし、トムが本物の「爆破強盗」だと知ったニベンスは欲に目がくらみ、トムに銃を向けたばかりか、アニーにまで手をかけようとする。怒りに震えるトムは海兵隊時代に習得した爆破技術を手に、反撃に転じるのだった。

 原題は「誠実なる盗人」の意。そう、いい人のお話なのである。銀行強盗を重ねた過去はあるが、それを精算して再起をはかろうとした。しかし、本来、法を守るべき立場の連邦捜査官が道を踏み外す。正義の逆転である。観客は自ずと主人公に同情し、共感して、物語の行方を見守る。一方、捜査官の転落は残酷な行為に発展するが、血も涙もない極悪人にまでは落とさない。そのさじ加減も独特の味わいを醸した。キリキリと胃の痛くなるようなアクション描写にとらわれることなく、随所に人間的な温もりをにじませる。そんな演出の配慮が、ついには殺人の汚名を着せられた主人公の名誉挽回の機会を優しく弾ませた。そもそも、リーアム・ニーソンに悪役の過去や影があっただろうか。ほとんど、ない。この俳優は常に信念の人であり、正しい道を歩もうとする道徳の人の印象であった。だから、偉人の仕事も多い。転じてそれが泥棒の設定のもとにあらためて打ち出される人間ドラマであった、とも解釈できる。

 リーアム・ニーソンの激しいスタントだけを目当てにしてはいけない。もちろん、アクション描写はふんだんに盛り込まれているが、ほかのニーソン作品と大きく異なるのは、ドラマの基点が恋愛感情にあることだろう。運命の人に出会えたことで、主人公はすさんでいた心から解放された。罰を受ける覚悟をした。家族愛で突っ走る『96時間』三部作(2008-2014)とはもちろん違う。息子愛を描く『ラン・オールナイト』(2015)や『スノー・ロワイヤル』(2019)とも異なる。恋人を悪漢から守ろうとする『ダークマン』(1990)の方がまだ近い。いや、正真正銘のラブロマンス劇『哀愁のメモワール』(1993)まで、この際、キャリアをさかのぼるべきだと叫ぶファンもいるかもしれない。あるいは、私生活の妻ナターシャ・リチャードソンをスキー事故で失っている過去がよりその手の浪漫度を高めている節があるとも考えられるだろうか。いずれにしても、全編にめぐらされた主人公の恋慕の感情がニーソンの体を通して作品の後味に至るまでしみこんでいることを確認する必要はあるだろう。いうなれば「恋におちたリーアム・ニーソン」である。惚れた女のために人生をきれいにしたかった。そんな男の物語に惚れた。ラスト、引きの画に映るニーソンの後ろ姿に、どうしようもないほどに詩情が漂うのはもはや当然の結果である。

 先述のとおり、アクションにも手を抜いている気配はない。今年69歳。古希を目前にして、リーアム・ニーソンは恋にもバトルにも堂々たる「現役」であった。それがまぶしい。それがうれしい。

 2021年7月16日(金)全国ロードショー
原題:Honest Thief / 製作年:2020年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:98分 / 配給:ハピネットファントム・スタジオ / 監督:マーク・ウィリアムズ / 出演:リーアム・ニーソン、ケイト・ウォルシュ、ジェフリー・ドノヴァン、ジェイ・コートニー、アンソニー・ラモス
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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