特集・コラム

映画のとびら

2021年8月6日

サマーフィルムにのって|映画のとびら #129

#129
サマーフィルムにのって
2021年8月6日公開


© 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
『サマーフィルムにのって』レビュー
セオリーからはずれてこそ青春

 自主映画制作にかける高校生たちの恋と友情を描く青春映画。時代劇フリークのヒロインに元乃木坂46メンバーの伊藤万理華。監督はCM、MVの分野で活躍し、これが初の長編映画演出となる松本壮史。

 映画部に所属する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は不満を募らせていた。部内では同級生の花鈴(甲田まひる)が監督を務める恋愛映画『大好きってしかいえねーじゃん』にばかり投票が集中し、自身が提案した時代劇『武士の青春』は袖にされ、結局、高校最後の文化祭では花鈴の作品が制作・上映されることが決まったからだ。そんなハダシの心の慰みは、放課後、親友のビート板(河井優実)、ブルーハワイ(祷キララ)と隠れ家で過ごす時間。そこで勝新太郎、市川雷蔵ら、大好きな時代劇スターの話題に花を咲かせ、古い時代劇を見るのが日課だった。そんなある日、とある名画座で時代劇欲を満たしていたハダシは、上映後、客席で涙を流しているひとりのハンサムな青年に目がとまる。彼、凛太郎(金子大地)こそは自作の主人公・猪太郎のイメージにドンピシャの男だった。渋る凛太郎をなんとか説得したハダシは、部活外での映画制作を決意。花鈴の映画打倒を目指して、文化祭でのゲリラ上映をもくろむのだった。

 物語は、監督の松本、及び彼と長くタッグを組んでいる劇団「ロロ」主宰の三浦直之によるオリジナル。トーンとしては喜劇で、芝居の表現など、それに輪をかけてコミック調。しかも、予想外ともいうべきSF要素が加わって、ファンタジーの気分も漂い出すというキテレツ展開。クライマックスなど、舞台でいうところの屋台崩しにも似て、時代劇愛はもとより、タイムパラドックス的にもこの着地はどうなの? という意外性の連続。『桐島、部活やめるってよ』(2012)のようなほろ苦い学園ものを期待していると当てがはずれるだろう。それでいて、鑑賞後には得も言われぬ壮快感が迫ってくる。その不思議。

 伊藤万理華が素晴らしい。場面によって品のないイモ女に映ったかと思えば、次の瞬間、可憐な女子高生美人に転じる変化ぶりはただごとではなく、どの瞬間からも目を離すことができない。そもそも、松本&三浦のコンビが以前に仕事を共にした伊藤を念頭に脚本を進めており、つまりは当て書きの物語なのだが、彼らにしても想定以上の成果を見たのではないのか。彼女のキャラクターがすべてを凌駕している気分もあり、その意味ではもはやアイドル映画。彼女の存在ひとつでどんな疑問も消える。ラストの暴走も許せる。観客同様、世の多くの演出家にとっても「女優・伊藤万理華」発見の場になっているのではないか。

 アイドル映画の軸で見るなら、ハダシの親友役を務める河井優実、祷キララの魅力もほとばしっており、草彅剛主演の『台風家族』(2019)で映画デビューし、これが映画出演第2作となる花鈴役・甲田まひるもキラキラ女子を嫌みなく見せる。女性観客なら凛太郎役の金子大地に目を留めていい。『猿楽町で会いましょう』(2021)への主演で注目されている新進俳優だが、同じ事務所に所属する小関勇太を連想させる容貌を持つ「アミューズ系美男子」として、ここでもいい雰囲気。いい雰囲気といえば、猪太郎の相棒剣士役で登場する板橋駿谷はNHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019)以来、最新作『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル』(2021)に至るまで、三十路も半ばなのになぜか高校生役で人気の人。お笑い担当としてここでも周囲の輝ける青春群像を引き立てた。

 ラストの「急展開」を含め、良識派の映画ファン、時代劇ファンには一蹴される、もしくは不興を買う可能性もあるSF風味の学園恋愛劇は、同時にイマドキの軽さ、紋切り型のドラマ構成を破壊する活力にあふれている。この映画は、通り一遍のラストで収まらない。しかし、思えばセオリーからはずれてこそ青春。古い枠組みを超え、無軌道の若いエネルギーがさわやかに映える瞬間はいつもまぶしい。

 8月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
原題:サマーフィルムにのって / 製作年:2020年 / 製作国:日本 / 上映時間:97分 / 配給:ハピネットファントム・スタジオ / 監督:松本壮史 / 出演:伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ、小日向星一、池田永吉、篠田諒、甲田まひる、ゆうたろう、篠原悠伸、板橋駿谷
公式サイトはこちら
OPカードで『サマーフィルムにのって』をおトクに鑑賞できます

「新宿武蔵野館」の当日券窓口でOPカードをご提示いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


OPカードがあれば最新映画や単館系話題作がおトクに楽しめます

TOHOシネマズ海老名

映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

イオンシネマ

OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

新宿シネマカリテ

当日券窓口でOPカードをご提示いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

新宿武蔵野館

当日券窓口でOPカードをご提示いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

music.jp800「OPカード特別コース」